27 / 46
27 過去の話
しおりを挟む
ララが少しだけ肩を竦めてから話し始めた。
「この子の本当の名前はティナリア・アントレットで、21番目の王女です。19番目の王女であるマリアーナ様がエクス元侯爵に売られる時、身代わりで嫁いだのです。ティナリアは側妃の宮で亡くなったことになっています」
「ではマリアーナ王女は亡くなったってこと?」
「いいえ、生きてますよ。もう結婚もして子供もおられます」
「じゃあティアナちゃんは死んだことになって、代わりに結婚したの?損した感じだね」
「いいえ、むしろ得してますよ。この家は母の実家なのですが、住む人も無くてボロボロだったのをここまで直して下さいましたし、嫁ぎ先からも逃がしてくれました。私は王女なんて辞めたかったので、平民になれて大満足なんです。それに生活費としてかなりのお金も戴きましたから、こんな原価計算もしないような商売ができるんです。あのままでいたら、私は餓死していたかもしれません」
「餓死? 王女様が? 意味不明だな。それにしてもよくエクス家から逃げられたね」
ララが言う。
「私が囮で残りましたからね。あのおじいちゃんは趣味に生きる人だったので、二人合わせると2年以上は元侯爵の妻をやりましたが、顔を合わせるのは朝食の時だけで、廊下ですれ違っても声もかけられません。その代わり品位維持費は弾んでくれますから貯蓄し放題ですよ。おいしい仕事でした」
キースが目を丸くしている。
「ああ……なるほど。それがこの前のララ発言の理由か」
「そうです。彼女はエクス元侯爵との婚姻届けにサインをしただけで、私は彼の死亡診断書に確認サインをしただけですよ」
「ああ、亡くなっちゃったんだ」
「ええ、爵位は息子さんが継いでますし、何人目かの継母であるマリアーナは、自分の子供より年下でしたからね。死亡と同時に縁切りですよ」
「なんだか凄い話だね」
ティアナが頷いた。
「そうですね。自分から願い出たことですから、ある程度の覚悟はしていたのですが、全く嫌な思いはしなかったです。ずっとララが一緒にいてくれましたし。毎日草ばかり食べていたあの頃に比べたら楽園でしたよ」
「腹違いの姉の代理で年寄りのところに嫁いで楽園とは……いったいそれまでどんな暮らしをしていたの?」
ティアナは森に囲まれた宮で暮らしていた頃の話をした。
掃除や洗濯は自分たちでやったこと、週に一度届く食材で母が料理を教えてくれたこと。
母がなくなり林の中に一人で埋葬したことや、食材が来なくなって困り果てたことも、隠さず全てを話す。
「なるほど、それでお隣に行ったんだ」
「ええ、最初はメイドか下働きに雇ってもらえないかと思って行ったのです」
「それでラブシーンを目撃したわけだ」
「そして足をひねっちゃって、あれよあれよという間にって感じです」
「聞いてるだけならとても面白いけれど、本人は必死だったろうね」
「そりゃ必死でしたよ。でもずっとララが一緒にいてくれるから心強かったです」
二人がララの顔を見た。
「私は自分の主に命じられたので同行しただけですよ。でもこのお嬢さんったら、どこか抜けているのに、腹を括るのだけはとても早いんです。もう見ていて楽しくて、つい肩入れしちゃうんですよね」
「ああ、わかる」
キースとウィスが一緒に声に出した。
ウィスが言う。
「最初に会った時なんて、目をキラキラさせてさぁ。財布を握ってきょろきょろしてるんだもん。後ろにスリがいるのも気付いてないし。心配になるような子だったよ」
キースが続ける。
「私が出会ったときもそうさ。質の悪そうな男の中に突っ込んでいくんだから、つい助けちゃうよね。見ず知らずの他人の代わりに攫われそうになってるんだもん。焦ったよ」
三人が楽しそうにティアナの話をしている。
ティアナは今この瞬間も夢なのではないかと思った。
キースの横顔を盗み見ているティアナを、ララとウィスがニヤニヤと見ているのにも気付いてはいない。
「この子の本当の名前はティナリア・アントレットで、21番目の王女です。19番目の王女であるマリアーナ様がエクス元侯爵に売られる時、身代わりで嫁いだのです。ティナリアは側妃の宮で亡くなったことになっています」
「ではマリアーナ王女は亡くなったってこと?」
「いいえ、生きてますよ。もう結婚もして子供もおられます」
「じゃあティアナちゃんは死んだことになって、代わりに結婚したの?損した感じだね」
「いいえ、むしろ得してますよ。この家は母の実家なのですが、住む人も無くてボロボロだったのをここまで直して下さいましたし、嫁ぎ先からも逃がしてくれました。私は王女なんて辞めたかったので、平民になれて大満足なんです。それに生活費としてかなりのお金も戴きましたから、こんな原価計算もしないような商売ができるんです。あのままでいたら、私は餓死していたかもしれません」
「餓死? 王女様が? 意味不明だな。それにしてもよくエクス家から逃げられたね」
ララが言う。
「私が囮で残りましたからね。あのおじいちゃんは趣味に生きる人だったので、二人合わせると2年以上は元侯爵の妻をやりましたが、顔を合わせるのは朝食の時だけで、廊下ですれ違っても声もかけられません。その代わり品位維持費は弾んでくれますから貯蓄し放題ですよ。おいしい仕事でした」
キースが目を丸くしている。
「ああ……なるほど。それがこの前のララ発言の理由か」
「そうです。彼女はエクス元侯爵との婚姻届けにサインをしただけで、私は彼の死亡診断書に確認サインをしただけですよ」
「ああ、亡くなっちゃったんだ」
「ええ、爵位は息子さんが継いでますし、何人目かの継母であるマリアーナは、自分の子供より年下でしたからね。死亡と同時に縁切りですよ」
「なんだか凄い話だね」
ティアナが頷いた。
「そうですね。自分から願い出たことですから、ある程度の覚悟はしていたのですが、全く嫌な思いはしなかったです。ずっとララが一緒にいてくれましたし。毎日草ばかり食べていたあの頃に比べたら楽園でしたよ」
「腹違いの姉の代理で年寄りのところに嫁いで楽園とは……いったいそれまでどんな暮らしをしていたの?」
ティアナは森に囲まれた宮で暮らしていた頃の話をした。
掃除や洗濯は自分たちでやったこと、週に一度届く食材で母が料理を教えてくれたこと。
母がなくなり林の中に一人で埋葬したことや、食材が来なくなって困り果てたことも、隠さず全てを話す。
「なるほど、それでお隣に行ったんだ」
「ええ、最初はメイドか下働きに雇ってもらえないかと思って行ったのです」
「それでラブシーンを目撃したわけだ」
「そして足をひねっちゃって、あれよあれよという間にって感じです」
「聞いてるだけならとても面白いけれど、本人は必死だったろうね」
「そりゃ必死でしたよ。でもずっとララが一緒にいてくれるから心強かったです」
二人がララの顔を見た。
「私は自分の主に命じられたので同行しただけですよ。でもこのお嬢さんったら、どこか抜けているのに、腹を括るのだけはとても早いんです。もう見ていて楽しくて、つい肩入れしちゃうんですよね」
「ああ、わかる」
キースとウィスが一緒に声に出した。
ウィスが言う。
「最初に会った時なんて、目をキラキラさせてさぁ。財布を握ってきょろきょろしてるんだもん。後ろにスリがいるのも気付いてないし。心配になるような子だったよ」
キースが続ける。
「私が出会ったときもそうさ。質の悪そうな男の中に突っ込んでいくんだから、つい助けちゃうよね。見ず知らずの他人の代わりに攫われそうになってるんだもん。焦ったよ」
三人が楽しそうにティアナの話をしている。
ティアナは今この瞬間も夢なのではないかと思った。
キースの横顔を盗み見ているティアナを、ララとウィスがニヤニヤと見ているのにも気付いてはいない。
40
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
あなたより年上ですが、愛してくれますか?
Ruhuna
恋愛
シャーロット・ロックフェラーは今年25歳を迎える
5年前から7歳年下の第3王子の教育係に任命され弟のように大事に大事に接してきた
結婚してほしい、と言われるまでは
7/23 完結予定
6/11 「第3王子の教育係は翻弄される」から題名を変更させて頂きました。
*直接的な表現はなるべく避けておりますが、男女の営みを連想させるような場面があります
*誤字脱字には気をつけておりますが見逃している部分もあるかと思いますが暖かい目で見守ってください
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
恋の締め切りには注意しましょう
石里 唯
恋愛
侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。
幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。
最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。
そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、
「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。
その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる