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34 罠 

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 昨夜の打ち合わせ通り、朝一番でクレマンに連絡をとった。
 お昼過ぎにやってきた彼は、二人から話を聞き何度も頷きながら口を開く。

「要するにグルー商会の娘とサムという男性を離婚させたいわけですね?」

「そういうことです。ただし後腐れの無いようにしないといけないわ」

「商会をつぶすのは簡単ですが、従業員たちのいますからね。できればその我儘な娘だけがいなくなるというのがベストです。それには少々細工が要りますね」

「ええ。銀行の方から攻めていこうかと思うの。どうかしら」

「グッドチョイスです。この件に関しましてはサミュエル様にも報告をしておきましょう。期限はありますか?」

「早い方が良いけれど、それより重要なのは二度と関わってこないようにすることだわ」

「なるほど、そちらを優先ですね。了解しました。明日また伺います」

 そう言うとクレマンはにこやかに去って行った。

「では私たちもできるところからやりましょうか」

 ティアナとララは立ち上がり店を出た。
 並んで歩きながら、ティアナがララに話しかける。

「ララはもう雑貨屋さんの購入手続きはしたの?」

「したわ。ぜんぜん値切ってないのに安くしてくれるから恐縮しちゃった」

「改装も必要よね」

「エクス元侯爵の特殊趣味は絶対に親族には内緒だったから、亡くなる前に全てのドレスを処分する必要があったのよ。それで同じ趣味仲間に売りさばいて、アクセサリー類はその時の妻が所有していたということにしたの。だからそちらはあなたの貸金庫に入れてある」

「私の? 貴方のものにすればいいじゃない」

「私はドレス代だけで十分よ。仲間にした執事にも口止め料として少し渡したけれど、大半は手元にあるわ。遺産分与をって言われたけれど、さすがに申し訳ないかなって思ったから固辞したの。逆に感謝してくれたわよ」

「そうね、なんだか悪いような気もするけれど」

「別に良いんじゃない?」

 話している金額がひとつの商会を揺るがすほどのものであることを除けば、年頃の娘が楽しそうに会話をしているようにしか見えない。

「ああ、ここみたいよ」

 二人はグルー商会のショウルームに到着した。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 ララが口を開く。

「ええ、プレゼントを探しに来たの。友人に聞いてきたのだけれど、サムという方を呼んでいただける?」

 店員が怪訝な顔で二人を見る。

「ねえ、あなた。聞いているの?」

 店員が鼻で嗤うような話し方をした。

「ああ、聞いていますよ。申し訳ありませんが、若旦那さんは今席を空けています。どういったご用件かは存じませんが、どうせ昔のお知り合いか何かなのでしょう? あの頃のお知り合いの方達とのご交流は若奥様をお通ししなくてはいけにことになっておりますので」

「そうなの。あの頃って? ああ、その若奥さんと結婚する前ってこと? それなら問題ないわ。私たちはサムっていう方と会ったことも無いのだから。友人の紹介だと言ったでしょう? 良いから早く呼んできなさいな。後悔することになるわよ?」

「何を偉そうに。あなた達の服装を見れば、どのくらいの身分なのかわかりますよ。お引き取り下さい」

「あら、困りましたね。どうします? お嬢様」

 ティアナが頬に手を当てる。

「本当に困りましたね。でももうすぐ友人たちが来るはずでしょう? 少し待たせてもらいましょうか?」

 店員が眉間に皺を寄せて大きな声を出した。

「何が友人だ! お前たちのような平民風情がグルー商会で買い物をするなど烏滸がましいんだよ! とっとと帰ってくれ!」

「それはサムさんのご意向? それとも……」

 ララがそこまで言った時、店の扉が開いた。

「私の意向ではございません」

 地味な色合いだが、仕立ての良いスーツを着た美丈夫が立っていた。

「あなたがサムさん?」

「はい、私がサムです。私に御用ですか?」

「ええ、そのつもりで来たのだけれど、この店員さんが……」

 ララが店員を見る。

「この者が失礼を致しました」

 サムが丁寧に頭を下げると、店員が横から口を挟んだ。

「あなたは黙っていてください。私は若奥さんからこの店を任されているんだ。偉そうな口をききやがって。この件は若奥様に報告するからな!」

「それはいい。必ず報告しなさい」

 四人が振り返ると帝国銀行の頭取が立っていた。
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