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36 罠3

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1話ずつといいつつ 2話投稿設定にしたままでした。
どうりで少ないストックが みるみる減っていくはずです。
当面の間、1日1話投稿とします。
お騒がせしました~



「こちらのお二人は資産家でいらっしゃいますよ。お二人の機嫌を損ねて我が銀行に預けて下さっている資産を引き上げられてしまうと、私の首だけでは収まらないほどの打撃となるでしょう。まあその話は横に置いておいたとしても、私個人としてお手伝いしたいと考えています」

「あの……お二方はいったい……」

 ララが表情も変えずに言った。

「彼女はマリアーナ・アントレット。前王19番目の王女であり、ランドル・エクス元侯爵の未亡人です。とは言っても、今は王宮に戻ることを拒否するため、ティアナという名前の平民として暮らしています。私は王女殿下のメイドとして、婚姻からずっとご一緒させて戴いている者ですわ」

 ティアナが口を挟む。

「とは言っても、彼女の資産は私以上です。エクス侯爵から膨大な謝礼を渡されていますからね」

 ララがティアナに言う。

「あら、あなたはまだ自分の資産を把握していないの? 私の倍はあるわよ?」

「え? そうなの? 知らなかった……」

 ニコニコしながら二人の顔を見ている頭取に、サムが聞いた。

「今の話は本当ですか?」

「ええ、本当ですよ。マリアーナ様の母上は隣国のオース伯爵家です。かのオース商会はマリアーナ様を全面的に支援し、その後ろ盾として如何なることでもなさるでしょう」

「そんな……凄い方とは……大変失礼いたしました。オース商会を敵に回した瞬間にグルー商会など吹っ飛ぶことでしょうね」

 ララがサムに言う。

「それを踏まえてもう一度言います。私たちはあなたを助けることができます。どうしますか? 覚悟を決めるなら今ですよ」

 サムがきゅっと口を引き結んでから頷いた。

「私は……シェリーを愛しています。シェリーが脅迫されることなく、安全に暮らせるならなんだってします。そのために望まない結婚までしたのですから、もう怖いものはありませんよ。命を差し出しても良い程度の覚悟はできています」

「それを聞いて安心しました。では計画をお話ししますね」

 ララが鞄からメモを取り出した。

「まず、帝国銀行さんからグルー商会へ取引停止の通達を出してもらいます。理由は頭取への暴言です。頭取が紹介した客にあのような態度をとったのです。当然でしょう? ああそれと、先ほど明かした私たちの身分は絶対的な秘密です。これはトマスさんもシェリーさんも知りませんし、今後も明かすことはありません。あなたに信用してもらうために伝えたのですから、あなたもそのおつもりで」

 サムが真剣な顔で頷いた。

「絶対に漏らすことはありません。例えそれがトマスであってもシェリーであっても同じです。この身を賭して誓います」

「それで結構です。もし破られたらそれなりの報復をする手段を持っていることを、ご理解しておられるのですから無駄な心配はしません」

 ララは常に平常心だ。

「その後、資金繰りに困ったあなたの奥さんは、あなたにどうにかしろと命じるでしょう。それとも商会長はまだ権限を握っていますか?」

「いいえ、義父は病床にあります。もう意識も無く実質的な商会長はキャサリンですよ」

「そうですか、それはお気の毒に」

 まったく気にもしていないララ。

「キャサリンさんの命令に従うとしたら、あなたはどこを廻りますか?」

 サムは暫し考えてから言った。

「グルー商会の主要取引先は王都銀行ですが、他にも二社ほどお付き合いがあります。東国銀行とミッド銀行です。ご存じの通りミッド銀行はオース商会様と同じ隣国の銀行です」

「なるほど、東国銀行とミッド銀行ですね」

 頭取が声を出した。

「そこなら問題ないですよ。というより王国中の銀行はどこも何もしないでしょう。ミッド銀行はオース家のものです。ここが噂を流すはずです」

「なるほど、クレマンが動いてくれるのですね?」

 サムが驚いた顔をした。

「あのクレマン支店長様が、直接動くとは……なんというか驚きすぎて声も出ません」

 今度はティアナが驚く。

「え? クレマンってそんなに凄い人なんですか? まあ、めちゃオーラがあるなぁとは思っていたのですが……今までちょっと失礼だったかしら」

 ララが返事をする。

「良いんじゃない? 本人も喜んでいたし、サミュエル様公認だもの」

「なんか……ついていけない……」

 サムが頭を抱えた。
 頭取がサムの肩に手を置いて呟いた。

「お気持ちはわかります。私も最初はそうでした」

 ララが続ける。

「まあ結論から言うと、銀行からの資金調達はできません。そこであなたは副商会長に『無理だ』と報告してください。後は何を言われても『やることは全部やった』で押し切ってくださいね。そこで『クビよ!』とか『離婚よ!』とか言われたら、喜んで出て行っちゃっても構いませんから」

「わかりました」

「そうなると、銀行からの返済に困った彼女は闇金に手を出すはずです。これは商会長でないと無理なので、実質的な長である自分が動くしかありません」

 サムが頷く。

「ええ、そうでしょうね」

「そこが狙い目です。商会は潰れかけているので、闇金はキャサリン個人との取引を持ちかけます。借りるのも返すのも個人の責任という形でしか取引に応じません」

 サムが不思議な顔をする。

「どうして言い切れるのですか? 資金調達ができなくなったとはいえ、グルー商会もそれなりの信用は持っています」

「大丈夫です。それほどの資金提供ができる闇金は、この国に一社しかありません。そして私がそこのオーナーですから」

 三人が一斉にララを見た。
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