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40 進みゆく計画
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「私個人になら貸すの? 保証人はサムでいい?」
「君の夫じゃダメだ。夫婦で逃げられたら終わりだもの。保証人はいらないよ。その代わり担保を出してくれ」
「担保? 何を出せば良いの?」
「君の家屋敷と商会の支店全部の権利書」
「それは……」
「返す自信があるのだろう? だったら問題ないじゃないか。こちらはあくまでも取りはぐれたときの保険として要求しているんだ。返すなら何も問題ない。とは言っても、短期融資だと言ったね。どのくらいの期間を考えているのかな?」
「1年よ」
「長いな……半年なら融資しよう。それに古い付き合いだ。特別に最初のひと月は利息だけ払えばいい。後は半年後に元金とそれまでの利息を一括で払うというのはどう? これなら資金繰りも随分楽になるだろうし」
「半年後の一括払いで、最初の月だけ利息を払う……いいの? とても助かるわ」
サムはギュッと目を瞑った。
キャサリンが罠に嵌った瞬間だ。
「キャサリン、もう一度よく考えて。それほどの額が必要かい?」
サムは良心の呵責に耐えかねて、一度だけ助け舟を出した。
「何もできない能無しは黙っていなさい! 借りることができるのは私よ? あなたは保証人にさえなれないのよ?」
サムがギュッと唇を嚙んだ。
「おいおい、自分の夫に対する言葉じゃないねぇ。まったくこんな女性のどこが良くて結婚したんだ? 体か? 金か?」
キャサリンがフンと鼻を鳴らした。
「この男はその両方にも興味が無いわ。ちょっと見目が良いからって絆された私は大損よ」
「なら手放してやればいい」
ケインも一度だけ助け舟を出すことにした。
「冗談じゃないわ! 夫として使えないなら商品として使うわよ。サム目当てでうちと取引している貴族夫人の相手でもさせてやるわ」
サムが大きなため息を吐き、ケインが眉間に皺を寄せた。
「そう言うことならもう何も言うまい。金は明日にでも用意しよう。契約書にサインをしたら銀行に……ああ、銀行はダメか。現金で渡してやるよ」
「ええ、お願いね。私は家の権利書と支店全部の権利書を用意しておくわ」
ケインは立ち上がってキャサリンと握手した。
「サムさん、思い残すことなく頑張ってくれ」
サムが頷いて言った。
「ええ、今の言葉で最後の鎖も切れましたよ。心置きなくやらせてもらいます」
事情が分かっている二人の会話など聞く耳も持たず。キャサリンは資金が調達できたことに有頂天になっている。
「ではまた明日」
「ええ、どうぞよろしくお願いします」
ケインと一緒にサムは部屋を出て行った。
サムに会釈をして商会を出たケインは、王都広場前の市場通りに来た。
チラッとティアナの店に視線を投げて、道路向かいの店に入る。
その入り口には『Sold Out』の文字が大きく貼られ、店内の家具は運び出されていた。
「あら。いらっしゃい。手伝いに来てくれたの?」
ララの声が奥から聞こえた。
「手伝うわけ無いだろうが。報告に来ただけさ」
「猫は袋に入ったのでしょう?」
「ああ、まだ口も明けていないのに自分で入っていったよ」
「猫につかまっていたネズミは素直に従ったのかしら」
「いや、一度だけだが手を差し伸べたな。まあ、それを言うなら俺もだが」
「すべて順調に予想通りって感じね。あなたが躊躇したのは意外だったけれど」
ララの声にフンと鼻を鳴らすケイン。
「予定通り進めるでいいな?」
「ええ、よろしくね」
ケインはその返事を聞くと、のそっと外に出た。
もうすぐ日が傾き始めるのだろう。
西の空がやけに明るい。
「さて、飯でも食って帰るとするか」
ケインの呟きは誰の耳にも届いていなかった。
「誰か来てたのかい?」
ウィスの声だ。
花まつりに合わせて新装開店を目指している。
「うん、チョットした昔の知り合いよ。頼んでいたことの報告に来てくれたの。それより水場はどう?」
花屋にとって水回りは最も大切なものだ。
「問題ないよ。ただ少し狭いから水槽を広げてもらうことにした。今あるものの回りを壊すだけだからすぐにできるってさ」
「そこができれば後は問題ないわね。二階は?」
「住居は問題ないさ。ついこの前まで人が住んでいたんだもの。後は僕の荷物を運びこむのと、ベッドの大きいのを買わないとね」
ララが困ったような顔をした。
「別に大きくなくても良いんじゃない?」
「ダメさ。僕には夢があるんだ。君と二人で眠るベッドが、いつかは子供と三人のベッドになって、四人になって……それくらいの大きさが必要だよ」
「部屋が一つ潰れてしまうわ」
「良いじゃないか。あと10年くらいはそれで十分だよ。10年も経てばここではないところに小さな家を買おう。そして家族で暮らすんだ」
「家を買う? それは相当頑張らないとね?」
「ああ、頑張るよ。少し遠くても配達に行くつもりだ。もっとお客様を増やしてお金を貯める。家はぜったに僕のお金で買うんだ」
ララが少し俯いた。
「頑張ろうね、ウィス」
「うん、頑張るよ。ララ、愛してるよ」
ウィスの家族増加計画は順調に進みそうな気配だ。
「君の夫じゃダメだ。夫婦で逃げられたら終わりだもの。保証人はいらないよ。その代わり担保を出してくれ」
「担保? 何を出せば良いの?」
「君の家屋敷と商会の支店全部の権利書」
「それは……」
「返す自信があるのだろう? だったら問題ないじゃないか。こちらはあくまでも取りはぐれたときの保険として要求しているんだ。返すなら何も問題ない。とは言っても、短期融資だと言ったね。どのくらいの期間を考えているのかな?」
「1年よ」
「長いな……半年なら融資しよう。それに古い付き合いだ。特別に最初のひと月は利息だけ払えばいい。後は半年後に元金とそれまでの利息を一括で払うというのはどう? これなら資金繰りも随分楽になるだろうし」
「半年後の一括払いで、最初の月だけ利息を払う……いいの? とても助かるわ」
サムはギュッと目を瞑った。
キャサリンが罠に嵌った瞬間だ。
「キャサリン、もう一度よく考えて。それほどの額が必要かい?」
サムは良心の呵責に耐えかねて、一度だけ助け舟を出した。
「何もできない能無しは黙っていなさい! 借りることができるのは私よ? あなたは保証人にさえなれないのよ?」
サムがギュッと唇を嚙んだ。
「おいおい、自分の夫に対する言葉じゃないねぇ。まったくこんな女性のどこが良くて結婚したんだ? 体か? 金か?」
キャサリンがフンと鼻を鳴らした。
「この男はその両方にも興味が無いわ。ちょっと見目が良いからって絆された私は大損よ」
「なら手放してやればいい」
ケインも一度だけ助け舟を出すことにした。
「冗談じゃないわ! 夫として使えないなら商品として使うわよ。サム目当てでうちと取引している貴族夫人の相手でもさせてやるわ」
サムが大きなため息を吐き、ケインが眉間に皺を寄せた。
「そう言うことならもう何も言うまい。金は明日にでも用意しよう。契約書にサインをしたら銀行に……ああ、銀行はダメか。現金で渡してやるよ」
「ええ、お願いね。私は家の権利書と支店全部の権利書を用意しておくわ」
ケインは立ち上がってキャサリンと握手した。
「サムさん、思い残すことなく頑張ってくれ」
サムが頷いて言った。
「ええ、今の言葉で最後の鎖も切れましたよ。心置きなくやらせてもらいます」
事情が分かっている二人の会話など聞く耳も持たず。キャサリンは資金が調達できたことに有頂天になっている。
「ではまた明日」
「ええ、どうぞよろしくお願いします」
ケインと一緒にサムは部屋を出て行った。
サムに会釈をして商会を出たケインは、王都広場前の市場通りに来た。
チラッとティアナの店に視線を投げて、道路向かいの店に入る。
その入り口には『Sold Out』の文字が大きく貼られ、店内の家具は運び出されていた。
「あら。いらっしゃい。手伝いに来てくれたの?」
ララの声が奥から聞こえた。
「手伝うわけ無いだろうが。報告に来ただけさ」
「猫は袋に入ったのでしょう?」
「ああ、まだ口も明けていないのに自分で入っていったよ」
「猫につかまっていたネズミは素直に従ったのかしら」
「いや、一度だけだが手を差し伸べたな。まあ、それを言うなら俺もだが」
「すべて順調に予想通りって感じね。あなたが躊躇したのは意外だったけれど」
ララの声にフンと鼻を鳴らすケイン。
「予定通り進めるでいいな?」
「ええ、よろしくね」
ケインはその返事を聞くと、のそっと外に出た。
もうすぐ日が傾き始めるのだろう。
西の空がやけに明るい。
「さて、飯でも食って帰るとするか」
ケインの呟きは誰の耳にも届いていなかった。
「誰か来てたのかい?」
ウィスの声だ。
花まつりに合わせて新装開店を目指している。
「うん、チョットした昔の知り合いよ。頼んでいたことの報告に来てくれたの。それより水場はどう?」
花屋にとって水回りは最も大切なものだ。
「問題ないよ。ただ少し狭いから水槽を広げてもらうことにした。今あるものの回りを壊すだけだからすぐにできるってさ」
「そこができれば後は問題ないわね。二階は?」
「住居は問題ないさ。ついこの前まで人が住んでいたんだもの。後は僕の荷物を運びこむのと、ベッドの大きいのを買わないとね」
ララが困ったような顔をした。
「別に大きくなくても良いんじゃない?」
「ダメさ。僕には夢があるんだ。君と二人で眠るベッドが、いつかは子供と三人のベッドになって、四人になって……それくらいの大きさが必要だよ」
「部屋が一つ潰れてしまうわ」
「良いじゃないか。あと10年くらいはそれで十分だよ。10年も経てばここではないところに小さな家を買おう。そして家族で暮らすんだ」
「家を買う? それは相当頑張らないとね?」
「ああ、頑張るよ。少し遠くても配達に行くつもりだ。もっとお客様を増やしてお金を貯める。家はぜったに僕のお金で買うんだ」
ララが少し俯いた。
「頑張ろうね、ウィス」
「うん、頑張るよ。ララ、愛してるよ」
ウィスの家族増加計画は順調に進みそうな気配だ。
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