7 / 20
6
しおりを挟む
南門の前に並んだ数十人の領民たちが命がけで訴えています。
「殿様、お願いでございます。このままでは儂ら百姓は年貢を納めることもできず、町の者らも食う米がありません。水害にやられてしまい貯えももはやございません」
「殿様、この度の年貢を取られたら儂らはみな飢え死にです。殿様と神様におすがりするしかありません。どうかご慈悲を」
泣き叫び口々に悲惨な現状を訴えますが、門番に阻まれてその声は城内には届きません。
七緒は南門の櫓の上からその様子を見ておりました。
ぼろ布のような着物を体に張り付けた子供が一人、精一杯の声で叫びます。
「おいらの父ちゃんも母ちゃんも、死んでしまいました。水害で食う物が無くなって……せめて今度の豊穣祭事に来てくれませんか。おいらたちの苦しみを知ってくれませんか」
流した涙の跡でしょうか、泥だらけの顔には泥の筋がこびりついています。
「ええい、黙らんか!」
門番は非常にもその子を六角房で打ち据えました。
「ひ、酷でぇ! 子供になんて惨いことを!」
農民たちはその門番と、覆いかぶさるように建つ城を睨みつけます。
七緒はたまらず駆けだし、今にも襲い掛かりそうな民たちの前で叫びました。
「みなの者、私は城主・神崎光成が娘、七緒である。そなたらの訴えは確かに聞いた。私が豊穣祭に参ると約束しよう。そして、拙くはあるが豊穣を願い、舞をささげると誓う。だからこの度は収めてはくれまいか? 父の耳には必ずこの七緒が届けよう」
いきり立っていた農民たちは姫である七緒の言葉に落ち着きを取り戻します。
「姫様が……もったいないお言葉でございます。よくわかりました。豊穣祭での姫様の舞を心よりお待ちしております」
そういうと領民たちはバラバラと解散していきました。
「領民達よ……明日は行けぬかもしれん。申し訳ないことじゃ……領主の娘たる私が大切な領民との約束を違えてしまうとは……情ない……情ないぞ」
その時でした。
光の無い天窓に格子が、揺らめくように赤く染まっています。
何事かと凝視する七緒を包み込みように、四方から煙が入ってきました。
「これはなんじゃ! まさか、火事か」
たちまち充満していく煙に咽返る七緒。
「誰か! 誰かある! ここから出せ!」
苦しそうに声を上げても返事は返ってきません。
牢の格子は叩いてもびくともせず、煙はますます濃くなって、とうとう息を吸うことも叶わない状態になってきました。
「だ……誰か……おらぬのか」
そう言ったきり意識を手放してしまった七緒。
あっという間に紅蓮の炎が東丸を飲み込みました。
そして七緒は何が起きたのかさえ知らぬまま、炎に包まれてしまったのです。
七緒の話を黙って聞いていた小春は、その悲惨な光景を浮かべて恐怖で座り込んでしまいました。
「そんな……そんなことがあるなんて。酷すぎるよ」
「ああ、理不尽この上ない話じゃ。じゃがな、今となっては何が起こったのか、私には知る由もない。私は何の咎で焼け死なねばならなかったのじゃろうな」
七緒の問いに答えることなど、小春に出来るはずもありません。
「わからない……わからないけど酷すぎるよ。なんで誰も助けに来てくれなかったの」
「ああ、私もそこが不思議でならぬ。しかし閉じ込められたまま死んでしもうた私にもわからぬままじゃ。私は見捨てられたのか? 父上や城下の者たちはどうなったのか」
「私には……分かるわけ無いよ」
「ならば、解き明かせ! 私の代わりに事実を調べてくれ!」
そう言うなり七緒は真っ赤な光になって小春の中に入っていきました。
七緒が入った瞬間、胸のあたりがズシンと重くなります。
そして頭の中に七緒の声が響きました。
「さあ、これでお前は私となった。さあ、参るぞ」
小春は七緒に憑りつかれてしまったのです。
「殿様、お願いでございます。このままでは儂ら百姓は年貢を納めることもできず、町の者らも食う米がありません。水害にやられてしまい貯えももはやございません」
「殿様、この度の年貢を取られたら儂らはみな飢え死にです。殿様と神様におすがりするしかありません。どうかご慈悲を」
泣き叫び口々に悲惨な現状を訴えますが、門番に阻まれてその声は城内には届きません。
七緒は南門の櫓の上からその様子を見ておりました。
ぼろ布のような着物を体に張り付けた子供が一人、精一杯の声で叫びます。
「おいらの父ちゃんも母ちゃんも、死んでしまいました。水害で食う物が無くなって……せめて今度の豊穣祭事に来てくれませんか。おいらたちの苦しみを知ってくれませんか」
流した涙の跡でしょうか、泥だらけの顔には泥の筋がこびりついています。
「ええい、黙らんか!」
門番は非常にもその子を六角房で打ち据えました。
「ひ、酷でぇ! 子供になんて惨いことを!」
農民たちはその門番と、覆いかぶさるように建つ城を睨みつけます。
七緒はたまらず駆けだし、今にも襲い掛かりそうな民たちの前で叫びました。
「みなの者、私は城主・神崎光成が娘、七緒である。そなたらの訴えは確かに聞いた。私が豊穣祭に参ると約束しよう。そして、拙くはあるが豊穣を願い、舞をささげると誓う。だからこの度は収めてはくれまいか? 父の耳には必ずこの七緒が届けよう」
いきり立っていた農民たちは姫である七緒の言葉に落ち着きを取り戻します。
「姫様が……もったいないお言葉でございます。よくわかりました。豊穣祭での姫様の舞を心よりお待ちしております」
そういうと領民たちはバラバラと解散していきました。
「領民達よ……明日は行けぬかもしれん。申し訳ないことじゃ……領主の娘たる私が大切な領民との約束を違えてしまうとは……情ない……情ないぞ」
その時でした。
光の無い天窓に格子が、揺らめくように赤く染まっています。
何事かと凝視する七緒を包み込みように、四方から煙が入ってきました。
「これはなんじゃ! まさか、火事か」
たちまち充満していく煙に咽返る七緒。
「誰か! 誰かある! ここから出せ!」
苦しそうに声を上げても返事は返ってきません。
牢の格子は叩いてもびくともせず、煙はますます濃くなって、とうとう息を吸うことも叶わない状態になってきました。
「だ……誰か……おらぬのか」
そう言ったきり意識を手放してしまった七緒。
あっという間に紅蓮の炎が東丸を飲み込みました。
そして七緒は何が起きたのかさえ知らぬまま、炎に包まれてしまったのです。
七緒の話を黙って聞いていた小春は、その悲惨な光景を浮かべて恐怖で座り込んでしまいました。
「そんな……そんなことがあるなんて。酷すぎるよ」
「ああ、理不尽この上ない話じゃ。じゃがな、今となっては何が起こったのか、私には知る由もない。私は何の咎で焼け死なねばならなかったのじゃろうな」
七緒の問いに答えることなど、小春に出来るはずもありません。
「わからない……わからないけど酷すぎるよ。なんで誰も助けに来てくれなかったの」
「ああ、私もそこが不思議でならぬ。しかし閉じ込められたまま死んでしもうた私にもわからぬままじゃ。私は見捨てられたのか? 父上や城下の者たちはどうなったのか」
「私には……分かるわけ無いよ」
「ならば、解き明かせ! 私の代わりに事実を調べてくれ!」
そう言うなり七緒は真っ赤な光になって小春の中に入っていきました。
七緒が入った瞬間、胸のあたりがズシンと重くなります。
そして頭の中に七緒の声が響きました。
「さあ、これでお前は私となった。さあ、参るぞ」
小春は七緒に憑りつかれてしまったのです。
4
あなたにおすすめの小説
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる