一人芝居

志波 連

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 そして8月最初の日曜日。
 西浦地区会館にはたくさんの住民が詰めかけています。

 秋葉中学演劇部の夏の発表会は、住民達が楽しみにしているイベントのひとつで、生徒たちの演劇を観てから盆踊りに行くというのが、地区住民の夏の恒例行事なのです。
 多くの視線が集まる中、演劇部員たちの舞台が始まりました。
 中学生たちの熱演に、観客たちも引き込まれていきます。

「ありがとうございました」

 演じ終えた部員たちが舞台に並び、英子が大きな声で観客にお礼を言いました。
 ずっと頑張ってきた生徒たちへ、賞賛の拍手が鳴りやみません。
 一度幕が閉じ、再び舞台に照明が当たりました。

「ご来場の皆さん、本日はありがとうございます」

 舞台の袖から出てきた顧問の五辻先生の声に、会場が静まります。
 来賓席に座る町内会長たちや市長も舞台に視線を戻しました。

「私たちが暮らすこの秋葉地区には、とても悲しい歴史があります」

 落ち着いた声で話し始めた五辻先生は、過去に秋葉で起こった惨劇を語り、これから演じられる舞踊劇がどういうものかを説明します。

「これから演じますのは、弟スサノオの所業に怒った姉アマテラスが、天岩戸に隠れてしまい太陽の光が無くなった時の話です。光を失い穀物は育たなくなってしまいます。困り果てたて人間たちは、高天原一番の舞の名手『アメノウズメ』の舞に全てを託すことにしました」

 五辻先生の語り口調が観客を引き込んでいきます。

「自分が天岩戸に入ったというのに、何やら外で騒がしい声がします。何事かと岩戸を開けたアマテラス。その瞬間、光が大地を照らし、枯れかけていた作物も育ち始めるという話です。アマテラスが顔を出すきっかけとなった『アメノウズメ』の舞は、五穀豊穣の舞とされ、その昔から民たちに希望を与え続けてきました」

 一礼した五辻先生が袖に引き、舞台中央に一筋スポットが当たります。
 その光の束の中に立っているのは、巫女の衣裳に身を包んだ小春でした。

 厳かに舞い始める小春。
 音楽もセリフもなにもなく、ただただ祈るように舞い続けます。
 その荘厳な姿に、観客は固唾を飲んで見守りました。
 観客の中にいた町内会長夫人と謡の師匠が驚いたように声を出します。

「これぞ『七緒舞』の神髄……凄いわ……凄すぎる」

 袖から舞台を見守っていた部長の英子と主役の美衣が顔を見合わせました。

「これは、私たちが知ってる小春じゃないわ」

「なぜかしら……心が洗われていくような不思議な気分よ」

 真剣な目で小春を見つめる市長が独り言を呟きました。

「すごいわ……なんと言うか、命を賭けたような祈りを感じるわ。あの子は一人芝居だと言っていたけれど、私には二人に見える……ああ、あれが七緒姫なのね」

 大勢の観客の後ろには、青白い炎がいくつも立ちのぼっていました。
 それはきっと、あの時命を奪われた民や家臣たちの魂なのでしょう。

 その舞によって無念を晴らしたのか、ひとつまたひとつと青白い炎が天に向かって飛び去って行きます。
 最後に残ったひときわ大きな炎が大きく揺らめきました。

『七緒……見事じゃ』

『ち、父上!』

『我が最愛の娘、七緒。お前は自慢の娘じゃ』

 その炎は一瞬だけまばゆい光を放ち、静かに飛び去って行きました。
 舞が終わり、舞台中央に立つ小春は大きく息を弾ませています。
 数秒の静寂の後、割れんばかりの拍手が巻き起こりました。

『小春、礼を申す。なにもかもお前のおかげじゃ。ありがとう』

『ううん、私は七緒に操られただけ。全部七緒の努力の成果だよ』

『お前は謙虚な娘じゃな。今こそ約束の礼をしようぞ』

 七緒の言葉が脳内に聞こえた瞬間、舞台の上で小春は崩れ落ちるように倒れました。
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