18 / 20
17
しおりを挟む
そして8月最初の日曜日。
西浦地区会館にはたくさんの住民が詰めかけています。
秋葉中学演劇部の夏の発表会は、住民達が楽しみにしているイベントのひとつで、生徒たちの演劇を観てから盆踊りに行くというのが、地区住民の夏の恒例行事なのです。
多くの視線が集まる中、演劇部員たちの舞台が始まりました。
中学生たちの熱演に、観客たちも引き込まれていきます。
「ありがとうございました」
演じ終えた部員たちが舞台に並び、英子が大きな声で観客にお礼を言いました。
ずっと頑張ってきた生徒たちへ、賞賛の拍手が鳴りやみません。
一度幕が閉じ、再び舞台に照明が当たりました。
「ご来場の皆さん、本日はありがとうございます」
舞台の袖から出てきた顧問の五辻先生の声に、会場が静まります。
来賓席に座る町内会長たちや市長も舞台に視線を戻しました。
「私たちが暮らすこの秋葉地区には、とても悲しい歴史があります」
落ち着いた声で話し始めた五辻先生は、過去に秋葉で起こった惨劇を語り、これから演じられる舞踊劇がどういうものかを説明します。
「これから演じますのは、弟スサノオの所業に怒った姉アマテラスが、天岩戸に隠れてしまい太陽の光が無くなった時の話です。光を失い穀物は育たなくなってしまいます。困り果てたて人間たちは、高天原一番の舞の名手『アメノウズメ』の舞に全てを託すことにしました」
五辻先生の語り口調が観客を引き込んでいきます。
「自分が天岩戸に入ったというのに、何やら外で騒がしい声がします。何事かと岩戸を開けたアマテラス。その瞬間、光が大地を照らし、枯れかけていた作物も育ち始めるという話です。アマテラスが顔を出すきっかけとなった『アメノウズメ』の舞は、五穀豊穣の舞とされ、その昔から民たちに希望を与え続けてきました」
一礼した五辻先生が袖に引き、舞台中央に一筋スポットが当たります。
その光の束の中に立っているのは、巫女の衣裳に身を包んだ小春でした。
厳かに舞い始める小春。
音楽もセリフもなにもなく、ただただ祈るように舞い続けます。
その荘厳な姿に、観客は固唾を飲んで見守りました。
観客の中にいた町内会長夫人と謡の師匠が驚いたように声を出します。
「これぞ『七緒舞』の神髄……凄いわ……凄すぎる」
袖から舞台を見守っていた部長の英子と主役の美衣が顔を見合わせました。
「これは、私たちが知ってる小春じゃないわ」
「なぜかしら……心が洗われていくような不思議な気分よ」
真剣な目で小春を見つめる市長が独り言を呟きました。
「すごいわ……なんと言うか、命を賭けたような祈りを感じるわ。あの子は一人芝居だと言っていたけれど、私には二人に見える……ああ、あれが七緒姫なのね」
大勢の観客の後ろには、青白い炎がいくつも立ちのぼっていました。
それはきっと、あの時命を奪われた民や家臣たちの魂なのでしょう。
その舞によって無念を晴らしたのか、ひとつまたひとつと青白い炎が天に向かって飛び去って行きます。
最後に残ったひときわ大きな炎が大きく揺らめきました。
『七緒……見事じゃ』
『ち、父上!』
『我が最愛の娘、七緒。お前は自慢の娘じゃ』
その炎は一瞬だけまばゆい光を放ち、静かに飛び去って行きました。
舞が終わり、舞台中央に立つ小春は大きく息を弾ませています。
数秒の静寂の後、割れんばかりの拍手が巻き起こりました。
『小春、礼を申す。なにもかもお前のおかげじゃ。ありがとう』
『ううん、私は七緒に操られただけ。全部七緒の努力の成果だよ』
『お前は謙虚な娘じゃな。今こそ約束の礼をしようぞ』
七緒の言葉が脳内に聞こえた瞬間、舞台の上で小春は崩れ落ちるように倒れました。
西浦地区会館にはたくさんの住民が詰めかけています。
秋葉中学演劇部の夏の発表会は、住民達が楽しみにしているイベントのひとつで、生徒たちの演劇を観てから盆踊りに行くというのが、地区住民の夏の恒例行事なのです。
多くの視線が集まる中、演劇部員たちの舞台が始まりました。
中学生たちの熱演に、観客たちも引き込まれていきます。
「ありがとうございました」
演じ終えた部員たちが舞台に並び、英子が大きな声で観客にお礼を言いました。
ずっと頑張ってきた生徒たちへ、賞賛の拍手が鳴りやみません。
一度幕が閉じ、再び舞台に照明が当たりました。
「ご来場の皆さん、本日はありがとうございます」
舞台の袖から出てきた顧問の五辻先生の声に、会場が静まります。
来賓席に座る町内会長たちや市長も舞台に視線を戻しました。
「私たちが暮らすこの秋葉地区には、とても悲しい歴史があります」
落ち着いた声で話し始めた五辻先生は、過去に秋葉で起こった惨劇を語り、これから演じられる舞踊劇がどういうものかを説明します。
「これから演じますのは、弟スサノオの所業に怒った姉アマテラスが、天岩戸に隠れてしまい太陽の光が無くなった時の話です。光を失い穀物は育たなくなってしまいます。困り果てたて人間たちは、高天原一番の舞の名手『アメノウズメ』の舞に全てを託すことにしました」
五辻先生の語り口調が観客を引き込んでいきます。
「自分が天岩戸に入ったというのに、何やら外で騒がしい声がします。何事かと岩戸を開けたアマテラス。その瞬間、光が大地を照らし、枯れかけていた作物も育ち始めるという話です。アマテラスが顔を出すきっかけとなった『アメノウズメ』の舞は、五穀豊穣の舞とされ、その昔から民たちに希望を与え続けてきました」
一礼した五辻先生が袖に引き、舞台中央に一筋スポットが当たります。
その光の束の中に立っているのは、巫女の衣裳に身を包んだ小春でした。
厳かに舞い始める小春。
音楽もセリフもなにもなく、ただただ祈るように舞い続けます。
その荘厳な姿に、観客は固唾を飲んで見守りました。
観客の中にいた町内会長夫人と謡の師匠が驚いたように声を出します。
「これぞ『七緒舞』の神髄……凄いわ……凄すぎる」
袖から舞台を見守っていた部長の英子と主役の美衣が顔を見合わせました。
「これは、私たちが知ってる小春じゃないわ」
「なぜかしら……心が洗われていくような不思議な気分よ」
真剣な目で小春を見つめる市長が独り言を呟きました。
「すごいわ……なんと言うか、命を賭けたような祈りを感じるわ。あの子は一人芝居だと言っていたけれど、私には二人に見える……ああ、あれが七緒姫なのね」
大勢の観客の後ろには、青白い炎がいくつも立ちのぼっていました。
それはきっと、あの時命を奪われた民や家臣たちの魂なのでしょう。
その舞によって無念を晴らしたのか、ひとつまたひとつと青白い炎が天に向かって飛び去って行きます。
最後に残ったひときわ大きな炎が大きく揺らめきました。
『七緒……見事じゃ』
『ち、父上!』
『我が最愛の娘、七緒。お前は自慢の娘じゃ』
その炎は一瞬だけまばゆい光を放ち、静かに飛び去って行きました。
舞が終わり、舞台中央に立つ小春は大きく息を弾ませています。
数秒の静寂の後、割れんばかりの拍手が巻き起こりました。
『小春、礼を申す。なにもかもお前のおかげじゃ。ありがとう』
『ううん、私は七緒に操られただけ。全部七緒の努力の成果だよ』
『お前は謙虚な娘じゃな。今こそ約束の礼をしようぞ』
七緒の言葉が脳内に聞こえた瞬間、舞台の上で小春は崩れ落ちるように倒れました。
9
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
この町ってなんなんだ!
朝山みどり
児童書・童話
山本航平は両親が仕事で海外へ行ってしまったので、義父の実家に預けられた。山間の古風な町、時代劇のセットのような家は航平はワクワクさせたが、航平はこの町の違和感の原因を探そうと調べ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる