お覚悟のほどはよろしくて?

志波 連

文字の大きさ
64 / 70

64 決戦前夜

しおりを挟む
 そして明日は満月という夜、騎士達を集めたレオが叫ぶように言った。

「明日は決戦だ。泣いても笑っても明日が最後と覚悟を決めよう。無駄に命を散らすな。できるなら生きて共に帰ろう。私は君たちと共に戦えたことを誇りに思う。君たちは最高の騎士だ。我々は絶対に勝つ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 全員が雄叫びを上げた。

「では明日の作戦を授ける」

 騎士達は二手に分かれて、三つのうちの両サイドの巣穴を囲むことになった。
 出てくる魔族を片っ端から切り捨てて、中央に集結できないようにするのだ。
 そしてシフォンが言った頭部が出るであろう中央の巣穴には、レオを先頭とする決死隊が向かうことになり、突撃時間は三か所同時の正午となった。

 ロビンの心臓を取り出すのは明朝と決まった。
 取り出す前においしいご飯が食べたいなどと冗談を飛ばしているロビンの手は微かに震えている。

「魔消し薬を先に使おう。いくら膨れすぎたと言っても絶対に効き目はある。頼むよ、プロント」

 シフォンの言葉を聴いたソフィアは、自分の至らなさに眩暈がする思いだった。
 魔消し薬をもって大悪魔に立ち向かうのはプロントなのだ。
 平然とした顔で役割をこなすシフォンとレモンにソフィアは深々と頭を下げた。

「おう、任しとけって。このために体力を温存してきたんだからな」

「父さん……ぎゅってして?」

「さあおいで、私の可愛いレモン。愛してるよ。ずっとずっと愛しているからね」

「うん、父さんも早く生まれ変わってね?」

「わかった。神様にお願いしてみるよ」

「私ね、生まれ変わった父さんと結婚するって決めてるの」

「ははは! それは嬉しいねぇ」

 シフォンが笑いながら二人の側へ行く。

「なんだい? ヤキモチが焼けるねぇ。あたしを捨てるのかい? プロント」

「何を言っているんだよ。捨てるわけないだろう?」

「ははは! ではレモンより先に見つけ出してまた結婚しようかねぇ」

 レモンがニコッと笑う。

「うん、だったらまた私を産んでね。今度は何が良いかなぁ。小鳥も楽しかったけれど、もう少し大きい方が便利かなぁ。泳げるお魚っていうのも楽しそうだね」

 親子三人が楽しそうに話している。
 振り返ったシフォンがソフィアの側に来た。

「あんたも覚悟を決めなよ? あんたの一番大切な物は消えてなくなるんだ」

 ソフィアが聞く。

「それが何かはわからないけれど、真実の瞳ではないの?」

「あれは発現するかどうか賭けみたいなものだからね。出れば最強の薬になるが、なくても薬はできる。しかし、ロビンの命は確実になくなるんだ。今のうちによく顔をみてやりな」

「ええ……そうね……」

「自分の一番大切な物は、自分では決められない。そういうものは失って初めてわかるのさ」

 ソフィアが頷いた。

「生きてさえいればいいわ。そう約束したの」

「そうか。まあお互い辛いことだ」

 ふと見ると、まだプロントとレモンはイチャついていた。
 いつの間にか側に来ていたレオが声を出す。

「大魔女殿……」

 シフォンがフッと笑う。

「大丈夫さ。プロントは強い男だ。レモンはそれ以上に強い。そして私はもっと強いんだ」

「ああ、そうだな。頭が下がるよ」

「あの人が突っ込んだら、一気にたたみ掛けて隙を作るよ。後はワンダが突っ込むだけだ」

「ワンドにも申し訳が無いよ」

「そう思うなら、奴に旨いものでも食わしてやってくれ。あいつは山鳩が好きなんだ」

「わかった。今日中に探して狩ってこよう」

「生き残るあんたが一番辛い思いをすることになるが……強い心を持ちな」

「ありがとう。必ずすべてを引き受けると約束しよう」

 シフォンがふとソフィアの顔を見た。

「あんたは何を失うのだろうね」

 ソフィアがレオの顔を見る。

「何を失うより、レオを失うのが一番怖いわ」

 レオが口を開くより早く後ろから声がした。

「お前は本当にクローバーと同じことを言うのだな」

 三人が振り返ると、緑の肌をした絶世の美女が立っている。

「ババ様!」

 ソフィアとシフォンが慌てて膝をつき、レオも慌てて頭を下げた。

「女王様。ご無沙汰しております」

「ああ、息災のようで何よりだ。今回が最後となるよう助力に来たぞ」

「心から感謝いたします」

「これをプロントに飲ませなさい」

 緑色の美女が丸薬をシフォンに渡した。

「これは?」

「我が命の雫じゃ」

「ありがとうございます」

「いよいよ総力戦じゃな」

 レオに向かって緑色の美女が声をかけた。

「はい、我が命に代えましても成し遂げる覚悟でございます」

「我に戦はできぬが、この地で命を落とした者たちの魂の安寧は引き受けよう。大悪魔が消滅した後の土地の浄化も任せておくが良い」

 レオが深々と頭を下げた。

「ババ様」

 ソフィアが駆け寄って抱きついた。

「おお、ソフィア。良い顔になったなぁ。レオとやら、なるほレナードによく似ておるわ。お前も覚悟を決めた顔をしておる」

「はい」

「良きかな」

 そう言うと緑色の美女が消えた。
 シフォンが呟くように言う。

「どれほどの力を使ったのだろうね。満月とはいえ、湖から出てここまで来るなど自殺行為だよ」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...