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64 決戦前夜
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そして明日は満月という夜、騎士達を集めたレオが叫ぶように言った。
「明日は決戦だ。泣いても笑っても明日が最後と覚悟を決めよう。無駄に命を散らすな。できるなら生きて共に帰ろう。私は君たちと共に戦えたことを誇りに思う。君たちは最高の騎士だ。我々は絶対に勝つ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
全員が雄叫びを上げた。
「では明日の作戦を授ける」
騎士達は二手に分かれて、三つのうちの両サイドの巣穴を囲むことになった。
出てくる魔族を片っ端から切り捨てて、中央に集結できないようにするのだ。
そしてシフォンが言った頭部が出るであろう中央の巣穴には、レオを先頭とする決死隊が向かうことになり、突撃時間は三か所同時の正午となった。
ロビンの心臓を取り出すのは明朝と決まった。
取り出す前においしいご飯が食べたいなどと冗談を飛ばしているロビンの手は微かに震えている。
「魔消し薬を先に使おう。いくら膨れすぎたと言っても絶対に効き目はある。頼むよ、プロント」
シフォンの言葉を聴いたソフィアは、自分の至らなさに眩暈がする思いだった。
魔消し薬をもって大悪魔に立ち向かうのはプロントなのだ。
平然とした顔で役割をこなすシフォンとレモンにソフィアは深々と頭を下げた。
「おう、任しとけって。このために体力を温存してきたんだからな」
「父さん……ぎゅってして?」
「さあおいで、私の可愛いレモン。愛してるよ。ずっとずっと愛しているからね」
「うん、父さんも早く生まれ変わってね?」
「わかった。神様にお願いしてみるよ」
「私ね、生まれ変わった父さんと結婚するって決めてるの」
「ははは! それは嬉しいねぇ」
シフォンが笑いながら二人の側へ行く。
「なんだい? ヤキモチが焼けるねぇ。あたしを捨てるのかい? プロント」
「何を言っているんだよ。捨てるわけないだろう?」
「ははは! ではレモンより先に見つけ出してまた結婚しようかねぇ」
レモンがニコッと笑う。
「うん、だったらまた私を産んでね。今度は何が良いかなぁ。小鳥も楽しかったけれど、もう少し大きい方が便利かなぁ。泳げるお魚っていうのも楽しそうだね」
親子三人が楽しそうに話している。
振り返ったシフォンがソフィアの側に来た。
「あんたも覚悟を決めなよ? あんたの一番大切な物は消えてなくなるんだ」
ソフィアが聞く。
「それが何かはわからないけれど、真実の瞳ではないの?」
「あれは発現するかどうか賭けみたいなものだからね。出れば最強の薬になるが、なくても薬はできる。しかし、ロビンの命は確実になくなるんだ。今のうちによく顔をみてやりな」
「ええ……そうね……」
「自分の一番大切な物は、自分では決められない。そういうものは失って初めてわかるのさ」
ソフィアが頷いた。
「生きてさえいればいいわ。そう約束したの」
「そうか。まあお互い辛いことだ」
ふと見ると、まだプロントとレモンはイチャついていた。
いつの間にか側に来ていたレオが声を出す。
「大魔女殿……」
シフォンがフッと笑う。
「大丈夫さ。プロントは強い男だ。レモンはそれ以上に強い。そして私はもっと強いんだ」
「ああ、そうだな。頭が下がるよ」
「あの人が突っ込んだら、一気にたたみ掛けて隙を作るよ。後はワンダが突っ込むだけだ」
「ワンドにも申し訳が無いよ」
「そう思うなら、奴に旨いものでも食わしてやってくれ。あいつは山鳩が好きなんだ」
「わかった。今日中に探して狩ってこよう」
「生き残るあんたが一番辛い思いをすることになるが……強い心を持ちな」
「ありがとう。必ずすべてを引き受けると約束しよう」
シフォンがふとソフィアの顔を見た。
「あんたは何を失うのだろうね」
ソフィアがレオの顔を見る。
「何を失うより、レオを失うのが一番怖いわ」
レオが口を開くより早く後ろから声がした。
「お前は本当にクローバーと同じことを言うのだな」
三人が振り返ると、緑の肌をした絶世の美女が立っている。
「ババ様!」
ソフィアとシフォンが慌てて膝をつき、レオも慌てて頭を下げた。
「女王様。ご無沙汰しております」
「ああ、息災のようで何よりだ。今回が最後となるよう助力に来たぞ」
「心から感謝いたします」
「これをプロントに飲ませなさい」
緑色の美女が丸薬をシフォンに渡した。
「これは?」
「我が命の雫じゃ」
「ありがとうございます」
「いよいよ総力戦じゃな」
レオに向かって緑色の美女が声をかけた。
「はい、我が命に代えましても成し遂げる覚悟でございます」
「我に戦はできぬが、この地で命を落とした者たちの魂の安寧は引き受けよう。大悪魔が消滅した後の土地の浄化も任せておくが良い」
レオが深々と頭を下げた。
「ババ様」
ソフィアが駆け寄って抱きついた。
「おお、ソフィア。良い顔になったなぁ。レオとやら、なるほレナードによく似ておるわ。お前も覚悟を決めた顔をしておる」
「はい」
「良きかな」
そう言うと緑色の美女が消えた。
シフォンが呟くように言う。
「どれほどの力を使ったのだろうね。満月とはいえ、湖から出てここまで来るなど自殺行為だよ」
「明日は決戦だ。泣いても笑っても明日が最後と覚悟を決めよう。無駄に命を散らすな。できるなら生きて共に帰ろう。私は君たちと共に戦えたことを誇りに思う。君たちは最高の騎士だ。我々は絶対に勝つ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
全員が雄叫びを上げた。
「では明日の作戦を授ける」
騎士達は二手に分かれて、三つのうちの両サイドの巣穴を囲むことになった。
出てくる魔族を片っ端から切り捨てて、中央に集結できないようにするのだ。
そしてシフォンが言った頭部が出るであろう中央の巣穴には、レオを先頭とする決死隊が向かうことになり、突撃時間は三か所同時の正午となった。
ロビンの心臓を取り出すのは明朝と決まった。
取り出す前においしいご飯が食べたいなどと冗談を飛ばしているロビンの手は微かに震えている。
「魔消し薬を先に使おう。いくら膨れすぎたと言っても絶対に効き目はある。頼むよ、プロント」
シフォンの言葉を聴いたソフィアは、自分の至らなさに眩暈がする思いだった。
魔消し薬をもって大悪魔に立ち向かうのはプロントなのだ。
平然とした顔で役割をこなすシフォンとレモンにソフィアは深々と頭を下げた。
「おう、任しとけって。このために体力を温存してきたんだからな」
「父さん……ぎゅってして?」
「さあおいで、私の可愛いレモン。愛してるよ。ずっとずっと愛しているからね」
「うん、父さんも早く生まれ変わってね?」
「わかった。神様にお願いしてみるよ」
「私ね、生まれ変わった父さんと結婚するって決めてるの」
「ははは! それは嬉しいねぇ」
シフォンが笑いながら二人の側へ行く。
「なんだい? ヤキモチが焼けるねぇ。あたしを捨てるのかい? プロント」
「何を言っているんだよ。捨てるわけないだろう?」
「ははは! ではレモンより先に見つけ出してまた結婚しようかねぇ」
レモンがニコッと笑う。
「うん、だったらまた私を産んでね。今度は何が良いかなぁ。小鳥も楽しかったけれど、もう少し大きい方が便利かなぁ。泳げるお魚っていうのも楽しそうだね」
親子三人が楽しそうに話している。
振り返ったシフォンがソフィアの側に来た。
「あんたも覚悟を決めなよ? あんたの一番大切な物は消えてなくなるんだ」
ソフィアが聞く。
「それが何かはわからないけれど、真実の瞳ではないの?」
「あれは発現するかどうか賭けみたいなものだからね。出れば最強の薬になるが、なくても薬はできる。しかし、ロビンの命は確実になくなるんだ。今のうちによく顔をみてやりな」
「ええ……そうね……」
「自分の一番大切な物は、自分では決められない。そういうものは失って初めてわかるのさ」
ソフィアが頷いた。
「生きてさえいればいいわ。そう約束したの」
「そうか。まあお互い辛いことだ」
ふと見ると、まだプロントとレモンはイチャついていた。
いつの間にか側に来ていたレオが声を出す。
「大魔女殿……」
シフォンがフッと笑う。
「大丈夫さ。プロントは強い男だ。レモンはそれ以上に強い。そして私はもっと強いんだ」
「ああ、そうだな。頭が下がるよ」
「あの人が突っ込んだら、一気にたたみ掛けて隙を作るよ。後はワンダが突っ込むだけだ」
「ワンドにも申し訳が無いよ」
「そう思うなら、奴に旨いものでも食わしてやってくれ。あいつは山鳩が好きなんだ」
「わかった。今日中に探して狩ってこよう」
「生き残るあんたが一番辛い思いをすることになるが……強い心を持ちな」
「ありがとう。必ずすべてを引き受けると約束しよう」
シフォンがふとソフィアの顔を見た。
「あんたは何を失うのだろうね」
ソフィアがレオの顔を見る。
「何を失うより、レオを失うのが一番怖いわ」
レオが口を開くより早く後ろから声がした。
「お前は本当にクローバーと同じことを言うのだな」
三人が振り返ると、緑の肌をした絶世の美女が立っている。
「ババ様!」
ソフィアとシフォンが慌てて膝をつき、レオも慌てて頭を下げた。
「女王様。ご無沙汰しております」
「ああ、息災のようで何よりだ。今回が最後となるよう助力に来たぞ」
「心から感謝いたします」
「これをプロントに飲ませなさい」
緑色の美女が丸薬をシフォンに渡した。
「これは?」
「我が命の雫じゃ」
「ありがとうございます」
「いよいよ総力戦じゃな」
レオに向かって緑色の美女が声をかけた。
「はい、我が命に代えましても成し遂げる覚悟でございます」
「我に戦はできぬが、この地で命を落とした者たちの魂の安寧は引き受けよう。大悪魔が消滅した後の土地の浄化も任せておくが良い」
レオが深々と頭を下げた。
「ババ様」
ソフィアが駆け寄って抱きついた。
「おお、ソフィア。良い顔になったなぁ。レオとやら、なるほレナードによく似ておるわ。お前も覚悟を決めた顔をしておる」
「はい」
「良きかな」
そう言うと緑色の美女が消えた。
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