路上生活者

新田小太郎

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路上生活者

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 世の中、無情である。仕事を失い、再就職も出来ず、住む場所を失った晋太郎は、路上生活者となった。この国では、なかなか、無能な人が満足に生活をして行くことが出来る社会保障が整っていない。一度、社会から外れてしまえば、路上生活者になる以外に、道はない。
 さて、路上生活者になれば、路上生活者たちの社会があるということを晋太郎は、初めて知った。晋太郎が路上生活を始めたのは街の中にある中央公園と呼ばれる、この辺りでは最も大きな公園。そこでは、十数人の路上生活者が、生活をしていた。街全体としては数十人の路上生活者が居るようで、それぞれに、コミュニティを築いている。
 晋太郎は、先輩路上生活者である通称「タカ」という高齢の男性に、路上生活者として生きるすべを教えてもらった。路上生活者を支援してくれているボランティアもあり、取りあえず、飢え死にをしない程度の食料は、そのボランティアの人たちが支給をしてくれた。そして、寒さを凌ぐための毛布なども、そのボランティアの人が与えてくれた。
 ボランティアの人たちは、生活再建の支援もしてくれるが、晋太郎は、もはや、社会復帰をすることは難しいだろうと自分自身で思っていた。これまでに、どの会社で働いても周囲の人たちに馴染めず、仕事も上手く行かず、仕事は長続きせず、首になることを繰り返し。そして、年齢を重ねれば、就職は、更に、難しくなる。どうせ、また就職をしたところで、同じことの繰り返し。同じ苦しみを重ねるだけである。
 タカさんは、日銭を稼ぐ方法も教えてくれた。路上生活者に、日雇いの仕事を斡旋する仲介者は、毎日のように、この公園に来る。その仲介者に頼めば、肉体労働で、多少の日銭は稼ぐことが出来る。もっとも、その仲介者は、多くの中間搾取をしているのだろう。路上生活者でなければ、同じ仕事をすれば、もっと良いお金をもらえるはずである。
 さて、路上生活者は、度々、この公園から、住む場所を追われることになる。それは、景観のためとか、治安のためとか、周囲の人たちの苦情とか、理由は様々である。しかし路上生活者たちには、当然、他に行く場所はない。公園で生活をしていた路上生活者たちは、一度、他の場所でしばらく過ごして、また、公園に戻って来る。ただ、単に、その場所から排除をしたところで、何の解決にもならない。路上生活者は、どこに行っても路上生活者で、結局は、同じこと。
 彼らは、怠け者なのかと言えば、決して、そうではない。もちろん、怠け者の人は居るだろうが、それが主という訳ではない。みんな、何かの事情を抱え、仕方なく、路上生活をしている。晋太郎もまた、その中の一人。
 そして、今、大きな問題になっているのが、一般市民が、路上生活者を襲撃するというものだった。夜、子供、若者、中年の人たちが、この公園に居る路上生活者たちに暴行を働くというもの。晋太郎もまた、その襲撃を経験し、驚くと同時に、憤りを感じた。社会からはみ出してしまった自分たちは、もはや、人間扱いをされていない。警察も、彼らの暴行を見逃しているのかと思わない訳でもない。
 そして、晋太郎が、路上生活を始めてから三ヶ月が経った頃、ついに、タカさんが若者のグループに襲われて、命を落とした。それが、どれほどのニュースになったのか、晋太郎は知らない。犯人たちは、捕まったのかどうか。そもそも、警察による捜査は行われているのかどうか。公園の路上生活者たちは、団結をして、身を守らなければならない。しかし、多くの人が、中年以上の高齢で、身体にも、何らかの怪我や病気などの異常を抱えている人が多く、有効な対処が出来る訳でもない。
 そして、冬が来た。冬の寒さは、路上生活者にとっては厳しいもの。どこかで暖を取りたいが、公共施設や店舗に入ることも、路上生活者にとっては難しいこと。身体を動かしたり、毛布にくるまったりして、寒さに耐えるしかない。
 そして、二月の始め、雪の降り積もる、一段と冷え込んだ日の朝、晋太郎は、毛布の中で寒さのために息を引き取った。凍死をする路上生活者は、かなりの数、居るようだが、それが社会で問題になることはない。そして、その多くは、身元不明の遺体として処理をされることになる。晋太郎もまた、その中の一人。身元が分かったところで、晋太郎には遺体を引き取ってくれるような親しい人は居ない。こうやって、また一人、社会としては無用な人間が、消えて行ったということになるのかも知れない。
 しかし、ボランティアとして晋太郎ら路上生活者を支援していた人は、晋太郎の死を悲しんだ。何とか、助けてあげる方法は無かったのか。後悔は募るばかりである。
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