勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

文字の大きさ
100 / 105
連載

第150話 勇者、エリクサーを作る

しおりを挟む
かなりお待たせしました。
お久しぶりの更新です。

このまま週一か隔週ペースで更新していきたいと思います。

あと宣伝ですが、勇者のその後の文庫版がアルファライト文庫より発売となりました。

本日2月7日に出荷されましたので、早ければ明日には発売していると思います。
お値段もお手頃ですよー。

それでは久しぶりの本編をどうぞ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よし、それじゃあエリクサーを作るぞ!」

 真なる魔王に体を乗っ取られたシルファリアを救うため、俺達はエリクサーの作製を開始した。
 ……つっても作るのはメルクリオとゴールド頼みなんだけどな。

「という訳で頼むメルクリオ、ゴールド」

「うむ、まかせよ」

 メルクリオがテーブルの上に乗った素材を見つめる。
 それらは皆で必死になって集めた貴重な素材ばかりだ。
 それがようやくエリクサーとして一つになろうとしている。

「……どうやって作るんじゃったかのう?」

「「「「「オイコラ」」」」」

 思わず皆の心が一つになった。

「あのなお前。エリクサーの作り方を知ってるんだろ!? 知ってるんじゃなかったのか!?」

「いや知っとるよ。むかしメッチャ作ったからのう。ただ最近とんと作っておらなんだから、ちょーっと作り方を忘れとるだけじゃ」

「何よソレ! もしかして私達に採りに行かせた材料も適当に言っただけなんじゃないでしょうね!」

 っていうかよく考えたら最初にメルクリオが言った材料って、聖杯と賢者の石、それに霊水、最後にこの霊域だったはずだよな。
 それが戻ってきたら足りないから集めさせておいたとか言われたけど、もしかしてうっかり言い忘れたから集めさせてたのか?

「そんなわけあるかい! 単にド忘れしとるだけじゃ! すぐに思い出すわい!」

 エアリアの追求にメルクリオが反論し、腕を組みながらうぬぬとうなり声を上げる。
 いやそれホントにうっかりじゃん。
 マジで大丈夫なのか?

「ぬぬぬ……」

「ちょっと、本当に覚えているんでしょうね」

「無理なら何かでショックを与えた方が良いのではないかしら? とりあえずメイス辺りで」

 すっとミューラが懐から棘付きのメイスを取り出す。

「怖いこと言うでないわ! 思い出すどころか記憶ごと頭部が粉砕されるわ! お主それでも僧侶か!?」

 これ絶対材料集めで苦労させられた私怨が入ってるよな。
 そして再びうなりだすメルクリオ。

「ええと確か、霊水にアウストレア草の根を浸して……」

「月光に三日晒したナイフで皮を剥く」

「そうじゃそうじゃ。そんで賢者の石とオディバ輝石を粉末にして……」

「正しくは賢者の石をオディバ輝石1に対して1/4の量を粉末にする」

「そうじゃそうじゃってゴールド! 知っておるなら最初から言わんか!」

「たまには自分で頭を使わないとボケる」

 などとメルクリオとゴールドがボケ漫才を始める。
 というかゴールド作り方知ってるのかよ。

「すまんゴールド、エリクサーの作り方を教えてくれ」

「任せろ」

 なんというか、意外とフランクだよな、この合法ロリドラゴン。
 いや、意外じゃないか。
 これまでの行動を見ていれば……

「ではさっさと作るか。時間のかかるモノは既に用意してある」

 と、懐から更に材料を取り出す。
 え? 何この手際の良さ? ドラゴン三分間クッキング?
 さすがに完成品は用意してないよね?

 ゴールドはメルクリオを横にどけると、テーブルの上に並べられた素材をてきぱきと加工していく。

「なんか儂の扱い雑じゃないかの?」

 事実雑だと思います。

「サクサクサク……トントントン」

 エリクサーを作る作業をしている筈なのに、なんだか料理を作っている様にも見えるな。

「クツクツクツ……ザーッ」

 何で作業工程を擬音で説明するんだろう?
 高位のドラゴンってそういう種族なのか?

「出来た」

「「「「早っっっ!?」」」」」

 え!? マジ!? もう出来たの!?

「お、おいおいおい、本当に出来たのか!?」

「イエス、会心の出来だ。非の打ちどころのないエリクサー」

 マジかー、今までの苦労とかなんだったのーってくらいあっさり完成しちゃったよ。

「え? ちょ、ホントに!? ホントにエリクサーが完成したの!? エリクサーなんでしょ!? 伝説の霊薬なんでしょ!?」

 エアリアがマジで!? って顔でゴールドに詰め寄る。
 まぁ気持ちは分かる。
 エアリアの専門は本来薬草学だし、それこそ彼女がいつも作っているポーションよりも簡単に完成してしまったのではないだろうか?
 魔法使いのプライド的にちょっと納得がいかないのも無理はない。

「パーフェクト、これ以上ない出来だ」

 しかしゴールドはえっへんと胸を張って自慢げだ。
 そしてじーっと俺に視線を寄越してくる。

「えーっと、あ、ありがとうゴールド。凄く助かった」

「うむ。お礼は三倍返しで良い」

 ちゃっかりしてらっしゃる。

「それにしても驚きました。まさかこんなに簡単にエリクサーが完成するなんて」

「ええ、私ももっと大変だと思っていました」

「これなら材料さえあれば私にもエリクサーを作れそうですね」

 ミューラやサシャ、それにクロエさんも目をパチクリとさせてエリクサーを見つめている。

『ではさっそく味見を』

 そう言ってウォーターゴーレムのエリーがテーブルの上に置かれたエリクサーの容器に手を突っ込む。

「……って何してんだお前ぇぇぇぇぇぇ!?」

 あまりにも自然に手を突っ込んだから一瞬スルーする所だったろうが!?

『いえ、今の私は疑似エリクサーですので、オリジナルエリクサーと接触すればその薬効を確認できるかと思いまして』

「思いましてってお前な、勝手に触って薬効が変わったらどうするつもりなんだ」

 今のお前の体は薬なんだぞ!?

『その心配は不要です。私は一種のスライムボディですので、表面張力を利用して私の体液をエリクサーに混ぜない様に気を付けています』

「そ、そうなのか?」

「そうなんです」

 無駄に高性能だな。

『そして吸収したエリクサーの薬効を確認しました』

「それでどうだった?」

『正直良く分かりませんでした。元々私は薬なので、解析機能とか無いですし』

 役に立たねぇーっ!

「つーかそれだったら何のために触ったんだ!?」

『ちょっとした好奇心で』

 駄目だこのゴーレム、変に知恵を持った所為で薬としての本分から逸脱し過ぎだろ。

『ただ、この薬から感じる力は、明らかに私以上の薬効を感じました。単純な薬としての力は私以上でしょう』

 そう言うのは分かるのか……というか薬の力ってなんだ?
 一千万薬パワーとかあるんだろうか?

 と、そこでメルクリオとゴールドが前に出て来る。

「ともあれ、これでエリクサーは完成した。まだ真なる魔王の魂が定着して居ない今ならば、偽りの魔王の娘の魂を救う事が出来るであろう」

「あとは勇者達次第。私達に手伝えるのはここまでだ」

「いや、十分だ。助かったよ二人共」

 本来ならエリクサーの作り方を調べなおす羽目になっていたんだからな。
 その時間を稼いでくれた二人には感謝の言葉しかない。
 おもにゴールドに。

「うむ、感謝せぇよ」

 俺はエアリア達に向き直ると、皆も俺を見つめ返す。

「聖剣を手に入れ、エリクサーも用意できた。あとはシルファリアを助けるだけだ」

「けど彼女がどこに居るのか分かるの? 私達は相手の本拠地を知らないのよ?」

 エアリアの疑問に、皆があっと驚きの顔になる。
 だが俺は慌てない。

「いや、大丈夫だ。真なる魔王がどこに居るのかは簡単に分かる」

「それは、どこなんですか?」

 ミューラが分からないと首をかしげる。

「簡単な推理だよミューラ。相手は真なる魔王、魔王なんだ。だったら魔王が居る場所といったら?」

「あっ、そういう事ですか」

 サリアが手をポンと叩いて納得の声を上げる。

「そう、魔王の居場所と言ったら魔王城さ」

 相手は真なる魔王だ。
 だったらヤツが居るのは魔王城の玉座に他ならない。

「成程、当たり前すぎて逆に思いつかなかったわ」

「ですね、今までの闘いから、敵はこちらから身を隠すのが当然と思って魔王城の事を意識から除外してしまっていました」

 これはミューラの言う通り、これまでの魔族達との戦いは相手の正体や本拠地を暴く事を第一に考えて行動していたからな。
 だが相手は魔族の王、そもそも隠れる必要すらない相手だ。

「そういう事」

 真なる魔王の居場所は既に割れている、あとはこちらから出向くだけだ。

「トウヤさん」

 とサリアが前に出る。

「私はミナミッカ群島に戻ります。残念ながら、戦闘用の魔法に長けていない私では足手まといになってしまいますから」

「私も同じですね。元皇帝の権力も魔王との戦いでは役に立ちそうもありません。もう少し時間があれば現皇帝に掛け合って戦力を出してもらう事も出来たんですけど」

 とクロワさんも居残りを宣言する。
 まぁ二人は仕方ない。
 本人たちが言うとおり戦闘は不向きだからな。

「私は行くわよ。元々魔王と戦う為についてきたんだからね」

「私もです。相手が真なる魔王だというのであれば、聖女である私がトウヤさんの力になるのは当然です」

 エアリアとミューラが前に出る。

「真なる魔王との戦いには役に立たないかもしれないけど、そこに至るまでの露払いは出来るわ」

「ええ、その為の神聖魔法です」

「……ああ、頼りにさせてもらうよ、二人とも」

「ええ、任せて!」

「はい! 任せてください!」

「王女達は我らに任せるが良い。無事にお主達の仲間のもとに送ってやろう」

 とメルクリオがサリア達をミナミッカ群島に送る事を提案してくれる。

「助かるよメルクリオ」

「うむ、頑張るのじゃぞ」

「よし、それじゃあ行くぞ二人とも!! 最終決戦だ!!」

「「ええっ!」」

 真なる魔王との決着をつける為、シルファリアを救う為、俺達は三度魔王城へと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 285

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。