勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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1巻

1-1

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 プロローグ 勇者、魔王を退治する



「これで終わりだ、魔王ガルバラァァァァァァァーッ!!」

 俺は魔王の胸に聖剣を深々と突き刺す。

「ゴフッ……まさか、このわれが倒されるとは……見事だ、勇者よ。貴様のその力……魔王の名においてたたえようぞ」

 魔王が、緑色の血を吐きながら俺を見つめる。

「だが、その力、強大すぎるがゆえに、貴様はこれから絶望に襲われるであろう……」

 オイオイ、いかにもファンタジー物のラスボスみたいな台詞せりふだな。
 絶望っていうのはあれだろ? 平和になったら、王様達が英雄である俺を恐れて毒殺とかしてくるってパターンだろ? そんな話、どっかで聞いた事あるわ。

「言われなくても、この戦いが終わったら俺は元の世界に帰るだけだ。お前の考えているような事にはならないさ」

 そう、俺、トウヤ・ムラクモは地球からやってきた異世界人だった。
 ある日突然、ただの日本人だった俺は、この世界サフィールを支配せんと企む魔王ガルバラを倒すために連れてこられた。
 まぁ、普通に考えれば、一般人に魔王を退治するなんて不可能だろう。
 俺も最初はそう思っていた。
 けど、違った。
 俺には力があったのだ。正しくは、勇者として召喚された異世界人には力が与えられた、だ。
 勇者は神より超常ちょうじょうの力をさずかるという。その言い伝え通り、俺はとんでもない力に目覚めた。それこそ、漫画や神話に出てくるようなヒーロー同然の力だ。
 地球に戻ったら、その力は失われてしまうだろうが、俺に未練はない。いや、全くないかと言われたら多少はあるさ。
 けどな……

「この世界にはさ、コンビニも水洗トイレもなければ、ネットで買い物も出来ないんだよ」
「……よく分からん」

 その言葉を最後に、魔王ガルバラは崩れ落ちた。
 それは、世界を破滅の危機に追いやった魔王とは思えないほど、あっさりとした最期さいごだった。
 ともかくこれで世界は救われた。
 ゲームやアニメみたいに魔王の死と共に城が崩壊したりしないし、魔王は自分の命と引き換えに世界を破滅させる儀式を完成させたりもしなかった。
 それどころか、魔王は勝利した俺を褒め称えてきたのだ。
 ここまで正々堂々としつつ、敵である俺にさえ敬意を表したヤツは、人間魔族合わせても、この男くらいではなかっただろうか。

「トウヤーッ!」

 などと考えていたら、魔王と俺の決戦場となったこの玉座ぎょくざの間に誰かがやってくる。
 俺の仲間達だ。

「よう、無事だったか、エアリア、ミューラ、バルザック」

 ハーフエルフで魔法使いのエアリア、大地母神だいちぼしんの神官ミューラ、最後に騎士のバルザック。彼らは世界有数の実力者であり、俺をこれまで支えてくれた仲間である。

「これは……ここですさまじい戦いが繰り広げられたのですね」

 ミューラが綺麗きれいな金髪を揺らしながら、その金髪よりももっと目立つ胸を揺らして、俺と魔王の戦いでボロボロになった玉座の間を驚きと共に眺めているが、むしろ俺としては、ミューラの胸の方がすさまじいです。
 俺を魔王のもとに送るために、ミューラは敵の足止めをしてくれた。そのため、聖なる衣装はボロボロになり、パンツが半分見えている。胸など、今にも飛び出しそうなほど布が破けていた。

「どこ見てるのよ!!」

 目ざとく俺の視線を察知したエアリアが、俺のほっぺたを引っ張る。

「ひへへへへっ!!」

 コイツは可愛いんだが、どうにも嫉妬しっと深いみたいで、俺が他の女の子を見ているとすぐに機嫌を悪くするんだよな。あと本人の胸がささやかなのも、今キレてる理由の一つだと思う。
 ちなみにこの世界のエルフ系は、胸がペッタンなのがデフォルトっぽい。

「ははははっ、それだけスケベ心が出せるなら大丈夫そうだな」

 などと豪快に笑うのは、チームのまとめ役バルザックだ。
 彼は俺達よりも年齢が一回り上で、美人の奥さんと子供までいる。バルザックとは、この世界に来てから一番長い付き合いだ。
 彼は、俺を勇者として召喚した国の副騎士団長であり、俺の戦いの師匠でもあった。
 いくら俺がすごい力を持っていても、戦い方が分からなければその力を発揮出来ない。俺が召喚されてきた当初、悠長に訓練をしている時間などなかった。
 だから、バルザックが俺の護衛兼師匠として旅に同行してくれる事になったのだ。
 正直言って、バルザックにはいくら感謝してもし足りない。

「それで、魔王を……倒した、のよね?」

 エアリアが不安そうに聞いてくる。

「ああ、魔王ガルバラは死んだよ。最期まで誇り高い戦士だった」
「誇り高い戦士? 魔王がですか!?」

 ミューラが驚きの表情で尋ねる。確かに魔王と言ったら邪悪な存在ってのが、相場だもんな。

「ああ、戦いは正々堂々としてたし、卑怯な手段は一切使わなかった。それに最期は、自分を倒した俺を褒め称えて、いさぎよく死んでいったんだよ」
「そう……ですか」

 に落ちないといった感じのミューラ。だが、実際に戦った俺の言葉ならと受け入れてくれた。
 正直、魔王が最後に言った不吉な発言が気になるが、ソレは忘れていいだろう。
 俺は地球に帰るのだから。

「じゃあ、帰ろうか!」

 俺は不安をかき消すように、大きな声で宣言した。


  ◇


「よくぞ帰ってきた! 勇者トウヤよ!!」

 俺を迎えてくれたのは、豪奢ごうしゃな服を着たこの国の王様だ。
 魔王を倒した俺達は、転移魔法を使って俺を召喚した国、ハジメデ王国へ帰ってきた。そして魔王の亡骸なきがらを門番の兵士に見せると大騒ぎになって、すぐに謁見えっけんの間に通されたのだ。
 魔王の軍勢との戦いで心労が溜まっていたのか、王様は初めて会った時よりもせていた。
 だが、その目に絶望はない。むしろあるのは希望の輝きだ。

「……」
「……」

 妙に静かだと思ったら、エアリアとミューラが緊張でガチガチに固まっている。
 まぁ無理もないか。二人共途中からパーティに参加したので、貴族のような身分の高い人々とは無縁の生活だったからな。

「家臣からの報告で聞いたぞ。遂ににっくき魔王を打ち倒したそうだな」
「仲間の助けがあったからこそです」

 俺は膝を突いて答える。
 このあたりの礼儀は旅の間にバルザックが教えてくれた……というよりたたき込まれた。
 貴族達と関わる事もあるだろうから、連中にめられないように最低限のマナーを覚えろって言われて。

「ふははは! 謙虚けんきょじゃのう。だが今は誇ってよいのだぞ。何しろ魔王を倒したのだからな!」

 王様は大喜びだ。王様だけじゃない、大臣や護衛の騎士達も笑顔を見せている。皆、疲れ果ててはいるものの、その表情は安らぎに満ちていた。
 人々の笑顔を見れば、これまでの苦しい戦いの日々も報われるってもんだ。

「さぁ、今日はうたげじゃ!! 備蓄の食料を出して民に振舞うがよい!!」
「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 こうして、魔王を倒した事を国民に知らせるための大宴会が行われた。


「がっはっはぁぁぁぁ!!」
「ぐはははははっ!!」

 町のあちこちで、酔っ払った男達がぐでんぐでんになっている。
 いや、男だけじゃない。女や子供も浮かれていた。
 城下町全体が巨大な宴会場となり、あちこちで飲めや歌えの大騒ぎになっていた。

「うふふふぅ、私酔っ払っちゃったぁ」
「じゃ、じゃあ俺が家まで送ってやるよ」
「そんな事言って、私にイタズラする気なんでしょー」

 酔った女を介抱する名目で近づいた男を、あっさりとかわす女。

「でもいいわ! イタズラしてもいいわよー! だって魔王が死んだんだもの! 死んだ夫も許してくれるわよー!」
「イザベラ! 俺本気だぜ! 本気でお前が好きなんだよ! トムの分も俺が幸せにするからよ!」

 なんかいい感じに開放的になってるっぽい。
 俺も可愛い女の子をナンパしたらイケるかな? だって勇者だよ俺?
 うん、ちょっとナンパしに行こっと。

「ちょっとー、どーこ行くのよぉぉぉ!」

 と、後ろから誰かが抱きついてきた。いや、誰かは分かるけどさ。

「酔ってるなー」

 そう、エアリアだ。

「ねぇトウヤァ、せっかく魔王を倒したんだからぁ、もっと楽しみましょうよ!」

 うん、だから今から楽しみに行こうとしたんだが。

「だ・か・ら。私と楽しみましょぉぉぉぉ!!」

 あ、うん、こりゃ駄目だ。
 俺はエアリアに引きずられて、どことも知れない宿へ連れ込まれたのだった。
 あ、ちゃんと楽しい事は出来ましたよ。最後はゲロ臭い事になったけど。


 翌朝、目が覚めた俺は、隣で眠るエアリアを起こさないようにベッドから出て、服を着替える。
 着たのは、どこか気取った雰囲気のある仕立てのいい衣装、地球の服だ。
 俺はこれから地球に帰る。だから、この世界でまとっていた戦うための服はもう必要ない。
 準備が整った俺は音を立てずにドアを開け、宿をあとにした。


 やってきたのは懐かしい場所、儀式の間。
 石の床に石の壁。床には大きな魔法陣が描かれ、壁には銀の燭台しょくだいがかけられていた。
 燭台には、魔術効果を増幅させる粉末が練り込まれた蝋燭ろうそくともり、独特の匂いを発している。

「早かったな」

 バルザックだ。今日は鎧を着ておらず、いかにも貴族然とした格好である。

「目が覚めちまったんでね」
「魔法使い達の準備は出来ている。いつでも元の世界に帰れるぞ」
「じゃあ早速さっそく頼むよ」

 俺は魔法陣の中央に入っていく。

「別れの挨拶はしていかなくていいのか?」
「必要ない」

 そうだ、挨拶なんていらない。そんな事をしたら未練が残るからな。

「始めてくれ」

 魔法使い達が呪文を唱え始めると、蝋燭の放つ独特の匂いが強まり、火の勢いが増す。
 そして床の魔法陣が淡く光を放ち、次第にその輝きを強めていく。儀式の間に高密度の魔力が満ち、俺の真上、部屋のちょうど中心に点が生まれた。
 点は少しずつ大きくなり、やがて穴となる。穴はゆっくりと室内の魔力を呑み込み始め、それはまるで巨大なくじらが食事をしているかのようだ。
 初めてこの世界に召喚された日の事を思い出す。
 あの時も目の前にこの穴が現れたんだ。
 そして、とんでもない力で俺を吸い込んでこの世界に飛ばした。あの時と比べて吸い込む力が弱いみたいだけど、まぁ自分で飛び込めば問題ないか。
 穴が大きくなり、もう少しで俺が入れる大きさになる。飛び込めば、俺は元の世界に帰れる。
 その時だった。

「トウヤ!!」

 儀式の間の扉を開けて、誰かが入ってきた。

「エアリア!?」
「馬鹿! 何で黙って行っちゃうのよ!!」

 よほどあわてて着替えてきたのだろう。エアリアの服は裾がはみ出ていたりボタンを掛け違えていたりと、少々はしたない事になっていた。

「わりぃ、未練が残らないようにと思ってさ」
「自分勝手な事言わないでよ、馬鹿!」

 あー、うん、これは甘んじて受けよう。

「すまん」
「もっと、もっといればいいじゃない! 魔王は倒せたんだし、いつでも帰れるんでしょ!」

 まぁそれはそうなんだけどね。

「そうもいかないさ、俺はこの世界の人間じゃないんだ。魔王を倒したあと、余計な混乱を招かないためにも帰らないといけないんだ」

 これは魔王から暗に示された内容だ。
 魔王を倒した力を持つ俺がこの世界に残れば、俺が第二の魔王になるかもしれない。地球でそういう話を耳にした事もあった。この世界でそれが起こらない保証はない。

「馬鹿ぁ、何で自分ばっかり貧乏くじ引こうとするのよ。もっと良い目を見たっていいじゃない」

 ははは、まぁ確かにな。
 魔王との会話がなければ、俺ももう少しだけこの世界に滞在していたかもしれない。

「そうだな、でも長居したら未練が残るしさ」

 平和になったこの世界で、俺は英雄として多くの人にもてはやされるだろう。
 地球では絶対に得られない賞賛だ。けど、それを味わったら帰る気がなくなりそうな気がする。
 それはイカン。魔王の言葉通りになってしまう。

「それに、色々良い物ももらってるからな。金銀財宝とかさ」

 そう言って、俺はふところのポケットから小さな袋を出した。これは「魔法の袋」という名前のアイテムで、ファンタジーゲームでお約束の、いくらでもアイテムの入る袋である。
 ただ、この世界でもかなり貴重な品らしく、俺も冒険の途中で偶然手に入れる事が出来たのだ。
 で、この中にはこれまでの旅で手に入れた品と、ここに来る前に王様の使いに貰った財宝の数々が入っていた。世界を救った英雄には安い報酬かもしれないが、と言われて渡された財宝だった。
 見た感じかなり価値がありそうなので、マジ一財産である。地球で売るなら手に入れた理由を考えないといけないなぁ。

「私は未練にならないの!?」

 と、そこでエアリアから爆弾発言が飛んだ。周囲の魔法使い達が動揺して魔法の制御が一瞬不安定になったが、すぐに安定する。マジ制御に集中してください。

「ねぇ、私は貴方にとってただの仲間でしかなかったの!?」

 このタイミングで答えにくい事を……
 ほら、バルザックがニヤニヤしながらこっちを見てやがるじゃないか。

「あー、ソレはだな……」
「答えて! 未練を残したくないのなら、私の未練も残さないで!」

 ぐっ、そう言われるとな。

「……俺は」

 仕方ない。未練になりそうだったから言わなかったけど、これで最後だ。言ってしまおう。

「俺はお前の事好きだぜ! 旅の間一緒にいて楽しかったからな!」
「っ!」

 瞬間、エアリアの顔が喜びで満ち、頬を朱に染める。
 そして感極まったのか、口元を手で覆い、目じりに涙が光る。

「俺は帰らなくちゃいけない……けど、お前と一緒にいた事は忘れない!」
「私も、私も貴方の事忘れない! 絶対、絶対忘れない! 貴方との思い出を一生大事にする!!」

 そう言って、反射的に自分のお腹をさするエアリア。待て、その動作は何だ?

「貴方が最高の勇者様だった事をずっとずっと伝えていくわ! 貴方への思いを忘れないために!」

 待って、誰に伝えるの? アレな関係になったのは昨夜が初めてでしたよ。

「あ、うん。よろしく」

 我ながら、なんだこの返事。
 と、そこで遂に穴が広がりきった。

「ともあれ、旅は苦しく辛かったけど、皆がいてくれたから諦める事はなかった。ありがとう」
「私もよ!」
「バルザックも奥さんによろしく」
「ああ、本当は家内の作った料理を食べさせてやりたかったんだがな」
「ミューラにもよろしく。今度会ったらオッパイませてって伝えておいてくれ」

 ここにはいない神官のミューラへの伝言を残す。

「ば、馬鹿! エッチ! いやらしい事言ってないで、さっさと帰りなさいよ!」

 エアリアが嫉妬と怒りで顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ははは、じゃあな」

 俺は広がりきった穴に足を踏み入れた。

「さようなら! 絶対忘れないから!」
「向こうでも達者でな!」

 二人の声を聞きながら俺は穴の中へ入っていく。

「トウヤさぁーん!」

 穴に入る直前、聞き慣れた声が耳に入ってきた。ちょうど今話をしていたミューラの声だ。だが残念、俺はもう穴に入ってしまった。言葉を交わす事はもう出来ない。
 全身が穴にひたる。まるで体が掃除機に吸い込まれているような錯覚に陥る。
 どこまでも落ちていく、次元を渡る感覚。
 ……が、突然消えた。

「……?」

 目を開ければ、そこはさっきまでいた儀式の間だ。
 目に映るのは、エアリア、バルザック、ミューラ、そして儀式をり行っていた魔法使い達。

「あれ?」


 俺は困惑しつつも、魔法使い達を見る。
 困惑していたのは彼らも同じだったらしい。彼らはなにやら慌てた様子で相談を始めた。

「えーと……」

 すごく居心地が悪い。
 だって別れの挨拶をした直後だよ。ドラマなどでよくあるけど、感動的な別れのシーンのあとで乗るバスを間違えたような気まずさだ。

「間に合わなかったみたいですね……いえ、間に合ったと言うべきでしょうか?」

 そう言ったのは、ギリギリで儀式の間に飛び込んできたミューラだ。

「どういう事だ? 何か知っているのかミューラ?」

 ミューラが頷く。
 そして魔法使い達も俺のもとへとやってきた。

「申し訳ありません、勇者様」
「トウヤさんには申し訳ないんですが」

 彼らは異口同音にこう言った。


「貴方を元の世界に帰す事は出来なくなりました」




 第一話 勇者、異世界に居残る



「まぁ座れや」

 バルザックに促されて、俺は椅子に座る。
 ここはさっきまでいた儀式の間ではなく、城下にあるバルザックの屋敷だ。

「しっかし大変な事になったな。まさか元の世界に帰れなくなるとは」

 バルザックの言う通り、俺は元の世界に帰れなくなってしまっていた。
 しかもその理由は、レベルの上げすぎが原因でだ!


 話は、俺を地球に戻すための逆召喚魔法が失敗に終わったところまで戻る。

「貴方を元の世界に帰す事は出来なくなりました」

 神官のミューラと儀式を行っていた魔法使い達はそう言った。

「ど、どういう事なんだ!?」

 俺は当然の如くミューラ達を問いただした。

「私が話すよりも専門家に聞いた方がいいでしょう」

 そう言ってミューラが一歩下がると、魔法使いの一人が前に出てくる。

「では、私が説明いたします」

 魔法使いが話した内容は、到底受け入れがたいものだった。

「この逆召喚魔法は、召喚された勇者様を元の世界にお返しするためのものです。魔法の系統としては転移魔法に近いですな」
「それが何で帰れなくなるんだ? まさか元の世界の場所が分からなくなったって言うのか?」
「いえ、そういう訳ではありません。逆召喚先の座標は、勇者様自身の魂が記憶しておりますので」
「魂が記憶している?」
「ええ、動物に帰巣本能があるように、人間の魂にも元の世界の場所を本能的に察する能力があるのです。逆召喚魔法はそれを利用した魔法ですので、転移先を見失う事はございません」
「じゃあ何で、元の世界に帰れなくなったんだよ!!」

 俺が怒鳴ると、魔法使い達は言いにくそうに言葉を濁らせる。

「落ち着いてトウヤさん。貴方が怒ると、この方達も話しづらくなりますよ」

 ミューラが俺の手を掴んでいさめてくる。

「……すまない。続けてくれ」

 目の前で揺れるミューラの胸に意識を奪われた事で、俺は冷静な気持ちを取り戻した。俺の別の場所は冷静でなくなったが。

「実はですね、過去にこの儀式を行ったのに元の世界に帰れなかった勇者様についての伝承があったのですよ」
「俺の他にも帰れなかった勇者が!?」
「ええ、その勇者様はすさまじい魔法の使い手だったそうで、どうやらソレが原因で元の世界に帰れなくなってしまったようなのです」
「どういう事だよ!?」

 すごい魔法を使えると何で帰れなくなるんだ!?

「つまりですね……魔法にけているという事は、魔法に対する抵抗力もすさまじいという事なのです」

 おい、まさか……

「お気づきになられたかとは思いますが、勇者様が帰れなくなった理由は、勇者様の魔法抵抗力が我々全員の力を超えてしまったのが原因なのです」
「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 俺は心の底から絶叫した。

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