勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第114話 勇者、怒れる王子を説得(買収)する

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「さて、これで今回の件は全て私の最良で行えるようになった。君の要望どおりにな」

 謁見の間を出たハイジアン王子が、従者に扮した俺に小声で告げる。

「本当に後の事は任せてよいのだな?」

 ハイジアン王子はこちらの要望に応えた。自らが次期国王となって俺の傀儡になる事を選んだのだ。
 もちろんハイジアン王子にも内に秘めた考えがあるだろうから、素直に傀儡になるとは思えない。
 だが少なくとも、今この時は間違いなくハイジアン王子は俺の共犯者だ。
 ならば俺はこう応えよう。

「ええ、任せてください。俺が全てを解決して見せましょう」

 はっきりと、すべての問題を解決すると俺は宣言するのだった。

 ◇

「そんじゃ始めるか」

 ハイジアン王子から今回の事件の対処を任された俺は、バラサの町へと戻ってきた。
 最初に行く場所はツギノ王国の使者達が泊まっている高級宿だ。
 この宿はバラサの町の復興に伴って作られた宿で、俺がもたらしたコンクリートをふんだんに使った建物である。

 もの珍しいコンクリートというだけでなく、彫刻家達がその表面に様々な彫刻絵を掘り込んであるので、地球の無機質なコンクリートというよりは、鉱石をキャンパスとしたアートと化している。
 更に表面には様々な顔料で塗装がされており、さながら立体的な凹凸のある絵画と化している。
 その見事な芸術は、宿の客だけでなく、旅人や町の住人達の心を楽しませる一つのシンボルと化していた。

 俺は宿の受付でハイジアン王子の関係者である事を告げ、ハイジアン王子直筆の全権委任状を見せてツギノ王国の第二王子への面会を依頼した。
 全権委任状は俺に事件解決を依頼したハイジアン王子に用意してもらったものだ。
 なにせ今の俺は各国に三行半を告げたので、勇者の肩書きが使えない。
 なのでハイジアン王子からハジメデ王国の使者であるという証拠を用意してもらう必要があったのだ。
 ツギノ王国の王子達に告げるべく、宿の使用人が慌てて二階へと駆け上っていく。
 そして、しばらくすると、以前観た顔が二回から降りてきた。
 あれはたしか、ジンク王子の護衛の一人だったな。

「貴殿がハジメデ王国からの遣いか?」

 俺はフードを外して護衛の言葉に頷く。

「はい、此度の件の全権を委任されてまいりました」

「……ついて来い」

 全権という言葉に一瞬反応しかけた護衛だったが、従者の自分がそれについて何か言うべきではないと判断したのか、言葉を飲み込んで己の役割を全うする事にしたようだ。
 正直ファブリズのアホにもこのくらいの自制心が欲しかったものである。

 ◇

「ここだ、くれぐれも粗相の無い様に頼む。王子は大層心を痛められていらっしゃるからな」

 ははは、思いっきり王子って部分を強調されたよ。
 まぁ当然だが。

「ハジメデ王国の使者殿をお連れいたしました」

 室内に入った俺の感想は、非常にアウェーといったところだった。

 室内に居る護衛と思しき人間達は全員がこちらに敵意を向けてきている。
 中には明らかに殺意を飛ばしてきているヤツも居るくらいだ。
 まぁ自国の王子が襲われたのだから、当然といえよう。

「ようこそ使者殿。私がツギノ王国第二王子、ジンクだ」

 既に治療が終わったのだろう。ジンク王子には先の負傷の痕も見当たらなかった。

「お初にお目にかかりますジンク王子。私はハイジアン王子の使いで名をトウヤと申します」

 俺は堂々と自らの本名を名乗る。
 エアリア辺りが居たら顔を青くしそうだが、堂々としていれば早々バレるモンじゃない。
 現にジンク王子は俺の正体に気付いたそぶりすら見せなかった。まぁバレたところで別に構わないんだがな。

「それで? 使者殿、君は一体どういう目的でここに来たのかな?」

 ジンク王子は冷たいまなざしで俺の訪問理由について聞いてくる。
 理由なんてひとつしかない事は分かっているだろうに、随分と意地悪な物言いだぜ。
 まぁ相手は被害者な訳だから、むしろその程度で済ませる辺り理性が働いているのかもしれない。

「私が使わされた理由は一つ、此度のファブリズ王子の件を水に流して頂けませんか?」

「っ!? 何と無礼な! 王子を傷つけておきながらなかった事にしろだと!? 侮辱するにも程がある!」

 ジンク王子が怒る前に、部下達が怒りの声を上げて腰の剣に手をかける。

「落ち着け!」

 だがジンク王子は怒りを見せる事無く部下達を制した。
 彼の部下達は怒りの感情を沈める事が出来ない様子だったが、それでも自らの主の命令に従って落ち着きを取り戻す。

「随分と自分勝手な要求だが、貴国はそれに見合う対価を我が国に支払えるのかい?」

 さすが、この状況で事を水に流すだけの対価を用意するというこちらの意図を読み取ってくれた。
 やはり王族、少なくとも時期国王候補はこうでなくては困る。
 俺は理性と知性を持った貴族が居る事に、少しだけほっとした。
 さて、会話の出来る相手と判断したところで、交渉を始めるとしようか。

「ジンク王子、我々は貴国に対して利する対価を支払う気はありません」

「何っ!?」

 いきなり俺から詫びをする気は無いといわれて、驚きのあまりついつい声をあげてしまうジンク王子。
 自分でもしまったと思ったのか、直ぐに表情を引き締めてこちらを睨む。

「どういう事だい? 先の事件、問題になれば困るのは貴国の方だろう?」

 ジンク王子はこちらに怒りを向けるのではなく、俺の真意を問いただす事にしたらしい。
 素晴らしい自制心だ。

「確かに、困るのはハジメデ王国です。そして我々はこの後に控えている国際会議で、各国の足並みを揃える為の合意を参加国全てから得なければいけません」

「そうだね、ならば尚更わが国の機嫌を損ねる訳にはいかないのでは無いかな?」

 今後の予定を伝え合う事で、お互いの認識を刷り合せていく。
 ハジメデ王国を始めとした各国は勇者を悪辣に利用していた事がバレた事で民の指示を失っている。
 それ故勇者召喚に関わらなかった新興国から狙われる事になってしまった。
 その為各国は、お互いの国々の復興が完了するまで同盟を結んで戦争が起きない様に互いに見張る為の条約を結ぶ事にした。

 だからこそ、今回の条約では各国が平等な立場に立ってないといけない。
 対等な関係でなければ、一部の国の同盟の条件が不平等な内容になってしまうからだ。
 それゆえ、ハジメデ王国はツギノ王国に対する負い目を持ったままで居てはいけなかった。

 だが俺はツギノ王国に謝罪や賠償をする気は無いと宣言した。
 その理由がコレだ。

「ハジメデ王国の第三王子が乱心された相手は、ジンク王子、貴方です。故に私が交渉を行うのは貴方となります」

「それは……どういう意味だ?」

 王子である自分に謝罪する事は、ツギノ王国に謝罪する事に他ならない。だというのに俺がジンク王子を名指しにした事で彼の家臣達も首をかしげていた。

「ジンク王子、貴方はツギノ王国の第二王子です。そしてツギノ王国の第一王位継承者は第一王子であるトリニト王子です」

「……っ!?」

 ジンク王子がハッとした顔で俺を見る。
 本当に察しの良い王子だなぁ。

「トウヤ殿、つまり貴方は……」

「ええ。ジンク王子、我々は貴方がツギノ王国の次期国王になれる様、全力でバックアップする事を約束いたしましょう」

 ジンク王子がゴクリと喉を鳴らす。
 他国の王族の使者が自らの国の王位継承争いに手を貸すと言ってきたのだ。
 室内の空気が緊迫してくる。
 ここから先はお互いに下手な発言が出来ないからだ。
 うかつな発言が相手に言質を与える事になる。
 だからこそ、自分に有利な条件を出来うる限り引き出す必要がある。
 と、ジンク王子は思っているはずだ。

 なので、ここでまた一つ先手を取らせてもらう。

「まずは貴国の有力貴族の方々に力を借りれる様、詫びの品々をお受け取りください」

 そう言って、俺は懐から取り出した魔法の袋に手を入れて様々な財宝を取り出す。
 大量の金貨、高級な壷、食器、武具、絵画、宝石を次々の置いてゆく。
 来賓貴族用の最上級の部屋がドンドン狭くなっていき、さながら宝物庫の如き有様だ。

「こ、これは……」

 あまりの光景にジンク王子もあぜんとしている。
 俺は部屋中を埋め尽くす勢いでドンドン財宝を陳列する。
 これらの財宝は俺が今までの冒険で手に入れた財宝だ。絵画は魔王の城の隠し部屋に飾ってあったものを、食器や宝石なんかはサリアを飲み込んだ超巨大な魔物リヴァイアサンの中に眠っていた船の財宝だ。
 正直絵画とかいらんし、鎧とかも最強装備を既に持っているので同じくいらん。
 こういう物は貴族同士でつながりを得る為に送りあうって聞いたからな、ジンク王子が仲間を得る為には丁度良いお宝だろう。

「っと、これは良いか」

 なんか財宝の中にキラキラしたハンコが出てきたが、さすがに他人の名前の彫られたハンコは要らんだろ。
 お宝も山ほどゲットしたから、何があるのか分からんくなってきたな。
 今度皆に協力してもらって整理するか。

「……」

 ジンク王子達はもう目が点になって呆然としている。
 そらそうか、いきなり部屋一杯に大量のお宝を並べられたら誰だって驚くだろう。

「まずは手付けとしてこちらをお受け取りください。王位継承のために必要とあれば、追加の支援も致しましょう」

「……ほ、本当にこれを全て私に?」

 ジンク王子は妙に興奮、というより緊張した様子で聞いてくる。

「ええ、全て差し上げます」

「だ、だが、これはマサイラ朝時代の装飾品、かの国は魔物の大発生によって滅びた為、これほど状態の良い品はめったに出てこないぞ……」

「殿下! これはサバルの絵画ですぞ!? しかも見た事の無い絵……よもや幻の新作!?」

「何だと!?」

 ジンク王子達は交渉など何処吹く風でお宝の鑑定を始める。
 うーん、もしかして俺の予想外に金目のものばかりだったんだろうか?
 まぁいっか。これが上手くいけば間違いなくそれ以上の利益になる。

「どうでしょう? 此度の件水に流して頂けますでしょうか?」

「喜んでっ!!」

 おっし、なんかちょっと予想外な反応だが即レスで受け入れてくれたから、良しとするか。

「はははっ! 凄いぞ! こんなものまである!」

「おおおおっ! こ、これはまさかぁぁぁぁ!!?」

 うん、君達もう詫びとかどうでも良いんだろう?
 げに恐ろしきは、財宝を前にした人間の欲望よなぁ、とかいってみる俺であった。
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