勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第120話 勇者、神話を知る

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「いつつ……」

 再び目を覚ました俺は、胸と頭の痛みをこらえながら起き上がる。

「ようやく起きたか。まったく寝坊助じゃのう」

 二人の少女達が俺の頭をペシペシと叩く。

「まったく先が思いやられるぞ」

 コイツ等好き勝手言いやがって。

「つーか、なんでアンタ等がここに居るんだよ!」

 俺はここに居るはずのない二人に問いかける。

「【天空島】から出ないのがアンタ等のルールだったんじゃないのか?」

 【天空島】、それはこの世界が異世界であると納得させられる象徴的な場所、空に浮かぶ巨大な島の事だ。

 初めてあの島を見た時、俺は本気で興奮した。
 だってアレにそっくりだったんだぜ?
 男があんなものを見たらそりゃ興奮しない訳が無い。

 だが【天空島】はアレの様に無人の廃墟ではなかった。
 そこには天空人と呼ばれる翼の生えた人間達が暮らしていたのだ。
 彼等は地上の争いに嫌気が差し、人の手の届かない空へと旅立った。
 その子孫が現在の天空人なのだという。

 そして目の前の二人の片方はその天空人の長、メルクリオ=ラヴュアその人だった。
 一見普通の少女だが、実は何千年も生きる歴史の生き証人である。

「言ったであろう? 真なる魔王に対抗する為の力を授けに来たのだ」

 真なる魔王、シルファリエルもそんな事を言っていたが、一体何の事なんだ?

「なぁ、真なる魔王ってなんなんだ? シルファリアはどうなっちまったんだ?」

「それも我らが説明しに来たのだ」

 もう片割れの少女が前に出る。
 黄金の髪の少女、いやこの少女は人間ですらない。
 人間の姿をした別の存在、金龍【ゴールド】、ドラゴンの中でも最強の個体だ。

 だがこの二人は地上の争いには関わらないと言って【天空島】に引きこもっていた筈だ。

「真なる魔王とは神話にある魔王の事。お主が倒したまがい物の魔王とは違う」

 それだ。それも気になる部分だ。

「アイツも言っていたけど、まがい物の魔王ってなんなんだ? 俺が戦った魔王ガルバラは魔王の名に恥ずかしくない強さを持っていたぞ」

 正直一対一で正々堂々と戦ったガルバラをまがい物呼ばわりされるのは気分が良くない。

「そもそも魔王という存在の定義が間違っておる」

 魔王の定義?

「魔王とは魔族の王という意味ではない。【魔】、すなわち神に仇なす力の顕現の事を言うのだ」

「神に仇なす力?」

 ゴールドは深く頷く。

「しかし魔王という存在の認識は時が流れるにつれてあいまいになっていった。その結果が現在のまがい物の魔王、魔族の王を自分で名乗った者達だ」

 つまり自称魔王?

「現在の魔王の襲名方法は二通りある。最強たる力を示し、我こそが王であると宣言する支配者としての魔王。これはお主が戦ったまがい物の方だ。支配者という意味では本物といえる」

 シルファリアの言っていた魔王就任儀式と同じだな。

「もう一つは玉璽と呼ばれる聖遺物……いやその由来を考えれば邪遺物と言うべきか。それを用いて儀式を行い、真なる魔王を己の身に降ろす事こそ本来の意味での魔王を継ぐ行為なのじゃ」

 メルクリオとゴールドが交互に言葉を発する。
 種族の違う二人が、己に課した古の役割を果たしているのだ。

「じゃあ真なる魔王ってのは最初の魔王って事なのか?」

 二人は首を横に振る。

「違う。真なる魔王とは始祖の魔王ではない」

「真なる魔王とは、魔族をこの世界に生み出した存在。魔神の事じゃ」

「魔神!?」

 まさかここにきて大魔王というか裏ボス的存在の登場!?

「魔神とは神がこの世界を作った時に生まれた淀み、マイナスの力の集合体。形なき悪夢の事」

 めっちゃ抽象的過ぎてよくわかりません。

「神が世界を作る事を役割としたように、魔神は世界を破壊する為に生まれた存在なのじゃ」

「魔神は神の目を盗み、邪悪な心を持った人間に力を与える契約を結んだ。己の力を与えてこの世界の支配者とする契約」

「どの様な契約だったのかは分からぬ。じゃがその人間は魔神との契約を受け入れ世界を支配する力を得た。……代償として自らの魂を滅ぼされたが」

「神の力は欠片程度でも人間には大きすぎる。ただの人間ではそれに耐えられなかった。結果、魔神は抜け殻になった肉体を手に入れ現世に介入する手段を得た」

「神の力を持ったソレに、地上の人間達は手も足も出なかった。人間を始めとしたあらゆる生き物が力を合わせてソレに挑んだがことごとくが返り討ちにあった。中にはソレの力にひれ伏し、邪悪な力を得る為に同胞を裏切った者達もおった。それが今日の魔族や魔物なのじゃ」

 マジか。神話が現実の生き物の誕生に由来するなんて、さすが異世界。進化論とか完全無視ですよ。ダーウィン涙目だな。

「それで、どうやって真なる魔王を倒したんだ? 倒す方法はあるんだろ?」

 俺が続きをせがむと、二人は急かすなと言って俺の頭をポンポンと叩く。
 子供扱いするなってーの。自分より見た目が若い子供二人に子供扱いなんてされたら、なんか変な扉が開くだろうが。

「困り果てた地上の生き物達は神に祈りをささげた。神様どうか我らをお救い下さいと」

「そして神は我が子等の祈りに応えた。勇者召喚という形で」

「勇者召喚!?」

 ここで勇者召喚が出て来るのか! って事はハジメデ王国に勇者召喚を教えたのはホントに神様だったのか?

「召喚された勇者は神より授けられた力で真なる魔王と戦い、その身を異世界へと放逐した」

 え?

「そうして真なる魔王が居なくなった世界は、再び平和を取り戻したのじゃ」

「ちょっ、ちょっと待った! 待った!」

 今凄い大事な事言った。

「なんじゃ生徒よ? 質問がある時は手を挙げよ」

 誰が生徒だ。だが言う通りにしないとこの二人のコンビネーション攻撃を喰らって大ダメージを受ける。コイツ等の攻撃って大した力でもないのにめちゃくちゃ痛いんだよな。
 なんか芯まで響く感じの痛みでさ。 
 俺は渋々手を挙げて二人に質問する。

「今、真なる魔王を異世界に放逐したって言ったよな?」

「その通り」

「真なる魔王を倒したんじゃないのか? その為に勇者は召喚されたんだろ?」

確かに勇者の力を十全に発揮したならば、真なる魔王を打倒する事は可能じゃ。じゃがそれだけでは真なる魔王に宿った魔神の魂を打ち倒す事は不可能。なにしろ相手は神なのじゃからな」

「器を破壊された魔神の魂は現世に解き放たれる。そして新たな肉体を得て再び復活する」

 なんてこった、それじゃあ意味がないじゃないか。

「勇者達は困り果てた。何度倒しても魔王は復活したのじゃからな。そこで神は真なる魔王を異世界に放逐する事にしたのじゃ。魔神の魂をこの世界から追い出す為にの」 

「追い出す?」

「そう、真なる魔王を体ごとこの世界から追い出す。そうすれば体が滅んだ後この世界に戻る事は出来なくなる。今の世界には神がほどこした結界が張られているから、外部から入る事は出来ない」

 成程、文字通りの追放ってわけだな。

「けれど、内側から呼び寄せる事は出来るのじゃ。真なる魔王が封印される前に残した玉璽を触媒とした儀式を魔族が行う事で、魔神の魂をこの世界へと呼び寄せる事が出来るのじゃ」

 自分が倒される事を予測して準備をしてたって事か。
 魔神ってのは、ずいぶんと慎重なやつなんだな。

「魔族はただの魔神の先兵ではない。魔神がこの世界に復活する為の予備の肉体」

 ホント準備万端だな。

「つまり勇者は魔王をこの世界から追い出す為に召喚されるって事か?」

 でも俺そんな魔法教わってないぞ?

「そうじゃ。お前達が逆召喚術式と呼ぶ魔法は本来真なる魔王をこの世界より追放する魔法なのじゃ」

ん?

「今なんつった?」

 今何か凄い事を言ったぞ。
 
「逆召喚術式とは、本来真なる魔王を追放する為の術式と言った」

 ……な

「何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 この世界に来て、一番の驚きが俺を襲うのだった。
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