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第133話 勇者、教皇の悪事を看破する

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「言えないのなら俺が言ってやろう! お前達教会は魔王と繋がっていたんだ! だから魔王が突然襲ってきても教会関係者だけが逃げる事が出来たんだ!」

 俺ははっきりと言ってやった。
 教会が魔王と、魔族と繋がっている事を。

「う、あ、あ……」

 袋で顔が見えないが、その狼狽えた声音から、何故バレた、どうやって誤魔化す? などの焦りと戸惑いの声が聞こえてくる。
 ここで即座に私は知らないって言えない時点でもう真っ黒だよね。
 
「わ、私は知らない!」

 おっせーよ。

「私ではない! 神に仕える私が人類を裏切る筈が無いではないか!」

 あくまで潔白だという訳だな。

「だが聖剣の輸送は教会の秘技なんだろう? だとしたらその情報を漏らすのは教会の上級幹部なのは間違いない。あんたが犯人でないのなら、そうなんだろう?」

 と、ここで教皇に逃げ道を与えてやる。
 すると教皇は喜々とした様子で俺の言葉に乗って来た。

「その通りだ! きっと信仰心の足りない者が欲望に身をゆだねてしまったのだろう。悲しい事だ」

 あんまり悲しそうじゃないっすね。寧ろ自分以外にターゲットが移って嬉しそうだな。

「そうなると、そう例えば枢機卿が怪しいな。聖女ミューラの後見人である彼なら、聖剣の移送情報を聖女越しに勇者に伝えて魔族に伝えたと考えられるだろう」

 まぁそんな事はないのだが、教皇は深く考えずに適当な推測を強く賛同してくる。

「それだよ! いや私も彼は怪しいと思っていたのだ。会議の後に姿をくらます時があったし、きっと彼が魔族の手先だったのだ!」

「っ!?」

 やばい、笑いが堪えきれん。
 ちょっとこの教皇、ピンチになった途端頭の回転がめちゃくちゃ悪くなってんぞ。

「っ……」

 おっと、こちらも限界みたいだな。
 じゃあそろそろ答え合わせと行こうか。

「では、枢機卿が犯人なのか、本人に聞いてみようか」

「……なに?」

 教皇が間の抜けた声をあげる。
 そうなのだ、あの時俺達の追っかけっこの巻き添えを受けて気絶していたのは教皇だけではない。
 ミューラの後見人であった枢機卿もその場居たのだ。
 俺は足元で縛られてビッタンビッタン跳ねまわっていた機卿の猿轡を外してやる。

「っぷはっ! 教皇! 私が犯人だなどと、どういうつもりです!? 私を裏切るおつもりか!?」

 口が自由になった枢機卿はさっそく教皇に抗議の言葉を投げかける。

「そ、その声は枢機卿!? 何故ここに!?」

「最初から居たよ。その上にアンタの言葉を全部聞かせていたんだ」

「な、何だってー!?」

 おーおー、驚いとるわ。
 だがそんな教皇に枢機卿は激しい怒りを見せる。

「全ては貴方の策略ではないですか! 勇者に全ての責任をかぶせたのも! 魔族と手を組んで勇者を殺そうとしたのも! 全て貴方の策略だ!」

「な、なんという事を言うのだね! 実行したのは君だろう! 私は勇者が人類を裏切ったのでそれを広く人々に知らせて危機を伝えるべきだという君達の嘆願を聞き届けただけだよ!? 人類を裏切れなどとは一言も命じておらんよ!」

「何をおっしゃる! 魔族との取引で勇者を都市におびき寄せる代わりに自分達だけは遺跡に避難するという約定を結んだのは貴方ではないですか! 貴方の命令でなければ全ての幹部司祭から平神官まで全てを迅速に避難させるなど不可能でしょうに!」

 確かに、枢機卿が犯人だとしたら、彼の政敵である神官は反対して避難をしなかっただろうし、なにより教皇が正義の人なら罪のない一般人を見捨てるような真似をしはしないだろう。ついでに枢機卿達にも同じ事が言える。
 教皇が都市の人々を見捨てるなんて命令したのなら、まともな神官なら逆らうだろう。
 場合によっては教皇に対してクーデターを行って教皇の座を奪うくらいするのではないだろうか? それが無かった時点で幹部司祭達も全員同じ穴のムジナなのは間違いないな。

 などと考えている間にも教皇と枢機卿の口論はヒートアップしていた。

「知っているんだぞ! 君が多くの女性神官に手を出していた事を! どうせ聖女を取り戻したいという理由も、あの体が目当てだったのだろう!?」

「なんというふしだらな! 教皇のお言葉とは思えませんな! 貴方こそ、勇者の尻を見て随分と熱っぽい視線を送っていたではないですか!」

「なっ!? なな、なんの事だね!?」

 やめろ! お前そんな目で俺を見てたのかよ‼
 宗教家が同性愛に走るというのはよく聞く話だが、まさか自分がその対象にされるとは思わなかったぜ。うわ、尻がゾワゾワする。

「と、ともかくだ。結局どちらが主犯なんだ?」

 まぁ既に知ってるんだが、ここはあえて本人達の言葉で教えて貰おう。

「枢機卿だよ!」

「教皇だ!」

 どっちも譲らんねぇ。

 けど、必要な『発言』は仕入れた事だし、そろそろ答え会わせといくか。

「じゃあ俺が答えを教えてやろう。勇者を裏切り、魔族と手を組む事を計画したのは……」

 俺は一呼吸の間をおいて大きな声で叫んだ。

「教皇を始めとした教会上層部全員だ!!」

「「ひいっ!?」」

 風魔法による拡声効果による轟音で、間近にいた教皇と枢機卿が悲鳴をあげる。

「こちらには証人もいる! 言い逃れは出来ないぞ!!」

「しょ、証人!? 裏切り者が居るのかね!?」

 いや、裏切り者って発言は罪を認める事にならね?

「そうだ! 彼女が証人だ!!」

 そう言って、俺は教皇の頭にかぶせた布袋と枢機卿の目隠しを取る。

「「っ!?」」

 突然目に入って来た光に眩しそうに目を細めた二人だったが、慣れてきた目をゆっくりと開く。
 すると、彼等の前には美しい少女の姿が立っていた。

「わたくしが証人です」

「「……白?」」

 ……うん、その角度だとパンツ見えるよね。
 良かったーちゃんと下着も付けさせておいて。

「っ!? このエッチ!!」

「「ぶぎゅるっ!?」」

 あ、思いっきり顔面を踏んだ。

「と、ともかく! わたくしが貴方達の悪事を見ていました! 貴方達は魔族と手を組み、マスターの命を脅かそうと画策していた事を私が証言いたします!」

 2歩、いや4歩さがった少女が殊更強く宣言する。

「「……ふっ」」

 しかし二人は少女を見て不敵な笑みを浮かべる。
 っていうか、お前等息ぴったりだよな。

「冗談は止めておきなさい少女よ。遺跡には君の様な幼い少女など居ないのだよ。幹部司祭の家族以外はね」

 おおっと、ここで身内にだけ甘い事が判明したよ。

「その通りだとも。そもそもこのような少女の言葉にどれだけの信ぴょう性があるのだね?」

 地球なら女性差別発言ですねー。まぁ子供のたわごと扱いって事なんだろうが。

「つまり彼女の証言は証拠足りえないと?」

「「当然じゃあないか!!」」

 またしても声を揃えて肯定してくる教皇達。

「じゃあ、これを見ても同じ事が言えるかな?」

 そう言って俺は少女の後ろに立つ。
 二人からすれば俺が少女の後ろから現れた形だ。

「き、君は勇者トウヤ!?」

「何故お前がここに!?」

 突然の俺の登場に驚く二人。
 まぁ最初から居たんだけどねー。意外と人間声だけじゃ判別付かないもんだねー。
 あんまり顔を合わせて喋ってなかったのも原因だが。
 そして今はそんな事はどうでもいい。驚いた顔を見れたのは面白かったが。

「戻れ、フェルクシオン!」

「イエス、マスター!」

 俺の言葉に少女、いや聖剣フェルクシオンの聖霊が応え、その真なる姿を取り戻してゆく。

「「こ、これは!?」」

 見る見る間に形を変えてゆくフェルクシオンに驚きの声をあげる教皇達。
 そして彼らの前で、少女は一本の剣へと姿を変えた。

「見覚えがあるだろう? そう、こいつこそお前達が遺跡の中で悪だくみの数々を聞かせていた、聖剣フェルクシオンだ!」

「な、なななななっ!?」

「何故聖剣が少女の姿に?」

 俺が驚きのあまり言葉にならない彼等の疑問を言葉にすると、二人はコクコクと頷く。

『私は聖剣フェルクシオンにしてその聖霊。主の魂の力があれば、聖霊としての姿を現界させる事が出来るのです』

 俺が近くに居ないと足の生えた剣っていうクリーチャーになるけどな。

『聖剣フェルクシオンの聖霊が告げます。この者達は魔王と手を組み勇者トウヤを陥れようと画策しておりました。神の手によって鍛造された私がその事実を保証します』

 聖剣の証言とあっては逃れる事は出来ないと、二人がガックリと肩を落とす。

「バカな……」

 崩れ落ちる枢機卿。
 その姿を見た俺は、これで教会の腐敗を証明できた……そう思ったその時だった。

「く、くはははははははっっ!!」

 突然教皇が体を震わせて高笑いを始めた。
 どうしようもなくなって、とうとうおかしくなったのか?

「それが! それがどうだというのだ!」

「何!?」

 教皇の不可解な言葉に俺は首を傾げる。

「事実が分かったからと言って誰が信じるのだね? 教会の全てを支配してきたこの私は、宗教によって世界の半分を支配してきたのだよ!! たとえ君が聖剣を持って真実を告げようとも! 教会の頂点に立つ私の言い分と、人類を裏切って逃げ出したと言われている貴方の言い分! 人々がどちらを信じるか、それは火を見るよりも明らかだ!」

 つまり権力と積み重ねてきた信頼で全てをひっくり返すって言いたいわけか。

「聖剣が証言してくれる? そんなもの、権力によってかき消せばよいのだよ!! 例えば、我々と手を組んだ魔族が自ら勇者と手を組んだと言えば、人々は貴方を人類の敵だと信じるでしょう! ほかならぬ魔族自身が証言するのだからね!」

 追い詰められてとうとう本性を現したか。
 教皇は外道な手段を危機として語りだした。

「それに魔族には変身魔法を使える者もいる。君に、勇者に変身した魔族が暴れれば嘘も事実になる!! 更に! 君が自分の無罪を証明する為には! 私を生きて公の場に連れて行かなければならない! つまり君はここで私を殺せない!」

 成程、教皇は俺が潔白を証明する為には自分を殺すわけには行かない。だが自分はそれを認める事をせず、寧ろ俺の立場がさらに悪くなるぞと脅したいわけか。
 けどねぇ、いつおれが潔白を証明したいっつったよ?

「けど、そんな事を言うって事は、お前は自分が魔族と通じているのは事実だと認めるって事だぞ」

「ふん、こんな場所で認めても我々以外に証人は居ないのだよ」

「いいや、居るさ」

 自分がどこにいるのかいまだに気付いていないってのは、哀れだな。
 革袋を外されて最初に目に入ったのがフェルクシオンのパンツだったからといって、周囲の光景に意識が向かなかったんだから。 

「お前達の悪行は、神が遣わした聖剣が聞いていた! そして!」

 俺が二人に対して顎で後ろを指すと、二人も縛られた体を捻って後ろを見る。
 そして、凍り付いた。

「この町の住人全てがお前達の悪行の全てを聞いていたぞ!」

 そこに居たのは、聖女であるミューラ、そして避難してきた聖教都市の人々だった。
 そう、ここは俺がミナミッカ群島に作った避難町のど真ん中もど真ん中、中央広場だったのだ。
 俺は町の人達に会話を聞かせる事で、彼等に教皇達の悪事の証人となってもらったのである。
 ちなみにあらかじめフェルクシオンから教皇達の悪事を聞いていたので、実は勝率100%の博打だったりする。

「コイツが俺達を見捨てたのか……」

「自分達だけ逃げ出しておきながら……」

 人々の顔は怒りで真っ赤な攻撃色になっている。これは止められそうもありませんなぁ。
 イナカイマからの避難民達は遠巻きに見ているが、その顔には聖教都市の人々への同情と、教皇達への侮蔑の表情に満ちていた。

「ま、待ってくれたまえ。我々は君達を見捨てる気などなかった。決してなかったのだよ!」

 ついさっきフェルクシオンによって悪事が暴露されたと言うのに、この後に及んで教皇が後ずさりながら必死で弁明する。
 よほど命が惜しいみたいだ。

「そうだ! 私は悪くない! 教皇が全部 悪いんだ!!」

 しかしここで枢機卿が教皇に罪を擦り付けて自分だけでも助かろうとする。
 だがそんな言い訳は既に通用しない。
 俺の尋問によって教皇達の悪事は暴かれ、更に枢機卿との仲間割れでそれが事実なのが判明している。更には聖剣であるフェルクシオンが事実であると証言してくれた。
 なにより、実際に見捨てられて殺されそうになった聖教都市の住民達が居るのだから、言い逃れなど出来ようはずもない。

「た、助けてくれミューラ! 私は君の後見人だぞ! 君は私に恩義があるだろう!?」

 と、ここで枢機卿が後見人の立場を利用してミューラに助けを求めるべく縋りつく。
 醜さもここに極まれりだな。

「ず、狡いぞ枢機卿!! ミューラ君! 君を聖女として認めたのは教皇であるこの私だよ! 同じ神を信仰する者として、同胞が暴力に晒されようとしてるのを見過ごすのはどうかと思うよ!?」

 更に教皇まで加わって来る。
 お前らにプライドは無いのかと。

 だがミューラは彼等に対して慈母の微笑みを見せる。

「確かに、お二人のおっしゃる通りです」

「「おおっ!!」」

「ですが、私の後見人である事と、これまでの悪事は全く別のお話です。教皇様もまた同様です」

 バッサリ切られてやんの。

「ですので、きちんと罪を償ってくださいね」

 と言って、ミューラは横にすすすっっと下がると、後ろから聖教都市の人達が前に出てくる。

「俺達の怒り! 思い知れやぁぁぁぁ!!」

 先頭にいた男の怒りの雄たけびに呼応し、聖教都市の人々が二人に群がって殴り掛かった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 憐れ二人は民衆によってボッコボコにされたのだった。
 
「あっ、そうそう、枢機卿様。私はトウヤさんのものですので、あしからず」

 と、まるで止めを刺すかの如く、ミューラはボコボコにされている枢機卿にとびっきりの笑顔で告げるのであった。
 合掌。
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