クロヴァンの探偵日記

高松 津狼

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第三章 オソレカラス山編

第25話 伝承 と 電気

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チャンパカ「(指パッチン)」

彼が指を鳴らすと、急に部屋が明るくなった。

チャンパカ「これが電気というものの力。夜中に火を灯さずとも明かりが得られる魔法の灯りなんだ。」
私「なにこれ。ものすごく便利じゃん!」
チャンパカ「これは、遠く離れた西の市場にいるとある石工が作ったちょっと変わった仕組みの明かりなんだ。」
私「へ~!凄い。こういうのもいつか自分の家に飾ってみたいな。」
チャンパカ「今回行くオソレカラス山は夜で寝泊まりすることも考えなきゃいけないから、これの携帯版も持っていくつもりだよ。」


オソレカラス山はそんなに暗いところなのか...まあ山の中だし命の危険は常に付き纏うか・・・


私「なんか本格的な探検になりそうだね。」
チャンパカ「そりゃあね。記憶のモノリスまでたどり着けるかわからないし、山の上にある謎の集落に訪れなきゃいけないみたいだしね。」
私「謎の集落?」
チャンパカ「そうそう。記憶のモノリスが近くにある集落には必ずとある伝承が残ってるとされているんだけれど、ヒョウタン人もあまり訪れていないみたいで、中には知らない人もいるくらい外界から隔絶されてるみたいなんだよね。」
私「へ~...そんな変わった集落があるんだね。」

謎の集落と伝承。ますます気になるな。

私「ところでとある伝承っていうのはなに?」
チャンパカ「そのとある伝承は、『昔、緑の草原がこの地に広がっているときに~』で始まる文言が書かれた碑文を街の長老が持っているらしいんだけど、その碑文には手形があるらしいんだ。その手形がピンク色に光ったものは、長老が記憶のモノリスの入り口まで案内してくれるらしい。」
私「ふ~ん。なんか変わった伝承だね。」
チャンパカ「でも忘れちゃいけないのは、案内された後は自力で罠をくぐりぬけなきゃいけないらしいんだ。記憶のモノリスは昔から存在そのものは認知されているけど、誰も入れたことはないらしい。」
私「ロマンチックだなあ。その場所初めて制覇する気なんでしょう?」
チャンパカ「まあ記憶のモノリスは、今まで幾人の人が挑んでは亡くなった場所らしいからね。」
私「え...そうなの!?罠ってそんな酷いものなの!?」
チャンパカ「まあなかには即死トラップのようなものもあるらしいと聞いてる。それに引っかかったもの近くには骸骨が大量に転がってるとらしいとも聞く。慎重に行かないと死ぬかもしれないからな。」
私「ひええ..」

私はそれを聞くと全身が急に冷えていくような感覚に襲われた。ワクワクが消えるほどの恐怖は3日前のあれ以来だ。
チャンパカは少し私の反応を見て話を続けるか伺っていうような様子を見せている...

チャンパカ「今話せる話しはこれくらいかな。明日は装備を整えるために忙しくなるだろうから、そろそろ夕飯を作ることにしようか。その前に他の部屋をいくつか案内するよ。キッチンは最後にいこうか。」

私の放っていた雰囲気を察してくれたようだった。とりあえず夕飯でさっきの恐怖のイメージは忘れよう。楽しく調査するには邪魔な感情だ。
私はそう心に決めて彼についていき、部屋を案内してもらった。

部屋を出ると扉が左右に4つあった。彼は一番手前の右側の部屋に私を案内すると、そこには大量の紙とつくりかけの地図があった。これは私の母がよく使っていた製図台だろう。

チャンパカ「ここが製図室だ。探検先のデータを集めてここで記入したり自分のメモ帳を増補したりするんだ。」
私「結構しっかりした作りになってるんだね。これなら自分で色々作れそうだけれど。」
チャンパカ「本来は建物を設計したりするときに使うものだったものを改造して作ったものだから、少し大きいんだけどね。」
チャンパカ「それじゃあ次案内するよ。」

次の部屋は一番手前から左の部屋だった。そっちには本屋のようにずっしりと並んだ本が保管されていた。

私「凄い~!どこでこんな量の本を集めたの!?」
チャンパカ「ほとんどメラさんが集めたものなんだけど、ヒョウタン人の落としていった荷物や、秘密の図書館などから、プレイバイトンに関する資料をたくさん盗んできたらしい。なにか、ヒョウタン人について知りたいことがあったり、資料が足りないなって思ったら見てみるといいよ。新しい見解が見つかる可能性はあるから。」
私「へ~...メラさんって凄いね。」
チャンパカ「あの人は...そうだね。かなり変わってるというか実力はあるよね。」

私は彼が少し言葉を濁したことに気づいた。歯切れも悪かったことから、恐らくこの言葉には裏があるかもしれない。いつかさらっと聞いてみよう。

チャンパカ「それじゃあ次は、3つ目の部屋にいこうか。」

彼は一番奥の右側の部屋に案内した。

チャンパカ「ここがクローゼット兼着替え場所。」
私「凄い...いい臭い~。いくつも探偵服があるけどなんで?」
チャンパカ「さっきの僕の服を見てもらえればわかるけど、こういうことをやってる以上ヒョウタン人に斬りつけられることがたまにあるから。それの着替え用だね。」
私「あぁ...そっか。確かに血がついたままだと色々問題があるし、目立つしね。」
チャンパカ「そうそう。だからいくつか変えを用意してるんだ。」
チャンパカ「もし必要になったら言ってね。」
私「うん。分かった。」

そして奥の左側の部屋に彼が案内すると、そこにはいい匂いが漂っていた。

私「いい食べ物の臭い~。これはミートパイの匂い?」
チャンパカ「そう。これはミートパイの匂い。僕の好きな食べ物の一つなんだ。アップルパイと並んでね。」
私「アップルパイもおいしいよね。私も大好き。」

すると、チン!という音がした。
ベル?なのかななんか軽い金属をぶつけたような音だった気もするけれど...

チャンパカ「お。出来たっぽいな。じゃあいこうか。」

料理って手で作るものじゃないのか?そもそも出来たってまだ私達はなにもやっていないはずなのに...そうするとチャンパカはキッチンの奥へ案内する。

チャンパカ「これが、自動で作ってくれる魔法のオーブン。電子調理器だ。」
私「電子...調理器?」
チャンパカ「これはボタンがいくつかあるんだけど、それを押すと自動で作ってくれるんだ。もっともその材料は自分で作らなきゃいけないし、パイの場合は、パイまで作らなきゃいけないけどね。」
私「それ電子調理器の必要ある?」
チャンパカ「使ってみる?意外と楽だよ。」
私「うん?うん。」

電子調理器だと...?なんだこの生意気な調理器とかいう機械は。絶対自分の手で作った方がミートパイはおいしいに決まっている。私がこの料理を今からでも...

その時、彼が電子調理器からミートパイを取り出すと、ビックリするほどのいい匂いが空腹の私を襲った。
ヤバい。食欲を刺激される。これは屈辱。私の嗅覚を刺激するなんてとんでもなく生意気な機械だ。

チャンパカ「まあまあ。そんな怪しむ顔をなんかせずにまずは食べてみなよ。おいしいよ?」
私「ふ~ん。そうじゃあいただきます...」

私は生意気な機械が作ったミートパイの味をズタズタに評価するためにその一片を口に運んだ...
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