転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球

文字の大きさ
13 / 85
【第二章】恋愛ゲーム、壊します宣言

13 帰邸と揺れる想い―「公爵家の夜」

しおりを挟む
馬車が闇夜の街道を走り、公爵家の邸宅へ到着したときは、すでに深夜を回っていた。屋敷の門が開け放たれ、待機していた使用人たちが慌ただしく出迎える。
――セレナ・ルクレールの実家である公爵家。転生したばかりの私には実感が薄いが、この国でもかなり有力な名門だと聞いている。けれど私は、ついさっきまで前世の普通の大学生だった。大豪邸に帰り着くなんて状況は、いまだに現実味がない。

馬車を降りると、すぐに執事の白髪まじりの老紳士が駆け寄ってきた。

「お嬢様、お戻りになられましたか。どうかご無事で……舞踏会での混乱については少々耳にしております」

その言葉に、私はぎくりとする。どうせ「悪役令嬢が断罪された」的な噂がもう飛び交っているのだろう。使用人たちの表情を見る限り、彼らも内心では不安なのだと思う。
セレナとして生きてきた時間を実感できず、どう振る舞うのが“正解”かも分からない。だから私はただ「ええ、大丈夫よ」と短く答え、そそくさと自室へ向かった。

長い廊下を通り過ぎ、豪奢な扉を開けた先にある部屋こそ、私――セレナの寝室。天蓋付きのベッドがあり、一歩足を踏み入れただけで、どこか貴族趣味に浸った世界観を覚える。シルクのカーテンやら、クラシカルな絵画やら、何もかもが“現実離れ”しているように見えた。

ただ、今は疲れ切っていたせいか、そんなことを驚く余裕もなかった。私は急いで着替えもそこそこにベッドへ沈み込む。頭が割れそうに重い。さすがに転生初日に“断罪イベント一歩手前”に立たされれば、誰だって疲労困憊に違いない。

「……変な日だわ。本当に、どうしよう」

吐き出すような独り言だけが闇に溶ける。
婚約破棄の流れなら今ごろ、無理やり公爵家にも迷惑がかかっているかもしれない。けれどアレクシスは今夜、断罪宣言を撤回し、私を連れ出した。そして妙な苦悩を抱いているらしい。

「もしかして、アレクシスは私に……未練があるの?」

そんなばかな、と笑い飛ばしたい。悪役令嬢はヒロインと比べれば嫌われ役だ。ゲームの王子ルートでも、特に“溺愛”されている描写なんてなかったように思う。
だが、あの複雑な瞳が脳裏に焼き付いて離れない。苦しそうに「断罪したくない」と言いかけていた彼。――もし本当に愛情があったのだとしたら、なぜ悪役令嬢ルートで断罪に至るのだろう?

「……考えても仕方がないわよね。どうせ明日になればまた状況が動くはずだし」

私はそう自分に言い聞かせ、目を閉じる。が、容易に眠れない。遠い前世の記憶と、ままならない転生後の現実とが脳内でぐるぐる回り、結局、深夜をとうに過ぎた頃になってようやく意識が薄れていった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。 他小説サイトにも投稿しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

処理中です...