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【第五章】崩壊する聖女神話、暴かれる嘘
45 混乱の夜――リリィの拘束と学園の動揺
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学園祭のメインステージで、リリィが引き起こした魔法暴走。
火花と閃光が飛び散り、一部の観客が軽傷を負うという事故が起きたのだが、不幸中の幸いで大惨事には至らなかった。周囲の生徒や教師、アレクシスが素早く鎮火と避難指示を行ったおかげで、最悪の事態は回避されたのだ。
私は――この混乱の渦中で、リリィが「禁忌の魔法」を使った疑いを確信していた。あの異様な力は、決して“聖女の奇跡”などではなく、もっと歪んだモノだ。
けれど、周囲の大半はそこまで分かっていない。多くの人が「演出で失敗した?」「聖女としてまだ力を制御しきれていない?」程度に捉えているようで、事態を深刻に考えているのはアレクシスや私、ノエルなど、ごく一部だ。
ステージ事故の後、リリィは体調不良を理由に学園の保健棟に運ばれた。頭痛や倦怠感を訴え、人前に出るどころかまともに話すのも難しい状態だという。
――まあ、禁術の反動なのかもしれない。あるいは失敗による精神的ショックか。あれだけの力を無理に使えば、普通ではいられないだろう。
そんなリリィに対して、教師たちは「聖女を過労に追い込んだ」と責任転嫁を叫ぶ者と、「いくらなんでも危険すぎる演出をやりすぎでは?」と疑問を抱く者に割れ、学園は動揺を隠せない。
祭自体はまだ続いているが、さすがに皆のテンションは下がってしまった。夜の舞踏会を楽しみにしていた者も、「こんな状態で本当にやるのか?」とざわついている。
私は腕の火傷が浅かったとはいえ、痛みが残っていたため、昼下がりから学園の医務室で簡単な治療を受けていた。そこにノエルとアレクシスが来て、事態を説明してくれる。
「セレナ、怪我のほうはどうだ? お医者様は大したことないと言っていたが……」
「ええ、火傷用の薬草軟膏を塗ったから痛みも和らいだわ。包帯しているけど、今夜の舞踏会には支障ないと思う」
私がそう答えると、アレクシスは胸を撫で下ろすように安堵する。ノエルも同様に、ほっとした様子だ。
「よかったです。あの暴走は本当に危険でしたからね……。リリィ嬢はどうなったのでしょう?」
ノエルが問いかけると、アレクシスが神妙な顔つきで口を開く。
「彼女は保健棟で一応手当てを受けているが、しばらく人前には出られないだろう。……教師の一部が ‘リリィの身柄をどうするか’ でもめていて、国の関係者に相談が行くと思う」
言わば“聖女の失態”だから、王家としても看過できない一件だ。リリィの力が本物か偽物か、禁忌の魔法を使った証拠があるのか、そうした問題が一気に表面化することになるだろう。
私は薄く笑いながら、ベッドから起き上がる。
「ふふ……私が前から言っていたでしょ。リリィは怪しいって。今回の事故で、ようやく周囲もそれに気づき始めるわ」
「そうだな。でも……もし彼女が本物の聖女でなかったとしても、あそこまで大きな力をどうやって手に入れたのか。その裏には、もっと大きな闇が潜んでいる可能性もある。父王も動くだろうから、俺も警戒を強める」
アレクシスの言うとおりだ。リリィ一人の問題では済まないかもしれない。王家や宮廷魔術師、さらにリリィを推している一部の貴族も巻き込んだ政治的スキャンダルに発展する恐れがある。
――もっとも、その辺りの大枠はアレクシスと王族側に任せるしかない。私としては、今夜の舞踏会を成功させることと、リリィが起こすかもしれない新たな混乱を防ぐことに意識を向けたい。
「とにかく、私は夜の舞踏会であなたと踊る。そこは絶対に譲らないわ。……大丈夫よね、アレクシス」
私が問いかけると、彼は強い眼差しで頷く。
「もちろんだ。むしろ、今夜の舞踏会で、俺は改めてお前との絆を示すつもりでいる。……お前が嫌じゃなければ、だが」
その言葉に心臓が大きく跳ねる。こんなにストレートに口にされると、さすがに意識せずにはいられない。私の頬が熱くなり、視線をそらして口ごもる。
「そ、そんなの、嫌なわけないでしょ。もともとそういう約束なんだし……」
ノエルが少しだけ遠慮がちに笑みを浮かべて「お二人とも、お熱いようで」と呟く。私は照れ隠しに唇を尖らせて「黙りなさい」と返すが、内心では“本当に私が王子の隣に立っていいの?”という不安が拭えないままだ。
(でも、学園祭をぶち壊すわけにはいかない。リリィが崩れ落ちた今こそ、私たちが新しい道を提示しなきゃいけないんだわ)
そう自分を鼓舞しながら、私は医務室を出ていった。腕にはまだ包帯が巻かれているが、ドレスの袖で隠せば目立たないはず。せめて、今夜だけは痛みを忘れて踊りたい。――悪役令嬢でも、夢を見ていいだろうか?
火花と閃光が飛び散り、一部の観客が軽傷を負うという事故が起きたのだが、不幸中の幸いで大惨事には至らなかった。周囲の生徒や教師、アレクシスが素早く鎮火と避難指示を行ったおかげで、最悪の事態は回避されたのだ。
私は――この混乱の渦中で、リリィが「禁忌の魔法」を使った疑いを確信していた。あの異様な力は、決して“聖女の奇跡”などではなく、もっと歪んだモノだ。
けれど、周囲の大半はそこまで分かっていない。多くの人が「演出で失敗した?」「聖女としてまだ力を制御しきれていない?」程度に捉えているようで、事態を深刻に考えているのはアレクシスや私、ノエルなど、ごく一部だ。
ステージ事故の後、リリィは体調不良を理由に学園の保健棟に運ばれた。頭痛や倦怠感を訴え、人前に出るどころかまともに話すのも難しい状態だという。
――まあ、禁術の反動なのかもしれない。あるいは失敗による精神的ショックか。あれだけの力を無理に使えば、普通ではいられないだろう。
そんなリリィに対して、教師たちは「聖女を過労に追い込んだ」と責任転嫁を叫ぶ者と、「いくらなんでも危険すぎる演出をやりすぎでは?」と疑問を抱く者に割れ、学園は動揺を隠せない。
祭自体はまだ続いているが、さすがに皆のテンションは下がってしまった。夜の舞踏会を楽しみにしていた者も、「こんな状態で本当にやるのか?」とざわついている。
私は腕の火傷が浅かったとはいえ、痛みが残っていたため、昼下がりから学園の医務室で簡単な治療を受けていた。そこにノエルとアレクシスが来て、事態を説明してくれる。
「セレナ、怪我のほうはどうだ? お医者様は大したことないと言っていたが……」
「ええ、火傷用の薬草軟膏を塗ったから痛みも和らいだわ。包帯しているけど、今夜の舞踏会には支障ないと思う」
私がそう答えると、アレクシスは胸を撫で下ろすように安堵する。ノエルも同様に、ほっとした様子だ。
「よかったです。あの暴走は本当に危険でしたからね……。リリィ嬢はどうなったのでしょう?」
ノエルが問いかけると、アレクシスが神妙な顔つきで口を開く。
「彼女は保健棟で一応手当てを受けているが、しばらく人前には出られないだろう。……教師の一部が ‘リリィの身柄をどうするか’ でもめていて、国の関係者に相談が行くと思う」
言わば“聖女の失態”だから、王家としても看過できない一件だ。リリィの力が本物か偽物か、禁忌の魔法を使った証拠があるのか、そうした問題が一気に表面化することになるだろう。
私は薄く笑いながら、ベッドから起き上がる。
「ふふ……私が前から言っていたでしょ。リリィは怪しいって。今回の事故で、ようやく周囲もそれに気づき始めるわ」
「そうだな。でも……もし彼女が本物の聖女でなかったとしても、あそこまで大きな力をどうやって手に入れたのか。その裏には、もっと大きな闇が潜んでいる可能性もある。父王も動くだろうから、俺も警戒を強める」
アレクシスの言うとおりだ。リリィ一人の問題では済まないかもしれない。王家や宮廷魔術師、さらにリリィを推している一部の貴族も巻き込んだ政治的スキャンダルに発展する恐れがある。
――もっとも、その辺りの大枠はアレクシスと王族側に任せるしかない。私としては、今夜の舞踏会を成功させることと、リリィが起こすかもしれない新たな混乱を防ぐことに意識を向けたい。
「とにかく、私は夜の舞踏会であなたと踊る。そこは絶対に譲らないわ。……大丈夫よね、アレクシス」
私が問いかけると、彼は強い眼差しで頷く。
「もちろんだ。むしろ、今夜の舞踏会で、俺は改めてお前との絆を示すつもりでいる。……お前が嫌じゃなければ、だが」
その言葉に心臓が大きく跳ねる。こんなにストレートに口にされると、さすがに意識せずにはいられない。私の頬が熱くなり、視線をそらして口ごもる。
「そ、そんなの、嫌なわけないでしょ。もともとそういう約束なんだし……」
ノエルが少しだけ遠慮がちに笑みを浮かべて「お二人とも、お熱いようで」と呟く。私は照れ隠しに唇を尖らせて「黙りなさい」と返すが、内心では“本当に私が王子の隣に立っていいの?”という不安が拭えないままだ。
(でも、学園祭をぶち壊すわけにはいかない。リリィが崩れ落ちた今こそ、私たちが新しい道を提示しなきゃいけないんだわ)
そう自分を鼓舞しながら、私は医務室を出ていった。腕にはまだ包帯が巻かれているが、ドレスの袖で隠せば目立たないはず。せめて、今夜だけは痛みを忘れて踊りたい。――悪役令嬢でも、夢を見ていいだろうか?
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