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第1章 迷々の森
4.ポニテのおじいさん
しおりを挟むチチチ……ピチュピチュチュ………
「ん…あ、さ?でも、まだ眠い……」
顔に当たる陽を遮るように布団にもぐった。
ん?
布団?
布団にもぐる??
ガバっと勢いよく起き上がり、一瞬頭がふらつきつつも周囲を見回した。
知らない部屋、高級ではないが今生の実家より良い部屋だというのがわかる。
窓の外には木が見えることから、森の中にある家だったりするんだろうか?
「奴隷商とか変な人なら、こんな風にベッドに寝せてないから…誰か助けてくれたのかな」
―――ガチャ―――
ドアから入ってきたのは、長い白髪をポニーテールにした空色の瞳をしたおじいさんだった。
おじいさんだけど、かっこいいわ。
「お?起きとったか。まだ寝てると思って、ノックせずに入ってしまってすまんかったのぅ」
おじいさんは、謝りながらこちらへと近づいてベッド側の椅子に腰掛けた。
「いやいや、昨日の夜に森で君のような幼子が、木にもたれて眠っていてとても驚いたよ。
あんな所で放置もできんから、とりあえず連れてきたのじゃが……。
何か、訳があって夜の森…しかも『迷々の森』と呼ばれる厄介なとこに入ったのじゃろ?」
「うん…。
あ、あのね、私が5歳の誕生日を迎える前に逃げたかったの。
逃げないと………両親に売られてしまうから。
私の上の兄たちも、みんな5歳を迎えたら両親に売られておじさん達に連れて行かれたのよ。
本当は、弟妹たちも連れてきたほうが良かったのかもしれないけど、3歳、2歳、1歳を連れて逃げるなんてまだ5歳の私には無理だったし…」
話しながらだんだんと俯いていき、しまいには目に涙も滲んできた。
兄にだけ家族愛があったと思ったけど、ちゃんと下の子たちにもそういう思いを抱いていたと今言葉にして自覚した。
自覚してしまうと、連れてこれなかった後悔や自己嫌悪が心に重くのしかかってくる。
いや、実際に心ではなく頭に重みを感じる…?
「そうかそうか。
よく逃げてきたのぅ。
…環境が良くないのによく心優しくさだったものだ。
お前さんの逃げてきた村と両親の名前はわかるかい?」
「えっと…ロローシュ村だった、はず。
両親の名前はー…父がケビンで母がマリーです。
家名は知らないです。
知ってどうするの?
私を………家に戻すの?」
聞かれるまま答えるうちに、せっかく逃げてきたのにあの家に戻されるのかと怖くなり、少し後ずさった。
おじいさんは、わたしの怯えを見て慌てて否定してきた。
「そ、そうじゃのぅて、わしの記憶にある噂がその村と人物と同じかと思うてなぁ。
決してお前さんを、家に戻すためではないので安心しておくれ」
「?
私の村と家がおじいさんが聞いた噂と似ているの?」
「んー………とても似ているのぅ。
よし、ちーと気になるから少し覗いてくるかのぅ。
噂通りなら………そろそろじゃろうし。
きっともうすぐ、お前さんの弟妹たちも救われるはずじゃ。
すごく心配じゃろうが大丈夫、というわしの言葉を信じてくれんか?」
大丈夫?
弟妹たちも救われる??
初対面の人の言葉をそのまま信じていいものかな?
でも…
「むむむー………。
んー………おじいさんは私をここまで運んでふかふかベッドで寝かせてくれたし、おじいさんから悪いものは感じないし…………。
うん、よしっ!
弟妹たちは大丈夫だって信じる!」
おじいさんを信じる宣言をした私の頭を、再びおじいさんはなでなで…いや、髪が鳥の巣になるほど激しく撫でられた。
文句を言いたかったが、ものすっごく嬉しそうなおじいさんの満面の笑みを見たら言えなくなってしまった。
おじいさんが部屋を去ったあと、元々絡みやすかった髪をほぐすのにお昼までかかったと言っておこう。
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