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あげたいなって思った時でいいんだよ

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僕には前世の記憶があった。
優雨に初めて出会った時からずっと記憶が残ってる。何度出会って、何度別れたのかは数え切れない。流石に全部細かく覚えている訳じゃないけど、どれも幸せな記憶ばかりだ。

 初めて出会ったのは多分一度目の人生。
色々な人と付き合ったけど、好きだとか分からなかった。それが相手に伝わっていたんだろう。付き合った人全員に振られた。
でも、優雨は違った。

「好きになれないかも」

付き合う前にそう伝えたけどずっと側にいてくれた。僕が好きじゃなくても別に気にしないという感じで

「その分、俺が好きになるから」

そう言ってくれた。
きっと、人生で一番欲しかった言葉だ。
その後もずっと欲しかったものを当たり前かのようにくれた。

「僕ばっか貰ってて、何も返せてない」

「そんなの要らないよ。だって見返りが欲しい訳じゃないし、葉月があげたいなって思ったときだけでいいんだよ」

「僕、もう、優雨以外好きになれないかも」

「葉月だっていっぱいくれるじゃん。俺が欲しいもの」

「そうだといいけど」

好きになれないくせに愛して欲しいとかおかしい話だけど、あの時は振られ過ぎて僕もきっとおかしくなってたんだ。
優雨はその時見返りを求めない愛を教えてくれた。心が満たされた。
すごく好きだった。
でも、別れが早過ぎた。
好きも愛してるも分かったのに、伝える相手がいないなんてこんなにも悲しくて、辛いなら知らなきゃよかった。
優雨は飲酒運転をした車に轢かれて死んだ。優雨を殺した相手を憎む気にもなれなかった。憎む気力も生きる気力も全てが消え去った。優雨がいないと生きていけないよ。そう毎日思っていた。
優雨が一度、夢に出てきた。
生きていた頃によく言っていた海に二人でいた。夕陽に優雨の薄茶色の髪が反射していた。優雨に手を引かれて波打ち際に行く。波の音は聞こえない。

「俺以外のこと好きになったら、振っていいからね」

言葉が出ないまま、優雨は一人、海に落ちかけた夕陽の方へ歩いて行く。
どんなに走っても近づけず、見えなくなってしまった。
まるで死んだ優雨が自分を忘れろって言ってるようで、寝た心地がしなかった。
あれは優雨のことを好きになる前にした会話だ。付き合って間もない頃の、僕が馬鹿だった時の話だ。そんなはずない。忘れろなんて言わないでよ。まだ、こんなに好きなのに、勝手に決めないで、お願いだから僕が死ぬまで、好きでいさせてよ。

一度目の人生は後悔ばかりだったけどそれよりもあの一瞬の幸せが僕を形作ってくれた。だから、忘れないよ。
優雨がそれを忘れてても、僕の気持ちは変わらない。
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