Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜

白山小梅

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4 本当の狙い

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 会場を飛び出した芹香は、パウダールームへと駆け込んだ。メイクを直すでもなく鏡の前に立ち、自分の表情を見て肩を落とした。

 眉間に皺を寄せ、冷や汗をかいている。笑顔を貼り付けるのも忘れて、衝動的に会場を飛び出してしまった。

 苦手な太一に詰め寄られ、誠吾にまとわりつく女性を見たら、冷静でいるなんて無理な話だった。むしろよく耐えた方だと自分を褒める。

 芹香はバッグの中から口紅を取り出し、鏡を見ながら敢えて時間稼ぎをするかのようにゆっくりと塗り直す。

 今までだって、こんな光景を目にしなかったわけではない。しかし今日ほど近くにいたことはなかったから、見ないフリをして目を逸らしていれば良かった。

 そしてハッとする。今日は誠吾のそばにいなければいけないのに、つい感情に任せて外に出てしまった。本当は戻りたくないと思うが、仕事なのだと自分に言い聞かせ、なんとか気持ちを立て直す。

 口紅をバッグに戻し、鏡の中の自分を改めてチェックする。笑顔を貼り付けてみれば、いつもの自分だった。 

 気合いを入れてパウダールームを出た芹香が、会場へ戻ろうと歩き出した時だった。

 誰かが背後に立つ気配を感じ、急いで振り返る。しかし時すでに遅く、黒い服を着た何者かに体をしっかり掴まれてしまう。ただ口を塞がれそうになるのだけは、頭を振って抵抗する。

 次第に五年前の記憶が蘇り、体が震えと鳥肌が立が経つのを感じながら、足の力が抜けそうになるのを必死に堪えた。

 冷静になれ、私。考えるのよ。この腕力は絶対に男性に違いない。ということは、力では敵わない。じゃあどうすればいい? ──必死にもがきながら、新たな疑念も湧いてくる。

 でもどうしてまた同じことが起きるの? もし私に狙いを定めていたとしたら──芹香は今自分を押さえつけている人物こそが、卒業式の日に自分を誘拐した犯人と同じであるような気がしてならなかった。

 それならば尚更捕まるわけにはいかない──そう思い、大きく息を吸い込むと、
「誰か……誰か助けて!」
と大声で叫んだのだ。

 焦った犯人は芹香の首元に腕を差し込み、後ろに向かって引っ張り上げる。徐々に呼吸が苦しくなるが、芹香は頭を振って必死に抵抗する。

 お願い……誰でもいいから気付いて! ──客は会場の中にいるのか、廊下には人の気配が全くない。それでもわずかな希望に賭けるしかなかった。

「誰かーっ!」

 芹香が再び叫んだ、その時だった。

「芹香さん!」

 自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。それは紛れもなく、五年前に芹香を救い出してくれた誠吾の声だった。
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