Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜

白山小梅

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2 忘れるわけがない

1-1

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 この日はイベント会場の屋外スペースでの販売だった。多くのハンドメイド作家たちが出展しており、客層は年齢を問わず女性が多い。

 両親のキッチンカーは、中身は弁当屋時代と同じく副菜の種類が豊富なものだったが、杏奈が盛り付けや野菜を増やすなどをして写真映えするようにしてからは、若い女性や家族連れの客の購入が増えた。

 忙しいランチタイムが過ぎ、客足も一段落した頃、杏奈は両親を休憩に行かせて一人で店番をしていた。

 その時、杏奈の視線が一人の男をとらえた。

 会場から五人ほどのスーツを着た男性たちが出てきて、何かを買うわけでもなく、キッチンカーで溢れる広場を視察しているように見える。

 辺りに目をやりながら、スタスタと歩を進める先頭の男性を見た途端、杏奈に衝撃が走った。

 細身のスーツを身にまとい、洗練された甘いマスクとは裏腹に、表情と雰囲気から冷たさを感じる。まるであの日見たビジネス雑誌からそのまま飛び出しときたかのような由利高臣の姿に、杏奈の体が凍りついた。

 そして彼を見た杏奈は、突然紗理奈との会話を思い出す。

『あのYRグループが絡んでるんだよ⁈ 由利高臣が絡んでるんだよ! 何があることを疑うべきでしょ』

 弁当屋の立ち退きが、あそこにショッピングモールを建てるための"計画的な立ち退き"だったとしたら--この疑念が心の片隅に居座り続け、消えてくれなかった。

 由利が率いる集団が、徐々にこちらに向かって近づいてくる。それと共に杏奈の鼓動も早くなる。

 これはチャンスなんじゃないかしら--事実を知り、疑念を晴らすのよ。もし計画的に行われたのであれば、紗理奈ちゃんが言うように法的手段に出たっていい。

 それなのに、杏奈の体はなかなか動かず、由利が通り過ぎるのを目で追うことしか出来ない。

 私、もしかして怖がってる? これじゃああの頃と全く何も変わらない--卒業式の日には変われたと思ったのは、ただの火事場の馬鹿力でしかなかったの?

 今は良くても、後になってから『やっぱり聞けば良かった』という後悔はしたくなかった。

 杏奈は意を決して拳を握りしめると、由利の背中をキッと睨みつけ、
「あのっ……!」
と、震える声で呼び止めた。
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