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プロローグ
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* * * *
夜になり両親に寝ることを告げると、萌音は高鳴る鼓動を抑えながら部屋に入る。両親の部屋は廊下を挟んで向かい側なので、外で話している声はきっと聞こえないはずだった。
寝ていると思わせるために、敢えて照明のスイッチは入れなかった。ただそれでも窓からは月明かりが煌々と降り注ぎ、萌音を照らしていた。
窓を開け、そっと顔を出す。昨日の少年がいた場所に目をやるとそこには誰かが座っていて、ヒラヒラと萌音に向かって手を振っていた。
「良かった。窓を開けてくれた」
「だって……約束したし……」
「あはは! まぁ僕からの勝手な口約束だったけどね。でも嬉しいよ」
そう言われればそうだったかもしれない。なのにこんなにも期待していた自分が恥ずかしくなる。
「そういえばスイちゃん、キラキラしたものが好きって言ってたけど、他にも好きなものとかあるの? 女の子ならジュエリーとか?」
「ううん、宝石も素敵だなって思うけど、私はドレスが好きなの。どちらかというと舞台衣裳」
「舞台衣裳?」
「お母さんがよく演劇に連れて行ってくれるんだけど、もうカッコいいし素敵だし! だから私ね、いつか衣裳デザイナーになりたいの!」
言い終えて、萌音は顔を真っ赤に染める。こんなに熱弁したことは今までなかったし、衣裳デザイナーになりたいと誰かに話したことはなかったのだ。
「へぇ、そんな明確な目標を持ってるなんてすごいなぁ」
「えっ……」
「僕なんかまだ漠然とした将来設計しかないよ。まぁきっと父さんの事業のどれかを継ぐのかなぁとは思ってるけど、具体的に何がしたいとかはないんだよね。だからスイちゃんのそういう考え方は、すごく羨ましいって思うよ」
「……本当?」
「うん、本当。どんな衣裳が好きなの?」
「……やっぱりフランスの夜会ドレスとか憧れるかな。キラキラして、刺繍とか装飾もすごく綺麗なの!」
「じゃあいつか本場のフランスで勉強ができたら良いね」
「うん……そんなことが出来たら夢見たい……」
彼と話しているとすごく楽しい。昨日もそうだけど、今もワクワクして、やりたいことが増えていく。
「あの……ロミオくん……」
「あっ、やっと呼んでくれた。なんだい、スイちゃん」
「あの……明日もお喋り出来る?」
少年の姿は木の影で見えないのに、何故か萌音には彼の笑顔が見えたような気がした。
「もちろん。僕からもお願いしようとしてた。じゃあまた明日」
そう言うと、少年は塀から飛び降りて走り去っていった。
残された萌音の胸には、明日を待つ期待が溢れていた。
夜になり両親に寝ることを告げると、萌音は高鳴る鼓動を抑えながら部屋に入る。両親の部屋は廊下を挟んで向かい側なので、外で話している声はきっと聞こえないはずだった。
寝ていると思わせるために、敢えて照明のスイッチは入れなかった。ただそれでも窓からは月明かりが煌々と降り注ぎ、萌音を照らしていた。
窓を開け、そっと顔を出す。昨日の少年がいた場所に目をやるとそこには誰かが座っていて、ヒラヒラと萌音に向かって手を振っていた。
「良かった。窓を開けてくれた」
「だって……約束したし……」
「あはは! まぁ僕からの勝手な口約束だったけどね。でも嬉しいよ」
そう言われればそうだったかもしれない。なのにこんなにも期待していた自分が恥ずかしくなる。
「そういえばスイちゃん、キラキラしたものが好きって言ってたけど、他にも好きなものとかあるの? 女の子ならジュエリーとか?」
「ううん、宝石も素敵だなって思うけど、私はドレスが好きなの。どちらかというと舞台衣裳」
「舞台衣裳?」
「お母さんがよく演劇に連れて行ってくれるんだけど、もうカッコいいし素敵だし! だから私ね、いつか衣裳デザイナーになりたいの!」
言い終えて、萌音は顔を真っ赤に染める。こんなに熱弁したことは今までなかったし、衣裳デザイナーになりたいと誰かに話したことはなかったのだ。
「へぇ、そんな明確な目標を持ってるなんてすごいなぁ」
「えっ……」
「僕なんかまだ漠然とした将来設計しかないよ。まぁきっと父さんの事業のどれかを継ぐのかなぁとは思ってるけど、具体的に何がしたいとかはないんだよね。だからスイちゃんのそういう考え方は、すごく羨ましいって思うよ」
「……本当?」
「うん、本当。どんな衣裳が好きなの?」
「……やっぱりフランスの夜会ドレスとか憧れるかな。キラキラして、刺繍とか装飾もすごく綺麗なの!」
「じゃあいつか本場のフランスで勉強ができたら良いね」
「うん……そんなことが出来たら夢見たい……」
彼と話しているとすごく楽しい。昨日もそうだけど、今もワクワクして、やりたいことが増えていく。
「あの……ロミオくん……」
「あっ、やっと呼んでくれた。なんだい、スイちゃん」
「あの……明日もお喋り出来る?」
少年の姿は木の影で見えないのに、何故か萌音には彼の笑顔が見えたような気がした。
「もちろん。僕からもお願いしようとしてた。じゃあまた明日」
そう言うと、少年は塀から飛び降りて走り去っていった。
残された萌音の胸には、明日を待つ期待が溢れていた。
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