71 / 110
10 我慢できる?
1-2
しおりを挟む
* * * *
翔と離れてから数日後、この日はリメイクの依頼を受けていたドレスの最後の試着と引き渡し日だった。
仕上がったドレスをマネキンに着せ、打ち合わせの部屋へと運ぶと、萌音は目を細める。
このドレスの依頼を受けたのは三ヶ月前で、ここでの仕事を始めて間もない頃だった。まだ依頼なんてものはほとんどなくて、いろいろな式場を回ったりカフェなどにチラシを置かせてもらったりと、まずは一件でも依頼をもらえるように走り回っていた。
その時にたまたま立ち寄ったカフェで、店員の女性に声をかけられたのだ。その人は、知り合いがウェディングドレスのリメイクをしてくれる人を探していると言って、チラシを渡したいと声をかけてくれた。
ホームページのことも伝えてもらい、それからしばらくしてから電話がかかってきたのだ。
夫婦で来店すると言っていたが、当日にやってきたのは女性だけだった。女性は困ったように笑いながら、ドレスを差し出した。
「夫は急な仕事が入ってしまって……。どうしても来たいって言って聞かなかったんですが、諦めてもらったんです」
「そうだったんですか。別の日に変えても大丈夫でしたよ」
「いえいえ、私も今日休みを取っていたのでコロコロ変えるわけにはいきませんから。一緒に受け取りに来ればいいので。それに彼がいても、きっと私の好きにしていいって言ってくれると思うので……」
そう言って女性は幸せそうに微笑んだ。小柄な体と少し幼めの顔立ちの女性は、どこかお人形のような印象を受ける。
あぁ、花嫁になる方から溢れる幸せオーラというのはこういうものを指すんだろうなぁと、萌音も心が温かくなる。
「このドレス、母が結婚式で着たものなんです」
「えっ、そうなんですか? すごく状態が綺麗なので最近のものかと思いました」
「うーん、でも最近といえば最近なのかもしれません。実は私が小学生の時に再婚をしたんです。その時に着たドレスをずっとしまっておいたって言っていたので……」
なるほど。それなら納得がいく。確かにこのデザインは二十年近く前に流行ったものだった。
「まさか母のドレスを着られるなんて……私も夫も思っていなかったから感慨深くて……。なるべくこのデザインは残しながら、私らしさを加えていただくことって出来ますか?」
「えぇ、もちろんです。どのような感じが良いなど、ご希望はありますか?」
「式は家族と親しい人だけでやる予定なんです。ただ十二月はちょっと寒いかなぁっていうのが気になってて……結構冷え性なんです、私」
そんなことを言うものだから、二人は笑い合う。
それから彼女の要望を聞きながら、ドレスのデザイン案を進めていった。メールでのやり取りなどを繰り返し、今日はその最終チェックとドレスの引き取りとなった。
翔と離れてから数日後、この日はリメイクの依頼を受けていたドレスの最後の試着と引き渡し日だった。
仕上がったドレスをマネキンに着せ、打ち合わせの部屋へと運ぶと、萌音は目を細める。
このドレスの依頼を受けたのは三ヶ月前で、ここでの仕事を始めて間もない頃だった。まだ依頼なんてものはほとんどなくて、いろいろな式場を回ったりカフェなどにチラシを置かせてもらったりと、まずは一件でも依頼をもらえるように走り回っていた。
その時にたまたま立ち寄ったカフェで、店員の女性に声をかけられたのだ。その人は、知り合いがウェディングドレスのリメイクをしてくれる人を探していると言って、チラシを渡したいと声をかけてくれた。
ホームページのことも伝えてもらい、それからしばらくしてから電話がかかってきたのだ。
夫婦で来店すると言っていたが、当日にやってきたのは女性だけだった。女性は困ったように笑いながら、ドレスを差し出した。
「夫は急な仕事が入ってしまって……。どうしても来たいって言って聞かなかったんですが、諦めてもらったんです」
「そうだったんですか。別の日に変えても大丈夫でしたよ」
「いえいえ、私も今日休みを取っていたのでコロコロ変えるわけにはいきませんから。一緒に受け取りに来ればいいので。それに彼がいても、きっと私の好きにしていいって言ってくれると思うので……」
そう言って女性は幸せそうに微笑んだ。小柄な体と少し幼めの顔立ちの女性は、どこかお人形のような印象を受ける。
あぁ、花嫁になる方から溢れる幸せオーラというのはこういうものを指すんだろうなぁと、萌音も心が温かくなる。
「このドレス、母が結婚式で着たものなんです」
「えっ、そうなんですか? すごく状態が綺麗なので最近のものかと思いました」
「うーん、でも最近といえば最近なのかもしれません。実は私が小学生の時に再婚をしたんです。その時に着たドレスをずっとしまっておいたって言っていたので……」
なるほど。それなら納得がいく。確かにこのデザインは二十年近く前に流行ったものだった。
「まさか母のドレスを着られるなんて……私も夫も思っていなかったから感慨深くて……。なるべくこのデザインは残しながら、私らしさを加えていただくことって出来ますか?」
「えぇ、もちろんです。どのような感じが良いなど、ご希望はありますか?」
「式は家族と親しい人だけでやる予定なんです。ただ十二月はちょっと寒いかなぁっていうのが気になってて……結構冷え性なんです、私」
そんなことを言うものだから、二人は笑い合う。
それから彼女の要望を聞きながら、ドレスのデザイン案を進めていった。メールでのやり取りなどを繰り返し、今日はその最終チェックとドレスの引き取りとなった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
年下研修医の極甘蜜愛
虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。
そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。
病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。
仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。
シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡
*****************************
※他サイトでも同タイトルで公開しています。
Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
白山小梅
恋愛
富裕層が集まる高校に特待生として入学した杏奈は、あるグループからの嫌がらせを受け、地獄の三年間を過ごす羽目に。
大学に進学した杏奈は、今はファミリーレストランのメニュー開発に携わり、穏やかな日々を送っていた。そこに突然母親から連絡が入る。なんと両親が営む弁当屋が、建物の老朽化を理由に立ち退きを迫られていた。仕方なく店を閉じたが、その土地に、高校時代に嫌がらせを受けたグループのメンバーである由利高臣の父親が経営するYRグループが関わっていると知り、イベントで偶然再会した高臣に声をかけた杏奈だったが、事態は思わぬ方向に進み--⁈
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる