ほかほか

ねこ侍

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第2話 ゴリラだ

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「おいっ。おいっ!」 

 どこからか野太い男の声がする。

 うーん。もう少し寝ていたい。後5分……

「おいっ!」

 バシッッ!!

 !! 左頬にお決まりのビンタが。あまりの衝撃に首が90度横を向く。意識が再び飛びかける。

「起きないな。もう一発いくか」

「はいっ! 今起きますっ!!」

 もう一発もらうなんてとんでも無い。首がすっ飛んだかと思った。

 一言文句を言ってやろうと、眼を開けて男を睨みつけると、




 あれ?





 ゴリラだ。




 ごしごしと眼をこすってみる。



「ウホッ?」

 やっぱりゴリラだ。



 ゴリラ顔とか比喩とかでは決してない。

 混じりっ気無しのゴリラがそこにはいた。


「ウホッ。気が付いた様だな。良かった」


 気を失っていた俺をどうやら心配してくれていたらしい。
 しかしあまりの出来事に頭が真っ白になり、すぐには答える事が出来ない。


「お前はそこの噴水のそばに倒れていたんだ」

 太い人差し指が差す方を見ると、立派な噴水が見える。

 確か公園にいたはずだが……

 見渡すとレンガ作りの建物や石造りの建物が建ち並んでいる。足元には石畳が規則正しく並んでいる。

 ここは広場だろうか。
 すぐ近くには大きな葉をつけた巨木があり、俺のいる場所は日陰になっている。
 どうやらここまで運んでくれたらしい。

「えーと。ありがとうございます」

 素直にお礼を述べる。

「気にするな。困った時はお互い様だ。ウホッ。」

 お礼を言われて嬉しいのか胸を叩きながら、ウホウホ言いながら小さくジャンプしている。よく見ると腰には黒い布を纏っている。


 まさかドッキリか?

 しかし目の前のゴリラはとても着ぐるみの様には見えない。

 意識が段々とはっきりするに連れ、公園での出来事を思い出してきた。

 悲鳴、そして徐々に消えていく身体。


 もしや、これは、つまり。


 「異世界」ってやつじゃないのだろうか!!

 瞬間、雑誌の裏の怪しい広告の様な言葉が脳裏にうかぶ。

 ・チートスキルであなたも無双!

 ・美少年に生まれ変わりハーレム状態!

 と、目の前でまだウホウホ言ってるゴリラを見て不安になる。
 よもや……猿の惑星じゃあるまいな。

 よろよろと立ち上がり、噴水まで歩いていく。
 喉が乾いてるのもあるが、美少年になっているのか、確認しなければならない。

 これは再重要事項である。

 噴水までたどり着き、恐る恐る水面に映った顔を確認する。

 うん。

 何も変わっていない。
 30年間付き合ってきた見慣れた顔がそこにはあった。

 いや、ゴリラになってないだけ良かったとするべきか。

 ただ、よく見ると心なしか、いやはっきりと左頬が腫れている。このゴリラはどれだけ馬鹿力なんだ。 

「殴ったな! 親父にもぶたれた事無いのにっ!」

 と、ものは試しに言ってみると、ゴリラから予想外の答えが。

「殴ってなぜ悪いか。だからお前は甘ったれなんだ!」


 ……うん?どっちだ?
 ここは異世界なのか。

「疲れてるんじゃないウホか?向かいに俺の店があるウホから、そこで休むといい。ウホッ」

 ウホは万能か。万能なのか!?
 聞きたいこともたくさんある。ひとまずお言葉に甘え、俺はゴリラの後をついていくのだった。

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