ほかほか

ねこ侍

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幕間

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 ピッ
  

 それでは近所の住民の方に話を聞いてみましょう。


「なんか気味悪いのよねぇ。あの公園」


「たまに残飯か何か捨てていく人がいるみたいで。カラスがよく群がっているのよ」


「あー、あの人が消えたって公園でしょ。まだ見つかってないんだっけ?」


 ピッ


 ……南大西洋では現在も大気の状態が不安定で、この時期のハリケーンとしては過去最大級となる可能性が高いとのことです。度重なるハリケーンの襲来で、南大西洋沿岸地域では既に深刻な被害が出ており……


 ピッ


 あちらに見えるのは、昨夜発生した地震により倒壊した建物です。住民の方達は全員避難をしていて無事だとの事です。現在は自衛隊による瓦礫の撤去作業が行われております。最新の情報によると昨夜の地震による死者は……



 ピッ



「僕の顔をお食べよ!」



 ブンッ



 一瞬、低い音がしてテレビの電源が切れる。 

「私は食べ物に顔が付いてたら食べれませんね~。」

 彼女はそう言って、退屈そうにテレビのリモコンを食堂のテーブルの上に放り出した。
 トレードマークの丸い大きな眼鏡を上下に動かして遊んでいる。
 ぼさぼさの髪を無造作に後ろで一つに束ねただけだが、素材が良いのか可愛らしい顔だちをしている。

 雰囲気的に司書か学芸員が似合いそうな彼女は、今年で入隊二年目を迎える立派な自衛官である。
 
「武田先輩はどうですか?」

 正面に座る武田と呼ばれた男が、ラーメンをすすりながら面倒臭そうに答える。
 サイドを短く刈り上げた角刈りに無精ひげ。いかにも無骨そうな印象を受ける。

「あぁ? 馬鹿言え。食えるもんはなんでも食う。それが俺達【特戦】の基本だ」

 そんな何でも食べる武田が食べているのは、超特盛の塩ラーメン(減塩)だ。
 
 カロリー等知った事ではない。
 この後の過酷な訓練を考えれば、一日で消費してしまう量だろう。 
 
 だがな、減塩の塩ラーメンってなんだ? 
 意味あるのか?
 
 武田は恐ろしいスピードでラーメンを食べ進めながらも、その件についてはまだ納得がいっていない。

「あとな」

「先輩じゃねぇ。階級をつけろ」

 そこまで言い終わると、手に持った箸をビッ! と女に向ける。
 狙っていたのか、箸についていたスープが数滴、女の顔目掛けて飛んでいく。

 「きゃっ!」

 女は短い悲鳴をあげながらも、軽く顔を横に傾けただけでスープを回避した。
 その余裕さえ感じ取れる動きに、武田は眉間に皺を寄せて不満気な表情を見せる。
  
「ちっ。それとな、テレビ消すんじゃねぇ。チャンネルも変えすぎだ」

 小姑の様にあれこれと文句を言う武田。
 少し傾いてしまった眼鏡を元の位置に戻しながら、むっと女が頬を膨らませて反論する。

「いいじゃないですかー。今、食堂には私たち二人しかいないんですから」

「いや、だから俺が見てんだよ……」

 がらんとした食堂に、武田のラーメンをすする音だけが響く。
 通常は多くの隊員達で賑わう、「嵐野駐屯地」の隊員食堂も、ここ数日閑古鳥が鳴いている。
 多くの隊員達が災害救助活動の為に、基地を離れている為だ。

「それより、また大地震が発生したってよ。今度は南米だ。この人手不足じゃ、俺達にもいつ出動命令が出るかわからんぞ。」

 女からの返答は無い。

「おい」

 見ると女は眼鏡を外し、はーっとレンズに息を吹きかけては丁寧に拭いている。

「~♪」

 武田の話は完全に耳に入っていないらしい。

「聞いてんのかっ! 上杉ぃ!」

 食道内に武田の怒鳴り声が響き渡る。

「は!? はいっ! 聞いているでありますっ! ラーメン美味しそうですねっ!」

 聞いてねぇじゃねぇか……。
 しかしいつもの事だと、武田はこれ以上の追求を諦める。

「ったく……。まぁいいや。ちょっと塩とってくれ。このラーメン、味が薄いんだ」

「え~。それって減塩の意味無いじゃないですか~」

 そういいながら上杉は眼鏡を掛ける。
 かなりの近眼である彼女は、眼鏡を掛けなければ調味料の見分けがつかないのだ。

 「塩分の摂りすぎは駄目ですよ」
 
 そう言いながら上杉は武田に塩を手渡したのであった。


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