4 / 139
リライトトライ1
第三話
しおりを挟む気が付くと天井が見えた。
「あ……目ぇ覚めたですか?」
次いで視界に入ってきたのはさっきのパンツ女だった。心配そう……とは到底思えない、早く起きてくれないと迷惑、といった表情だった。
どうやら俺は気を失って我が家の床に寝かされていた様だ。もう数歩歩けばベッドがあるのに……部屋の中まで引きずったんなら最後まで責任持てよな……。
……ん? 早く起きないと迷惑? 寝かされていた?
「あーっ! 思い出した! いきなり何しやがるんだてめーはっ!」
「わっ、びっくりした」
俺はがばっと起き上がり、目の前の銀髪ショートの碧眼女に叫んだ。
そうだ。俺はこの女に金●を蹴り上げられた後、失神KOされたんだ。いくら何でもパンツを見た代償が失神KOなら、女子校の先生は毎日失神しなくてはならない(偏見)。羨ましい……って! そんなことはどうでもいい!
「下手したら死ぬとこだったぞコラ!」
「だ、だって……いきなり殴られたから……」
暴力女は俺の剣幕に気圧されたのか、先程よりは心なしか弱気な態度でおずおずと言い淀みながらそう返してきた。
「殴ってねーよ。俺はドアを開けただけだぞ」
俺は玄関の方を指差しながら言う。
銀髪女はぽけーっと俺の顔をしばらく見た後、ようやく俺がドアの話題を振ってると気づいた様に、視線を俺の指の先に向けた。
「ドア……? ああ! あの板、『ドア』って言うですか」
何言ってんだこいつ? ドアーって英語だよな?
「お前英語圏の人間じゃないのか? つーか日本語うまいな?」
「いや、普段意思伝達に言葉なんか使わねーですし……え? 言葉、うまい……ですか? どうも……」
ますます何言ってんだこいつ?
「意思伝達に言葉を使わない? ニュー●イプかサイキッカーなのかてめーは!」
「は? 何言ってるですか?」
彼女は混乱するばかりだ。いきなり人を失神させるわドアも知らねーわオタク話も通じねーわ……いや、そもそも――
「――お前はここに何しに来たんだ?」
そう、この女は俺の家の呼び鈴を鳴らしたんだ。てことは、俺に何かしらの用があって訪ねて来たってワケだ。
「あ……そーですよ」
俺のその言葉で、女は思い出したとばかりに神妙な顔つきになって、すっと立ち上がり、そのどこか眠たそうに見える碧眼で、俺の目を真っ直ぐ見た。
「…………」
……何かテレる。異性にじっと目を見られるなんて、俺の人生にはそうないことなので、気恥ずかしいぞ。例えソレがいきなり襲い掛かって来る頭のおかしい暴力女でもだ。
こうやってじっくり(?)見てみると、結構若い、つーか幼い。まだ未成年なんじゃないだろーか? でも、ちょっとかわいいな。ちょっとね。
「あんた、戸山秋色ですね」
俺が時折視線を泳がせながらモジモジしていると、女はそう言った。
「な、何でお前が俺の名前を知ってるんだよ?」
いくら個人情報の漏洩が問題視される時代だとしても、名前くらいは簡単に知ることが出来る。そもそも、表の表札を見れば分かっちゃうことだしな。
だとしても素直に『はいそうです』って答えるには、目の前の女はいささか意味不明過ぎて、そして正体不明過ぎた。
とは言ってもだ。違うと言ったところで『そうですか。では失礼しました』とこの女が去るとは到底思えない。何と返したらいいモノか?
「ひ、人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗れよ!」
結局、俺はアニメや漫画でよく使われる常套句を、自分でも情けないと思う程のひっくり返り気味の声で叫ぶのが精一杯だった。
考えなしにそう言っちまったが、俺はこの女の名前を知らない。と言ってから気が付いた。ある意味丁度いい台詞だったのかもしれない。
「な、名前……ですか」
「名前ですよ」
俺がそう返すと、予想以上に効果的だったのか、女はおろおろと狼狽し始めた。
「ちょ、ちょっと、待つですよ」
そう一言断ったかと思うと、女は目を閉じて顔を天井に向けた。
そして――
「――そんな……適当にって言われても……」
そう呟いた。丸聞こえだぞ、おい。
そもそもこいつは誰と話をしてるんだ? 見たところ携帯電話も無線機も付けてない。まさか妖精が見えるとか、電波を受信できるとか……イタイ娘なんじゃないだろうな。
俺は常人に比べるとそういう二次元なモノごとに対して理解はある方だが……さすがにこうも真剣にやられると引かざるを得ない……あ、ちなみに俺はオタクじゃないぞ。本物のオタクってのはもっとハンパないモンなんだ。俺はまだかわいい方さ。
「お、お待たせしたですよ!」
「あん?」
「だ、だから、名前!」
「おう、何て名前だ。名乗りやがれ」
「…………」
「…………」
「……ど、ドア……ですよ」
「いや嘘吐け! ソレさっき覚えた言葉だろ。つーか本当にドアも知らなかったのか!?」
「ば、バレた……!?」
まるで予想外だったと言わんばかりに女はこめかみに一筋の汗を浮かべた。
「バレないと思ってたんかい……別に言いたくないならいいよ……」
「そ、そんなことわねーですよ! ちょっと待つです!」
そう言って女は部屋の中を見渡し始めた。何か部屋内にあるモノを名前にしようってのがバレバレだぞ……。
う~ん、何か名乗れない事情でもあるんだろうか?
「あ……」
そう言って彼女は足元に落ちていたモノを拾い上げ、ソレを天に掲げて叫んだ。
「コレ! この文字、何て読むですか!?」
そして、先程の様に彼女は再び目を閉じる。だからお前は誰に向かって話し掛けてるんだ。イマジナリーフレンド? ソレともまさか本気で電波受信タイムか?
つーか文字読めないのか? 日本語だから? やっぱ外人?
……ってちょっと待て。この電波女が掲げてるモノ、アレはもしかしてもしかするとDVDのケースじゃないか?
あっ!! アレはさっき俺がホワイトクリスマスに使おうとした……!
「来ましたですよ! 自分の名前!」
「ちょ、ちょっと待て……! ソレは……」
「『二次元萌え萌え魔法少女ユーちゃん! いけないお注射レッスン!』ですよ!」
「うわあぁぁああやめてくれぇぇええ!! 違うんだソレはぁぁああ!」
ソレは俺が出来心で購入してしまった十八禁シールのついたDVDケースだった。
お、俺はオタクじゃないぞ! ……信じますぅ?
「コレが自分の名前ですよ!」
「分かったから! もう聞かないから勘弁して下さい! そうです。俺が戸山秋色です!」
「ふん、最初からそー言っとけばいーですよ」
そう言うと女はしてやったりとばかりに誇らしげにふん、と鼻息を吐いた。
「俺も激しくそう思った……あの、誰にも言わないでね? お願いだから」
「は? 何がですよ?」
「いや……うん、まあいいや。で、何の用ですか……」
心に致命傷を負った俺は崩れ落ちる様に膝をつき、弱々しい声でそう言った。
「だからこの『二次元萌え萌え魔法少女ユーちゃん! いけないお注射レッスン!』がわざわざ来てやったのわですね――」
「わぁぁあ! もうやめてくれぇぇえ! 何でクリスマスイブにこんな辱めを受けなきゃならないんだぁぁあ!!」
……ん? 待てよ? クリスマスイブ? あ……
もしかしてもしかすると……コレは、アレじゃないか?
こんな日に独り身で寂しくて死にそうな俺への誰かからのクリスマスプレゼントなんじゃないか?
あ! そう言えばさっき掛かってきた宗二からの電話は、俺が、独りで、家で、ヒマしてるのを確認する様な内容じゃなかったか? となると……
「お前アレか!? もしかしてプロのおねーさんか!?」
俺は期待に満ちた目を女に向けてそう質問した。
「は? プロ……」
俺の質問に女は軽く小首を傾げた後、
「ふふん、確かにプロといえばプロですよ。今回が初仕事だけど」
またも誇らしげにふふん、と鼻息を吐いた。
「おお! やっぱりそうだったのか! しかも初めて! ありがたや!」
「そーでしょうそーでしょう」
俺が拝むと女はますます自慢げに胸を反らした。彼女が動く度にアホ毛が一緒に揺れる。
間違いない! 彼女はカワイそーな俺に宗二が送ってくれた、デリ●ル嬢だ!
ソレかどっかのパソコンのディスプレイから出て来た二次元少女だ!
……まぁ、ソレはあり得ないだろうから、やはり考えられるのは前者だ。
なるほど! 道理で名前が言えないワケだ! 仕事柄本名は言えないし、初仕事だからまだ源氏名も考えてなかった、と!
そして文字すら読めない彼女は、他に働き口もなく今の仕事に身を落とし……そうか。
「そうだったんですね! 持つべきモノは友達だったんですね!」
「ふふん、よく分からないけどこの二次元萌え萌え――」
「ソレはもういい! えーっと、長いからユーちゃんでいいかな?」
「ゆー? ああ、略称てヤツですか。いいですよ。で、用件というのわ――」
「俺も初めてだけどよろしくお願いしま~す!! ゆ~うちゅわ~ん!」
ユーちゃんはまだ何か言いかけていたが、俺は三代目モミアゲ怪盗よろしく、クリカンボイスでそう叫びながらダイブしていた。勢いよく彼女をベッドに押し倒し、のしかかる。
「ふぎゃ!」
「おーし! 秋色! いっきま~」
「何しやがるですかっ!!」
「あひゅうっ!!」
人生でさ……同じ日に同じ相手から同じ股間に強打をもらうことって……そうないぜ?
「は、話が違うぜ……ベイベー……」
「べいべーぢゃねーですよ!!」
ぐしゃ!!
あと、同じ日に同じ相手から同じ様に失神させられることもな。
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる