30 / 139
リライトトライ2
第四話
しおりを挟むソレからも俺はヒマさえあればまひると泳ぎに行ったし、山の中に秘密基地を作って、そこに親父が隠れて買っていたエロ本を持ち込んで怒られたり、俺を怒った親父が母さんに怒られるのを見たり、向日葵畑でかくれんぼをして、蜂に刺されまくって喚いたりもした。
そして、あっと言う間に夏の終わりがやって来た。
ソレはこの地域最後の夏祭りの日、そして俺の誕生日だった。
「じゃーん! どーだ春、秋! 真宵&まひる夏祭りバージョン!」
何故だか親父が自分で着付けをしたワケでもないのに誇らしげに浴衣姿のマヨねぇとまひるをお披露目した。
「んふふふふ。どう春くん? かわいい?」
「……動きづらそうだな」
「……。どう秋? かわいい?」
「……うん。かわいい、と思う」
「あらあら正直者。いいこいいこ」
そう言って頭をぐりぐり撫で回すマヨねぇにされるがままになってた俺は、背中をちんまり引っ張られ、振り返る。
すると、そこには同じく浴衣姿のまひるがいた。
「……ゆかた」
「おう」
「…………」
「……何だよ?」
「……何でもない」
「……?」
俺が頭上に疑問符を浮かべていると、まひるは俺に興味をなくした様にそっぽを向いた。
「……うごきづらい」
「うごきづれーんならぬげば――」
「春。秋。お前らソレでも俺の息子か?」
「まぁまぁ。で、どうパパ? あたしの浴衣? 可愛い?」
溜息を吐く親父に、奥から姿を現した母さんが言う。
「もしひと夏の妖精がいるんだとしたら、ソレは俺の目の前にいるお前の姿をしているだろう」
「もー恥ずかしい♡」
「だっはっはっは!」
……なぁ。ここもスキップしようぜ? さっきとは違った意味で恥ずかしい。
夏祭り会場で、親父は母さんと二人の世界。みこは旦那さんと以下同文。マヨねぇは俺の目から見ても明らかに脈のない兄貴に果敢にアピール中。
そして俺とまひるは……限られた小遣いで、いかに多くのモノを食べるか思案していた。
「う~ん。たこやきは八こ三百円のフツーのをえらぶべきか、六こ三百円の大だこをえらぶべきか……」
「……あんまりおーいと、ホカのがはいらなくなる」
「……う~ん」
「……あきにぃとまひるで、おカネはんぶんこで、はんぶんこずつたべればいい」
「おおっ! お前やるな! まひる、てんさいか!」
「……まひる、てんさい」
「じゃあじゃあ、大だこやき三こずつ食って、ジュース半分こずつ飲んで――」
「りんごあめ、はんぶんこずつくう!」
「……こら、おんなは食うとかゆーんじゃねー」
「あきにぃもいってるモン。あきにぃのまねしただけだモン」
今思えば、俺もみこがマヨねぇに言ってるのを真似してたしなめただけだったんだけどな。
「おれは男だからいーんだよ。まひるはだめ」
「あきにぃ、まひるはまひるだっていってたモン」
「……ふむ、そーか、そーだったな。でもだめ」
「なんでぇ?」
「わかんない。ゆかただからかな? とにかくまひるはだめ。やだ?」
「……やだじゃない」
「おし行くぞ! まずは大だこやきじゃ!」
「おー!」
そう言って俺達は屋台へと駆けて行った。
「あ~、食ったー。ハラいっぱいじゃ~」
「くったー」
「……まひる」
「……たべたー」
「うむ」
「……あきにぃ」
「ん?」
「あした、かえっちゃうんだよね?」
「そーだな。明日でなつやすみ、おわりだし」
「…………」
「……どーした?」
「……きて。こっち」
「んお? どこ行くんだ?」
「こっち」
出会った日の様に、俺はまひるに手を引かれ、付いて行くことになった。
山道を登り、下る。コレはもう通い慣れた、いつもの道だ。
「何でこっち? くれーし、おちたらあぶねーぞ!」
「いいの! あーもう! ゆかたはしりづらい!」
「こ、ころぶなよ! 何でそんなにいそぐんだ?」
「いいから!」
言われるがままに付いていくと、予想通り、俺の目の前には暗い海が広がっていた。
波の音と潮の匂い。
まひるはあんなに急いで、何がしたかったんだろうか、とこの時の俺は思った。
その瞬間、俺の予想を打ち破り、景色が一変した。
ドーーン!!
「ハナビだ! すっげー!」
夜の海を花火が染める。花開く一瞬、海面と空の両方に花火が咲く。紛れもない絶景だった。
「……たんじょーび、プレゼント」
まだ俺の隣で荒い息を吐くまひるがそう言った。
「お前、しってたのか」
「……オジサンにきーた」
「…………」
しばらく俺達は無言で両面咲きの花火を眺めていた。
「あきにぃ」
「……ん?」
「あきにぃ、あした、かえっちゃうんだよね」
「……うん」
「だから、あきにぃにみせたかったの」
「うん」
「あきにぃとみれてよかった」
「うん」
何故胸が締め付けられ、鼻の奥がツーンと痛み、視界がぼやけるのか、この時の俺にはよく分からなかった。
「……わすれないで」
「うん?」
「ハナビと……まひるのこと、わすれないで」
まひるの声は震えていた。手がぎゅっと強く握られる。
「うん……ぜってー、わすれない。ありがとな、まひる」
俺はそう言って、目に焼き付ける様に花火を眺めていた。
視線をそちらに向けることはなかったが、俺はまひるが泣いているのに気づいていた。
夏の終わり。駅のホーム。別れの時。
「じゃあ、時間だ。ありがとな、みこちゃん」
「はい、四季さんも、お姉ちゃんも身体に気をつけて」
「ありがとね、今度は、こっちの家にも遊びに来てね」
「春くん、寂しかったらいつでも電話してい~からねっ」
「あー……うん。ないと思うけど」
交わされる言葉、右から左へ。
何か言わなきゃ、もう時間がない。でも何を? まとまらない。
「おし、時間だ。行くぞ、秋」
親父が背中をぽん、と叩く。電車がホームに着く。
俺は歩き出した。背中に視線を感じていたが、振り返れなかった。
その時、背中にどん、と何かがぶつかってきた。
「……だ」
「……まひる?」
俺は振り返らなかったが、声だけでまひるが俺の背中にしがみ付いて来たのだと分かった。
「……やだ、やだぁ……あきにぃ、いっちゃやだぁ……!」
「…………」
歯を食い縛る。
歪む視界に飲み込まれない様に、俺は深呼吸をした。
「……あきにぃ……あきに……」
努力も虚しく、俺は感情に飲み込まれそうになった。
ほとんど前も見えなくなった視界に、最後に映ったのは、こちらを見る親父の顔だった。
「――っ!」
俺は意を決して、再び大きく息を吸い込み、叫んだ。
「とやまけカクン! ダイニジョー!」
「……!」
「『シンセキはみんなカゾクである! カゾクは! いつだってミカタである!』」
「……あきにぃ」
「おまけにおれとお前はマブダチだ! カゾクで、にーちゃんで! マブダチだ! だから、おれはいつでもお前のミカタだ!」
「……うん」
「だからなくなまひる! わらえ! とやまけカクン! ダイサンジョー! 『男は女にフラレた時しかないてはならない!』だ! だっはっはっは!」
「まひる……おとこじゃないモン」
「だっはっはっは! そーだった! でもお前はおれとごかくにたたかえるくらいつえーだろ! だからわらえ! 次に会った時はおれがかつぞ! だはははは!」
「……うん! きゃはははは!」
「だはははは! じゃーな!」
「うん! じゃーねあきにぃ! また……またあそびにきてね!」
ひっくり返り気味のまひるの笑い声を背に受けて、俺は電車に乗り込んだ。
振り返ってまひるの顔を確認することはできなかった。
自分で公言した家訓を破るとこを見られるワケにはいかないからな。
「……秋ちゃん。まだ泣いてるの? いい加減泣き止んだら?」
俺の頭を撫でる手の上から母さんの声がした。既に母さんの服はびしょびしょだ。
「……甘ったれ」
兄貴の呆れた様な声がするが、無視した。
「……やっぱ俺の息子だなぁ。カッコつけどころが分かってる」
なんて親父の声も聞こえた。
ソレから数分間、俺は母さんに寄り添ってぐずっていた。コレがある夏の終わりの記憶。
「……っ!」
突然目が覚めた俺は、部屋の明かりを点けっぱなしにしていたことに気づいた。
「……まひる」
誰に言うでもなく呟いたのは、紛れもない従妹の名前だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる