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リライトトライ3
プロローグ2
しおりを挟む一人ぼっちで天国に行くくらいならみんなで地獄に行きたい。
わたしはそういう人間だ。一人ぼっちでいること自体が既に地獄なのだから。
コレを聞いてわたしのことを可哀想で孤独な人間だ、と人は思うだろうか?
だけどソレは間違いだ。今のわたしはコレでも進歩したと胸を張って思えるのだから。
以前のわたしは一人ぼっちでいるのが辛いのにその感情と向き合えず、孤独であるのが当たり前で、辛いと思うことが恥ずかしい。求めるべきではないと認めたがらなかったのだから。
こんなちっぽけなわたしなりの進歩が果たせたのは、色々な意味である人物のおかげだ。
『自分の人生の主人公は自分しかいない』コレは彼がわたしと出会う前に大衆の面前でぶちまけた言葉らしい。
わたしが初めてこの言葉を人伝に耳にした時、覚えた感情は嫌悪だった。『何を分かったようなことを言っているのだろう』と呆れたモノだ。
その時の、どう考えても自分を人生の主人公足りえると思えなかったわたしの胸には、彼のその言葉は暴力と感じてしまえるくらいに奥深く突き刺さり、不快感と痛みを生じさせた。
ハッキリ言ってわたしの彼に対するイメージは『他人に迷惑を掛けることをカッコいいと勘違いしている自己陶酔屋』と最悪だった。
だというのに周りにはそんな彼の行いにすっかり騙されてソレなりの敬慕の念を抱く者達の存在があり、益々わたしを不快な気分にさせた。
あの人もこの人たちもバカだ。何も分かってないんだ、と。
もっとも彼へ注がれた視線の大半は、程なくして彼の隣にいつもいるカッコいい先輩へと目移りしてしまったのだが。
とにかく、わたしはその彼が大嫌いだった。
本来の演奏者が被る迷惑を考えもせずに文化祭のステージを奪って自己満足な歌を聞かせた挙句、取り押さえに入った教師の頭にギターを振り下ろした、とか――
高校に入っても落ち着かず、球技大会で小汚い謀略を駆使して全校男子を敵に回して、『ゲス魔王』と呼ばれるようになった、とか――
空手部で一番乱暴者だった先輩と喧嘩をして負かした翌日、敗者に鞭を打つが如く土下座を強制した、とか――
エッチな本を貸してくれなかった、とか一方的な言い掛かりをつけて同級生を殴って停学になった、とかとかとか――
他にも彼の傍若無人っぷりを語るにはいくら時間があっても足りないくらいだ。周囲を騒がせることに関しては枚挙に暇(いとま)がない。
しかしかくいうわたしも、彼に嫌悪の念を抱く反面、あんな自由に振舞えたら楽しいだろうな、と羨ましく思う感情がないでもなかった。
だから気がつくといつもわたしは彼を目で追っていた。クラスも学年も違うのに、彼は今どこで何をしているのだろうか、とアテもなく彼の姿を探したモノだ。
自由奔放に生き、友人達と一緒にのめり込めるモノを持っている彼。窮屈な生活を強いられていたわたしは、自分とは百八十度対極にいる彼が羨ましくて仕方なかった。
そしてそんな窮屈な生活に限界を感じたのだろうか? わたしは姿を変え、性格を変え、限定的な時間、限定的な空間でのみ、彼の模倣をしてみることにしたのだ。
今振り返っても我ながら大それたことをしたモノである、と感心してしまう。
意外だったのは、ソレが周囲に受け入れられてしまったことだ。トントン拍子に話が進み、彼のフィールドとわたしのフィールドは重なり、わたしは自分を偽った姿で初めて彼と顔を合わせ、言葉を交わした。
その時の彼の悔しそうな表情は愉快痛快だった。わたしはずっと私の心に割り込んでいた彼に一矢報いてやったのだから。
でもそんな自分をすぐに恥じる時がやってきた。本来のわたしと初めて顔を合わせ、言葉を交わした彼は、噂やイメージなどとは全く違う、とても優しくてひたむきな人間だったから。
彼はわたしが今まで会った人達とはまるで違った。本気でわたしを叱ってくれたし、本気でわたしの為に泣いてくれた。とても、とても優しい人。
好意という感情の正反対に位置する感情は、嫌悪ではなく無関心だと聞いたことがある。
なるほど、嫌悪という感情は関心を示しているということになるのだから。むしろ嫌悪は好意のすぐ隣にあるのかもしれない。
そして、一度嫌悪という坂を上り切り、好意という下り坂に乗ってしまったら、あとは落ちていくだけなのだ。恋という名の終点に向けて。
……などと恥ずかしいことを考えていたら、彼が不意にわたしを背後から抱き締めてきた。わたしは到底嫌がっているように聞こえない抗議の声を上げて、彼はそんなわたしをイジめるように腕の中に閉じ込め、耳元で愛の言葉を囁く。
はぁ……はぁ……
……ごほん。失礼、今のは妄想です。コレでも頻度は減った方なんです。勘弁して下さい。鼻血もすぐに止まります。お構いなく。
えー……と、そんなわたしが妄想を頻繁に催していた時代。彼は『コレが俺のりらいととらいだ!』とかよく分からないことを言っていたが、初めて出会ったあの時、わたしの人生の主人公は彼になった。
トクン……という心臓の音がソレを知らせてきた、そんな時代の思い出の話。
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