リライトトライ

アンチリア・充

文字の大きさ
93 / 139
リライトトライ3.5

如月京一郎は変態である②

しおりを挟む



「京ちゃん……またそんなこと言ってるの? そんな風に周りを遠ざけて……友達とかとうまくやれてる?」

「もうヤリまくりエブリデイですけど?」

 あ、ダメだコレ。俺が発狂したら元々発狂してるこいつを誰が止めるんだ。狂人二人になったらさすがに副会長が可哀想すぎるだろ。

「……とにかく、困ったこととか、分からないことがあったら言ってね? あたしは京ちゃんの味方だから」

 そう言って彼女は味方の証明だと周囲に知らしめるかのように手を差し出した。多分ケーツーが孤立してるのでは、と心配してるのだろう。まぁ、こんな性格のヤツを小さな頃から見ていれば心配にもなるわな。

「……お姉さんキャラみたい。相変わらず優しくて、大人だね」

 そう言ってケーツーが彼女の手を取る。

 ……何で俺、クラスメイトと副会長が廊下で握手するのをボーっと眺めてんだろ? 謎だ。

「だが……」

 そのままケーツーは握手したあとの自分の手を……ベロリ、と舐めた。

「この味は……処女の味だぜ? 兎川光ぃ……」

「…………」

「…………」

 変態だ……。変態がいる。

 俺が何でここにいるか分かった。この変態からこの女性を守る為だな。

 俺がケーツーに当て身を入れようと延髄に照準を定めていると、

「ふふ……もう、相変わらずね、京ちゃんは。そんなんだから心配になるんだよ?」

 健気にも兎川さんは何てことない風に笑ってそう言った。

 さすがというか、あしらい方に年季を感じるな。そう、こういった輩は女がワーキャー嫌がるから図に乗るんだ。こうやって何てことないですけど? みたいな顔をしていればいいのだ……大人だなぁ。

 やっぱりこの人、どことなく優乃先輩に似てる気がする。

「さっきも言ったけど、分からないことがあったら何でも質問してね」

「じゃあ……何で今日は月曜日なのに、いつもの白いパンツじゃないんですか?」

「…………」

「…………」

 こいつやべぇ……!

 俺は戦慄した。

「何っでお前が彼女の下着のローテーションを把握してんだよ!?」

 俺はケーツーの耳元でそう抗議した。さすがに周囲に聞こえる声を出すのは憚れる。

 しかも何故今日は違うのを知っている……!

「ふふん。一度順番を把握してしまえばあとは簡単さ。その日ベランダに干してある下着から割り出せるっ! 真実はいつも一つ!」

「うるせーよっ」

 俺がツッコミを入れるも、ケーツーは推理を披露する探偵顔のまま続けてしまう。

「しかし犯人にとっても思わぬ誤算があった。そのせいで履いていくパンツの順番が狂ってしまったんです。ではその誤算とは何か……?」

「何なんだよ……?」

 最早モブ臭が留まる事を知らない自分に気づいてはいたが、こうする他にないと俺は目の前の変態探偵にそう聞き返した。

 俺の返答にケーツーは満足そうに、そして大仰に頷き、若干のタメを作ってから目を見開いた。

「ズバリ! お漏らしだっ! ジッチャンの名にかけて! バッチャンの顔にかけて!」

「かけるなっ! お前本当にその内退学になるぞ!? いいか、コレは冗談で言ってるんじゃなくてマジでだぞ!」

 予想外に予想通りなことを言いやがる変態の肩を揺すりながら俺は懇願するような声を出した。

「憎しみは全て一所ひとところに集めなくてはならないんだ。この世界の下ネタは全て僕が引き受ける……汚れるのは、僕だけでいい……」

 何かカッコいいこと言ってるけど! 誰かこいつを止めろ!

「兎川さん……! あなたは……お漏らしを……しましたね……?」

 まるで断崖絶壁の上で犯人に語りかけるベテラン刑事のような重々しい声でケーツーが確認する。何なんだこの空気は。

「してません! 新しいの買っただけだよ……もう」

 兎川副会長が呆れたような声を出す。そこでようやく変態が展開したワケの分からん世界が破壊された。ふう。

 しっかし……気ぃなげーなこの人。普通の女ならとっくに殴るか逃げるか通報してるぞ。

「京ちゃん……いつも覗いてたの?」

「うん。干してある下着を目撃したところを咲ちゃんに目撃されたので知ってると思ってたよ。あの娘、約束は守るんだなぁ……」

「サキちゃん?」

「あ、妹です……約束?」

 俺の質問に答えつつ副会長はケーツーに質問する。

「うん。黙っててくれる代わりに男という生き物が何を考えてるのか教えろって」

「……あの娘が? ……ソレで、京ちゃんは何て答えたの?」

「『男は常に女子のパンツが見たい生き物なんだッ!』 てwww」

「お前ふざけんな! ち、違いますからね!」 

 俺はケーツーの頭を鷲掴みにしながら副会長に弁解するような声を出す。

「あは、あはは……ホント……相変わらずだね、京ちゃん」

 微妙に乾いたような引きつった笑みを浮かべる副会長。

「…………」

 そこで彼女は一度姿勢を正し、場の空気を作り直すように大きく息を吐き、再びケーツーを見た。

「……今年こそ生徒会に来ない? 待ってるのに」

 あぁ、多分コレが本題だな。コレを言いたいが為にこの人は耐えていたのだろう。

 ……て、ちょっと待て。今年こそ、ということは、去年も彼女はこの変態を我が校の生徒会に誘っていたというのですか? 

 ……そりゃあ明らかに愚策だぁ。やめておいた方がいいですぜ! と俺が忠告しようとすると、

「興味ないっス。のっといんたれすてぃんwww」

 反対しようとしていたはずの俺がイラっとしてしまうくらいムカつく断り方をケーツーが先にしてしまった。

「どうして? 中学の時は……」

「……え? 中学の時って? もしかしてお前生徒会だったの?」

「恥ずかしながらwww」

 こいつの辞書に恥ずかしいという言葉があったことに俺が驚愕していると副会長が続ける。

「あたしが会長で、京ちゃんが副会長。……京ちゃん、とても優秀だったんですよ」

 俺への説明が勧誘への取っ掛かりだと思ったのか、彼女は若干嬉しそうに声を弾ませる。

「ハッ……とても優秀て……何か上から目線だね」

 ソレに対してまたも劣悪な態度でムカつく声を出すケーツー。やめなさい、失礼でしょ!

「ご、ごめんなさい……」

「……あの、でも……こいつ、こんな変態っていうか……変態じゃないですか。こんな変態で副会長なんてできたんですか?」

「アッキーwwwキミのそういうとこ好きだなぁwww」

「中学の時は、違ったんです。その……何て言うか、真面目な、青少年って感じで」

「え」

「青少年……ねwww」

 え……じゃあ何? こいつ……高校デビュー!? いや、変態にデビューも何もあるモンなのか知らんけど!

「成績も学年でトップで……昔は一緒に勉強してたっていうか……教えてくれたんですよ」

 懐かしそうに、そして若干嬉しそうにそう呟く兎川副会長。マジか。

 ……え、マジなのか。こいつケーツーのくせにそんな女子と二人で勉強なんて勝ち組イベントを経験済みだと? 屋上に行こうぜ? 久々にキレちまったよ?

「いつからか……あたしの部屋に来なくなったし、二人で勉強することもなくなりましたけど」

 あー……同じ男である俺には分からんでもない。

 女の娘の部屋で二人で勉強ってのは、思春期を迎えた中学生にはちょっと難しい。自然と心の中にその状況を避けたがる心理が生まれるんだ。その原因が気恥かしさだったり、幼馴染みを性的な目で見てしまった自分への嫌悪だったり、そこは人ソレゾレだけどさ。

「いやwww一度光ちゃんのいない時にベランダから忍び込もうとして落っこちて骨折したからトラウマになっちゃったんだwww」

 全然違った。

 そしてこいつはやはり変態でおまけに臆病者だ。忍び込んで何をしようとしたのかは聞かないことにしよう。

「もしかしてその時に頭でも打って脳味噌に異常をきたしたせいでこんなアホな上に今世紀最低の変態に生まれ変わってしまったとか?」

「ひでえwwwいや今でも僕は成績優秀でしょうにwww」

 ……む、確かにそうだ。こいつは変態のクズだが頭はいい。テスト期間が近づくと大体俺達はこいつに泣きつくことになる。

 いや、俺文系は得意なんだけど理数系はさっぱりなんだよね。不覚だがこいつの編み出した卑猥な語呂合わせのおかげで何点稼げたかは計り知れない。

「で、何でお前そんな変態になっちゃったの?」

「僕は元々自分に正直な人間だったよwwwねぇ?」

 ケーツーが副会長に振る。

「ええ……まぁ、確かにエッチでした……けど学校では大人しかったじゃない。ソレが……段々と」 

 彼女が答える。

 ふむ……段々と……中学生活が終わりに向かうに連れて人目を憚らず下ネタをまき散らすようになっていってしまったと。

「僕はね……気づいてしまったんだ。勉強という字は『強い、免除される為の力』であると」

 はいぃ?

「実際にテストでいい点さえ取っていれば教員共も何も言わなかったからね。そこでさらに気づいたんだ。周りから見た今までの僕の印象は――『勉強のできるヤツ』ただソレだけだったんだって」

「あたしは、そんなこと――」

「そこで猫を被るのをやめた。本当の自分を殻に閉じ込めるのはやめたんだ。だから何て言うか、自分を偽っていた身としては……猫を被ってる人は分かるんだよね。留学生の姉弟、とか」

 ……え? どゆこと? 話がよく分からん方向に流れてるな。置いてけぼりだぞ俺。

「……どうしてなの? 京ちゃん」

「ふ……あの時とは違うのさ……あの時はチョロチョロだったのに今ではボーボーなのさ。ソレと同じだよ」

 こいつ……よくこんなこと言えんな。しかも廊下で。

「……? そんなこと言わないでちょっとは興味持って欲しいな。良かったら今日からでも生徒会、見学に――」

「あー、無理。帰って格ゲーのコンボ練習しなきゃwww」

「…………」

 ここでようやく俺はケーツーの頭を引っ叩いた。

 我ながらよく我慢した方だと思ってる。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...