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リライトトライ0
第四話
しおりを挟む……“もう、放っといてくれよぅ”と、そう泣きながら一人の友が逝った(死んでない)。
俺はその友、タケシくんの背中に向けて伸ばしていた手をゆっくりと降ろす。
「…………」
「…………」
「ちっ、『女死すべし同盟』が結べるかと思ったのに」
「秋の女嫌いも困ったモンだ」
「だって実際ロクなモンじゃないじゃん。人のことは平気で裏切るのに、自分の恋愛だけは綺麗にしておこうって神経が……って、別に俺が裏切られたワケでもないが」
「……秋は、もう恋したり、彼女欲しいとか思わないの?」
宗二が何だか少し寂しそうな表情で俺の顔を覗き込んできた。
……もう? そもそも俺は恋なんてしてないぞ。前に気になってたアスカちゃんとも最近は全然話もしてないし。
「……思わないな。実際、理解できると思えないし」
「でもソレだと一生おっぱい触れないぞ」
「う……」
「一生キスも手を繋ぐこともエロいこともしないのか?」
「い、いいんだよソレで!」
俺はこの話は終わりにしたいと意思表示するように声を張った。
「そう? 俺は秋は女の悪いとこばかり見ちゃってるだけで、まだいいところに目がいってないだけだと思うけどな」
「いいところ……あんのかな?」
「あるよ。腐るほどあるって」
「……ちなみに宗二、もう智美とヤッたの?」
「……まだ」
「よし!」
俺は強く握り締めた拳を高く掲げた。
「よし、って。秋……性欲はあるんだよな?」
苦笑いする宗二。
「もちろん。週末はいつもファイヤーオ◯ニーだ」
「ファイヤー……」
「こないだ父さんに聞いたんだけど、昔はコンビニで普通にエロ本が立ち読みできたらしいぞ。恐ろしい時代だよな。いや、良作か駄作の判断もできず、ジャケ買いギャンブル一沢な今の方が恐ろしいのか?」
俺は時の流れの早さを嘆くように腕を組み、唸った。
「……でも、普通に少年漫画とかでも結構エロくない? いや……前に見たけどむしろ少女漫画のがエロい」
「でも乳首見れないじゃん! おっぱい出てきてものっぺらぼうみたいじゃん! 完全体のおっぱいがどんなモノなのか、そこにおっぱいがあるのかは、袋綴じやらビニールテープを剥がさなければ分からない! 正に――」
『――シュレディンガーのおっぱいだ!』
俺と宗二は顔を合わせて叫んだ。
「声がデカいのよ、変態ども!」
『いて!』
スパン! と小気味いい音を立てて俺達の頭を教科書で叩いたのは、先程宗二がようやく思いが通じて付き合えたと言っていた赤西智美だった。
「何しやがる!」
「ソレはこっちの台詞。教室でエロ本やらおっぱいやらファイヤーオ◯ニーやらデカい声で喚かれてる周囲の方がよっぽど『何しやがる』よ」
……確かに……!
俺は反論できずに押し黙ってしまった。
しかしこいつは女なのによく公衆の面前でこんなことを口に出せるな。
宗二曰く、この女は『誰よりも女らしい』とのことだが、多分極端に嗜好が偏っているのか、やべぇフィルターでもかかっているのだろう。少なくとも俺の目から見た赤西智美に『羞恥心』の三文字はない。
「ご、ごめん智美。あのさ、後で……昼休みにでも、今度の土曜の打ち合わせ――」
「……! は、恥ずかしいから学校で話し掛けないでって言った……!」
「――ごめん」
とか思った傍から何だあコリャ? みるみる内に顔を赤くして赤西は目を逸らした。
「何テレてんだおめーは。こないだまでフツーに話してたじゃんか」
「あの時は男のことなんて何とも思ってなかったのよ……!」
赤西は忌々しげに俺を見て言う。
「今だって俺とはフツーに話しているではないか」
「あんたなんて男はおろか人間とも思ってないからよ。発情した野良犬……って言ったら野良犬が可哀想なくらい」
「ひでぇ」
「ソレでも俺は話したい……」
悲しそうな声で窓の外を眺めながら宗二は一人黄昏ていた。
「お前はマゾか。てかラノベか何かのタイトルみてーな発言だな」
ちなみにタケシくんは休み時間終了までには普通に帰って来た。目を腫らしてはいたが。
「ふぅ……」
授業中に猛烈な便意を催しつつも、ソレに休み時間まで耐え続けた俺は教室から離れた離校舎側のトイレまで移動し、自分の偉業を心の中で誉め称えていた。
ブラボー、俺! ブラボー、マイ括約筋!
何でそんな意味ないことすんのって? バカ野郎! 思春期の男子が授業中にうん○なんかできるか! 例え休み時間でも多くの生徒が利用する本校舎側のトイレで全力でブッパなせるワケがない!
俺がう○こを終え個室のドアを開けると宗二が髪をイジっていた。
まぁ音で誰か入ってきたのは分かってたし、多分宗二だろうとも思っていたが。何でも向こうの利用者の多いトイレでは長時間鏡と洗面台を占拠するのは心苦しいんだとか。
今は屋上に入ることもできないし、体育館裏はガチでやばい連中がスモーク発生装置をくわえているので関わりたくない。
人目を避けて話がしたい時など俺達は大抵ここにくる。所謂秘密基地的な思考の延長だと思ってくれればいい。
そんなワケでうんこを終えて心も身体も軽くなった俺はヘアセットが終わった宗二と二人、離校舎の廊下を歩いていた。
そこで俺は奇妙な光景を目の当たりにした。
いや、実際には先に耳にしたんだが。まぁソレはいい。
「あんたさ、先生に色目使ってんの?」
「媚び売ってんなよブリっ子しやがってさ」
聞こえてきたのはそんな女子生徒の声だ。
宗二と顔を見合わせて俺達は廊下の曲がり角から片目だけを覗かせ、様子を窺った。
「い、いやぁ~……そんなつもりじゃ~」
「何ヘラヘラしてんだよ。ソレ、男にしか通用しないから」
「本当に、そんなんじゃないから……ウチ、美術の課題、まだできてないから、心配した先生に声掛けられただけ」
女が三人。ヤンキー入った二人が、残る一人を責めているようだ。
会話から察するに……どうやら、こいつらは美術の授業で離校舎に来ていたようだ。
そこで授業が終わって本校舎に戻る際、ヤンキー女二人がブリっ子を引き止めて物申してるってことか。
どうしたモンかなぁ。この曲がり角から出ないと教室に戻れないんだよなぁ。
女の争いに介入したくないし、もしかしたらヤンキー女二人の言うように、ブリっ子の媚びっぷりがマジで周囲に不快感を与える程のレベルだという可能性もある。
一人に対して二人で詰め寄るのはいささか卑怯な気もするが、今のところ手を出しているワケでもないしなぁ。ここは『見』が得策か。
ま、隣にいる宗二ならソレでも『言葉の暴力よくない』とか言って出ていきそうだが。
「だからヘラヘラしてんなよ!」
「……ごめん、なさい」
……ブリっ子が謝った。先程までのヘラヘラした調子とは違って本当にガッカリした、覇気のない声で。
「…………」
……うん、謝ったからもう終了な。解散だ解散。
「何について謝ってんの?」
おいおいまだ続けんのかよ。
「不愉快にさせた……こと」
「ちげぇだろ!! 男に媚び売るなって言ってんの!」
そう言ってヤンキー女の一人がブリっ子を突き飛ばした。彼女の持っていた教科書や筆記用具が廊下に散らばる。
……手を上げたな。
「もうしません、だろ!」
「…………」
「……黙ってんじゃねーよ!」
「…………」
「ウンとかスンとか言ってみろよ!」
ヤンキー女が、突き飛ばされ廊下にへたり込んだブリっ子に向けてそう言った瞬間――
「ウン!」
「コ!」
俺と宗二が左右から叫んだ。
「おわっ!!」
やはり来たか。基本女子には無害なヤツとはいえ、宗二は嫌いなタイプには結構キツイことも言うし、行動する。
「いやここはスンだろバカ! やり直し! はいウン!」
「スン!」
「な、なんだよてめーら……」
ヤンキー女は引いていた。
「『ウンとかスンとか』よぉ~……『ウン』ってのは分かる。相槌に使ったり『阿吽の呼吸』とか応じるって意味が感じられるからな……」
だが俺はそんなのどこ吹く風で語りに入った。
「はぁ?」
「マジきもいんですけど!」
「だが『スン』って部分はどういうことだぁ~!?『スン』なんて返事しても意味が分からねぇっつーのよーッ! なめやがってこの言葉超イラつくぜぇーッ!『分かりまスン』とか『愛してまスン』とか、『どっちだよ』ってツッコミがあって初めて成り立つモンだろーがーッ!」
俺はそう叫んで壁を殴る。
「何だよこいつ……控え目に言ってもキ●ガイだよ……!」
「行こ! やばいよこいつ!」
「どういうことだ! どういうことだよ! クソッ! 『スン』ってどういうことだよ! クソッ! クソッ!」
「秋……もういねーぞ」
背後から宗二の声がする。
「マジかよ! せっかく俺が拳の痛みに耐えながらギ●ッチョの物真似してんのに!!」
「いや何の物真似だか知らんが……」
そう言って宗二がへたり込んでいたブリっ子に近づいていく。
「大丈夫?」
「あ……はい」
「ん、よかった」
宗二がブリっ子の手を引いて立たせた後、拾った教科書をその手に渡す。相変わらず爽やかイケメンだなこいつは。
「あ、はい……ありがとうございます。はは……」
少し癖のある茶色いセミロングの髪に、派手なピンクのカーディガン。何というか、目立つ女だ。
……あと、胸がでかいな。
「本当に大丈夫?」
「あ、ホント……大丈夫です。よくあることだから……はは」
「……マジ?」
「……ん。しょっちゅうだから慣れっ子です。だから、大丈夫なんでもう私のことは――」
「お前さ、何で笑ってんの?」
俺はその女の言葉を遮ってそう言った。
分からない。何故か無性に腹が立った。といっても、さっきまでのヤンキー女が言うような媚びっぷりに腹が立ったワケではない。
もしかしたら、彼女に腹を立てたワケですらないのかもしれない。自分でも何にこんなにイラついているのかワケが分からなかった。
「――え?」
「今、全然笑える気分じゃないだろ。なのに無理して笑うなよ」
キョトンとした表情のそいつにそう言い捨てて、俺はその場を後にした。
「お、おい、秋!?」
宗二の慌てた声を背に受けながら、俺は原因不明のイライラに衝き動かされるように脚を止めることができなかった。
コレが、彼女との――都 優美穂との出会いだった。
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