不遇の花嫁は偽りの聖女を暴く──運命を切り開く契約結婚

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── 新たな未来へ ──

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 フィオナとの最終決戦から数週間が経った。王都を覆っていた闇の瘴気はすっかり消え去り、シュヴァルツ公国の空には穏やかな風が吹いている。あの激闘の日々を思い出す者は多く、街角や市場、そして農村のあちこちで「奇跡の聖女セレスティア様が国を救った」と称える声が上がっていた。

 もっとも、セレスティア自身は“真の聖女”と呼ばれることに、まだ少しだけ気恥ずかしさを感じているようだ。遠くアストリアの辺境で冷遇されていた頃を思えば、まるで嘘のような転機。しかし、いま彼女の胸には確かに“国を護り、人々の笑顔を守る”という揺るぎない使命感が芽生えていた。
 
1. フィオナ失脚と後日談
 闇の魔道による被害をもたらした“偽りの聖女”フィオナは、国を覆う瘴気を打ち消した翌日、塔の頂で取り押さえられた。その身は力を失い、生気を奪い取る呪術によって悲惨な数々の罪を犯していた事実が明るみに出る。

 生贄となって命を落とした者、重い後遺症に苦しむ者、それらの被害者や遺族の嘆きが噴出し、ラウルは公子として「断固たる処罰」を宣言するに至った。

 正式な裁定の場が開かれ、そこでフィオナに科された処遇は“永久幽閉”という形である。彼女が“聖女”という肩書きで積み上げた業績はすべて剝奪され、闇の魔道を用いた重罪人として、生きながら一切の自由を奪われることとなった。

 かつての信望者の中にはフィオナを擁護する声もあったが、国中に散らばる惨劇の痕跡と、多数の証人がその残酷な真実を証言し、弁解の余地は失われた。

「こんな……嘘……ラウル様が、私の全てだったのに……」

 フィオナは力なく呟く以外、どうすることもできない。彼女が自らの命を賭してでも愛したはずの人に背を向けられ、それまで命を捧げた魔道が崩れ去った今、その瞳にあるのは深い絶望のみだった。

・国に戻る平穏と後始末
 一方、王都や各地方では混乱が徐々に収束し始めていた。“血涙の大儀式”によって体調を崩した者や負傷した兵士、民衆への救済策として、ラウルが主導するかたちで緊急の医療体制と支援金の分配が行われた。

 セレスティアも自ら動き、治療院や孤児院、農村の復興に向けた施策を関係者と話し合い、必要な物資を効率よく回すために日々奔走している。クレアやレベッカ、ハルトらをはじめとする忠誠心の高いメンバーが力を合わせ、各地域の声を宮廷に届けていた。

 かつてはフィオナの奇跡に頼っていた公国だったが、今では“地道な努力”と“真摯な政治”がようやく回りはじめている。ラウルは公務に一層打ち込み、セレスティアもかつて学んだ知識を活かして助言を行う。

「……前よりも人々の顔に安心が見えるようになりましたね」

 そう話すのは、ある日の昼下がり。セレスティアがラウルとともに城下町を視察した帰り道だ。かつては怯えた表情を浮かべていた子どもたちが、今は笑い合いながら駆け回っている。通り沿いの商店からは活気ある掛け声が聞こえ、商人たちも「お二人さま、お疲れでしょう。休んでいかれますか?」と気さくに話しかけてくる。

 ラウルはその光景に目を細めながら、セレスティアの手を取った。

「おまえがいてくれたから、ここまで来られた。まだ解決すべき課題は多いが、何とか前を向いて歩き出せる気がするよ」

 そうして国に戻った穏やかさと安定は、今やシュヴァルツ公国の新たな希望として、民衆の心に根付きつつあった。
 
2. ラウルとセレスティアの結婚生活の再始動
・真に愛し合う夫婦として
 騒乱が一段落し、王宮のあちこちでは慌ただしかった日々の反動もあって、ようやく“正式な祝賀”を行う機運が高まっていた。

 数カ月前に執り行われたセレスティアとラウルの“政略結婚”は、形だけの簡素な儀式に近かった。しかし今、国の未来を変えたふたりの功績を祝おうと、宮廷の貴族や庶民たちは本当の意味で“おふたりの婚礼を祝したい”と声を上げ始めている。

「公子妃殿下とラウル様が、真に夫婦として歩み始められるなら、この国もより安定しますわ!」

「ぜひ、大きな宴を催しましょう。民衆にも開放し、皆が笑顔になれる場を設けられれば、フィオナの暗い記憶を乗り越えられます」

 侍従や重臣たちの進言を受け、ラウルとセレスティアは改めて“結婚の祝賀会”を開くことを決めた。今度こそ、ふたりが真に愛し合い、手を取り合う夫婦であることを公の場で誓い合うために。

 ある日の夕暮れ、セレスティアは城内の一室で、クレアやレベッカに手伝われながら新たな礼装のフィッティングを行っていた。滑らかな絹のドレスと、胸元にはあの“翠曜石”のペンダントが美しく輝いている。

「わあ……本当にお似合いですよ、セレスティア様」

「まるで女神が舞い降りたようです。ラウル様も目を奪われることでしょうね」

 クレアたちが口々に感嘆の声を上げるが、セレスティアは少し照れくさそうに視線を落とす。

「そんな……私はまだまだ未熟ですけど……でも、ラウル様の隣に立つからには、精一杯の礼儀と気持ちを表したいんです」

 呟くセレスティアの瞳には、自分自身の意思で人生を切り開いてきた確かな自信が宿っている。そして何より、ラウルへの愛情がその笑顔を生き生きとさせていた。

 祝賀会が開かれる夜、大広間には華やかな装飾が施され、国中から集まった貴族や豪商、騎士たちが一堂に会する。巨大なシャンデリアの下では、優雅な音楽が流れ、テーブルには豪勢な料理が並べられた。

 ラウルは深い紺の正装に身を包み、壇上に上がって集まった人々に向かって静かに語る。

「この国は、先日まで闇に覆われていた。だが、いま我々は共に立ち上がり、新しい未来へ歩み始めている。……そのきっかけを作ってくれたのは、ここにいる公子妃セレスティアだ」

 その呼びかけに、大広間から割れんばかりの拍手が巻き起こる。セレスティアは少し緊張しながら壇上へ上がり、深々とお辞儀をする。

「私など、まだ至らない点ばかりです。でも、皆さんの支えがあったからこそ、あの日の危機を乗り越えることができました。これからはラウル様と手を携え、この国を良くしていきたいと思います……!」

 さらに大きな拍手が響き、クレアやレベッカ、ハルトといった仲間の面々も満面の笑みを浮かべている。誰もが、セレスティアを本当の意味で“公子妃”として認め、祝福していた。

 かつてのアストリアでは感じられなかった“温かい仲間の視線”。セレスティアは胸が熱くなり、隣で微笑むラウルと視線を交わす。そっと手を繋いだふたりを包む空気は、確かな愛情と信頼で満ちていた。
 
3. 運命を切り開いたヒロインの姿
 祝賀会のあと、夜風がさわやかに吹くバルコニーへ抜け出したセレスティアとラウルは、静かに外の景色を眺めている。城下町にはたくさんの灯りが灯り、遠くの畑には収穫を祝う焚火のような小さな光が揺れていた。

 「……なんだか、信じられない気持ちです。私がこの国に来たばかりのころは、まさかこんな未来が待っているなんて思っていなかった」

 セレスティアがしみじみと口にすると、ラウルは彼女の肩をそっと抱き寄せる。

「おまえは、実際に自分の意思でここまでの運命を切り開いたんだ。政略結婚の形で来たとはいえ、結果的におまえがこの国を救った。偽りの聖女など、最初からおまえの足元にも及ばなかったのさ」

 その言葉は冗談めかしているようでいて、ラウルの瞳には誇らしげな光が宿っている。

「アストリアで寂しい思いをしていたときも、きっと心のどこかで自分の力と運命を信じていたんだろう。だからこそ、こうして大きな困難に立ち向かえたんじゃないのか?」

「……ラウル様にそう言われると、少し照れますね。でも、ありがとう。あなたが、私に自信を与えてくれたんですよ」

「ふたりで新しい未来を作る」希望に満ちたフィナーレ

 バルコニーからは、近衛騎士たちや侍女の姿が離れた場所で控えているのが見えるが、彼らもふたりを邪魔することはない。王宮の警備は厳戒態勢が続いているが、それでも今、この一瞬だけはふたりきりで時間を共有したい。

 セレスティアはしばらく夜空を眺めてから、ラウルの胸に額を預け、静かに口を開く。

「私、もう後悔はありません。アストリアにいた頃の孤独も、ここで出会った苦しみも、すべてが私を強くしてくれたから。……これからはあなたの隣で、この国を支えながら、もっと笑顔を増やしていきたいです」

 ラウルは応えを返すように、彼女の肩を抱く力を強める。

「そうだな。おまえが望むなら、何だって一緒にやってみよう。国を変えていくのは俺だけではない。おまえや、多くの仲間や民の力が必要だ。みんなで、新しい未来を作ろう」

 ふたりが見つめ合い、唇を重ねる。その周囲に漂う空気は、長い苦難を乗り越えたふたりだけが得た深い愛情と信頼を象徴していた。

 夜空に輝く星々も、まるで祝福するかのように瞬く。宮廷の内外では、まだ復興への道のりが始まったばかりであり、決して平坦なものではないだろう。けれど、セレスティアとラウルの背中を支えてくれる仲間がいて、ふたりは同じ未来を見据えて歩み出す。

 それはかつてのセレスティアの姿からは想像もできない“大きな変化”だ。王女として生まれ、冷遇されてもなお諦めず、自分の意志で運命を切り開いてきた彼女。それを認め、手を差し伸べてくれたラウル。

 いまこの瞬間、ふたりは真に夫婦として、そしてパートナーとして――どこまでも続く道を歩いていこうと誓う。
 
・結び
 こうしてシュヴァルツ公国は、闇の魔道に支配されることなく新たな一歩を踏み出した。偽りの聖女フィオナがもたらした混乱を克服し、国の復興へ向けて一丸となる民衆と、力強いリーダーとして成長を遂げたラウル、そして“真の聖女”として覚醒したセレスティア。

 セレスティアはもう、不遇なヒロインではない。彼女はこの国に不可欠な存在となり、自らの手で道を切り開き続けるだろう。王宮の人々も、いまや彼女を心から認め、祝福している。

 壮大な宮廷劇の終幕は、同時に新しい始まりを告げる合図だ。セレスティアとラウルは共に歩む未来を見据え、手を取り合って微笑み合う。そこには何の偽りもなく、深い愛と信頼だけがある。

 ――運命を嘆くのではなく、自らの意思で運命を切り開く。その信念を貫き通したセレスティアの物語は、いま大団円を迎え、彼女を待つのは“幸せ”と呼ぶにふさわしい、希望に満ちた明日。

 王都の上空には、朝陽が柔らかに差し込み、ふたりの姿を照らし出す。子どもたちの笑い声が広場に響き、遠くからは馬車を引く音や商人たちのやりとりが賑やかに聞こえてくる。

 どこまでも続く青空に誓うように、セレスティアはラウルと共に目を伏せ、静かに願う――「この愛と平和が、いつまでも続きますように」。

 それは、まだ物語の途中かもしれない。けれど、ヒロインは確かに運命を乗り越え、真の幸せを手に入れたのだ。

 ──新たな未来へ。

 ふたりの手は固く結ばれ、どんな困難も乗り越えていく。その先に広がる光の道は、まぎれもなくセレスティア自身が切り開いた、彼女だけの輝かしい物語の続きを示している。
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