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小娘爆走
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しおりを挟むやっぱり、専門家の先生って凄い。
ベースになる歌詞を見て、何通りもの言い回しを教えてくれる。
先生の専門は万葉集で、短歌専門だから、音楽の、人が実際に歌う曲の歌詞は初めてで、ドキドキするって言ってたけど。
だからだろう。
音が綺麗で、響く言葉選びが巧いのだ。
節回しとか歌詞に出てくるモノの色とかの、掛け合わせの使い方が色々凝ってて、面白い。
先生が言うには、短歌がそもそも、そう云う言葉遊びを突き詰めるものだからって、言ってたけど。
歌詞が音が、意味が響きにゴロが、本当に綺麗に合わさって、カッコイイのね。
嬉しくなって色々聞いてたら、あっと言う間にお昼過ぎ。
混合曲の冒頭歌詞は、大体出来たかなぁと思ったんだけど、先生から「一週間時間が欲しい」と言われてしまう。
もっとしっくりくる、他の表現を探してみるからと。
先生がそう言うならって、お願いした。
それは良いんだけど。
お昼食べて戻ってみれば、お客様が来ていて、なんか急ぎの用が出来たらしい。
先生はちょっと待っててくれればって言ってったけど、すぐに終わりそうにも見えなかったし、そこまで急いでいなかったので、今日は終了。
一週間待つ必要もあるし、今日慌てて話す事も、もうなかったから。
あとの細かいやり取りは、メールでもLINEでも良い訳だし。
それはまあ、良いんだけどね。
「私、これからどうしよう?」
急遽で、予定が、ガラ空きです。
「事務所戻れば、清牙達いるんじゃねぇの? それともどっか…」
言いかけて舞人君が、自分の真っ赤でちっさい車に凭れて、スマホに出る。
舞人君、身体に似合わない、可愛い車乗ってるんだよね。
エンジン音が、ちょっと面白い奴。
外国の車だって言ってたけど。
「どうした?」
なんか泣いてるような声が、聞こえる?
「ああ、分かった。すぐ行く。ちょっと待ってろ」
そう言ってスマホを切った舞人君は、私の頭を撫でる。
「悪いが付き合ってくれ」
言いながら、助手席促され座ってシートベルト。
舞人君も運転席に回って座って、シートベルト。
そしてすぐに動き出す。
「それは良いんだけど、私邪魔じゃない? 塩野さん来るまで、先生のとこで待ってるけど?」
「今日会った人間に懐き過ぎだろ」
そう、なのかな?
優しくて面白い先生だったよ?
なんか、乙女な感じで、可愛い先生だったし。
「まあ、悪い人ではなさそうだけど、希更を預けるのは危うい」
「ダメなの?」
「荒事には向かないし、圧力系にもどう、だかな」
良く分かんない。
「それに、今から行くのがまあ、うん。ちょとアレなんだ。お前なら、多分、大丈夫な筈」
「舞人君? 意味が分かんないんだけど?」
「俺も、言葉で説明し難いんだよ。まあ、ウチの親戚筋で、俺と同じ変わり種。ミュージシャンではあるけど、お前は知らねぇだろうな。フェスの時には参加で会えたんだけど、お前らがいたんで、一応遠慮させたんだよ」
やっぱり、良く分かんない。
「『先頭臨戦態勢』って云う、まあ、かなり激しいとこのD・Vで、親父の従兄妹の娘なんだが、かなりぶっ飛んでいて、まあ、清牙が何言っても話聞かねぇから、相性は悪くないんだが、仲も良くない。あっちはかなりの先輩でもあるし、ちょっと、複雑な間柄ではある」
その言葉にスマホで検索。
「あ、うん。駆郎君はダメだね」
出てくる単語が、下ネタ18禁とか、来場年齢制限とか、それはもう…。
SPHYでさえ18禁なのに、32禁ってナニ!?
「私が知り様もない人達だよね」
絶対に、私が近付こうとすると、駆郎君が怒りそうな人達っぽい。
駆郎君があまりにも煩いと、ジャイゴも煩くなるし。
いや、呆れるのかも?
「まあ、カエさん見たら、大興奮で何するか分からないから、今後も会わせるのは難しいと思う。あっちは会わせろって煩いんだが」
「カエちゃんはともかく、セイちゃんが怒るから止めとこうか」
セイちゃん、自分がカエちゃんにHな事するのは良いけど、他の人がしようとすると激しく怒るし。
「駆郎も、あの人らがいると、無音の無表情になる。まあ、これバレたら、間違いなく煩そうだけど」
「大丈夫。駆郎君には何も言わない」
「まあ、目的はそっちじゃなくて、その息子の方だから、どの道バレるだろ」
なんで?
「なんかあったら、フォロー頼む」
「その何かが理解出来ない限り、頼まれても困る」
「うん。そう云う切り返しが、アイツには必要。アイツ、最初はイラっとくるかもだけど、そのまま行け」
意味が分からないんですけど?
そのまま舞人君と、美咲ちゃんの所まではないけれど、結構大きなお家にやってきた。
そして、なぜか、舞人君は当たり前に玄関の鍵を開けてしまう。
「舞人君のお家?」
「いや、あの人達、親しくなると、普通に、家の鍵を配ってる」
意味が、分からな過ぎる。
そのまま中に入ったら、中に進めば進む程、ダカダカとそれはもう、力強いドラムの音が。
すっごい走っていて力強くて、カッコイイ。
と同時に、結構煩い?
もうちょっと強弱付ければ良いのに。
微妙に音走り過ぎていて、時々不安定になる上に、いきなり煩い。
そこ、いきなり煩くする意味はナニ!?
「まあ、俺も、あの人の影響受けてドラム始めた口ではあるんだが、晴流、荒れてんなぁ」
「これ、でも、すんごく上手いんだけど?」
荒いのは確か。
リズムが時々不安定になるのは、勢いで叩いているからだろう。
けど、感情起伏で荒れはしてても、全体としてのブレがない。
舞人君と叩き方似てる気がする。
舞人君の方が、やっぱ巧いけど。
でも、プロの人?
「あいつ、生まれた頃からドラム触ってるから、感情の発露が、ドラムなんだよ」
なに、それ?
そのまま人様のお家なのに、当たり前に奥へとドンドン入って行き、多分スタジオらしいところに入る。
スタジオなのに扉開けっ放し。
スタジオの意味は?
道理で、玄関先まで五月蠅かった筈だ。
そして、ガラスで仕切ったブースの中で、泣きながらドラムを叩いている男の子がいる。
それを見て、内部マイクに切り替えた舞人君。
「いい加減、泣き止んで出てこい」
『うっっぐっ、えっぐっ、ぐっ、すん、くしゅん!!』
あ、最後のくしゃみ可愛かった。
そう思ったら、鼻を噛みながら扉を大きく開けた男の子が、目を手の甲でこすりながら歩いてくる。
「え、り、かと、たけ、おが、なぐりあって」
「あの夫婦は凝りもせず」
「おしゃら、ばりんって、ぐらすばりんって、して、ベッド行った」
「おいっ」
「片付けた、でも、まだって、ライト、光ってる」
「ああ、もう、仲が良いんだが、激し過ぎるだろ。んで、片付けは? ガラスあるから、危ないんだろ?」
「たぶ、ん、かた、した。けど、もうっ」
そしてまたビービー泣いている。
多分、駆郎君や玲央君と変わんないくらい身長あって、筋肉なんだろう、身体も厚いんだけど、声が可愛い。
そして何より、仕草や言い方も可愛い。
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃなので、良く分からないけど。
「あのね。初めまして希更だよ」
そう挨拶すれば、こっちチラ見してビクンっと分かり易く震えたと思ったら、ブースの中に駆け込んで鍵を閉めてしまう。
「ああ、まあ、そうなるわな」
なにが?
「俺は、割れ物確実に片付けて来る。ここで、まあ、気が向いたら、奴の相手してやってくれ。面倒なら、放置で良いから」
そう言って舞人君はスタジオから出て行ってしまう。
その姿を見て仕切りガラスにべタンと張り付いた男の子は、私を見て青褪めた顔でドラムセットの後ろに。
ただ、身体が大きいので、全く隠れてないけど。
取り敢えず、見詰めていると、こっちが気になるのか、ちょこちょこ顔が出てくる。
やっぱり、なんか幼い感じ。
たっ君の反応に似ている。
たっ君は目が合うとにっこりしてくれて、かくれんぼなのか相手して欲しいのか分からなくて、突撃して怒られちゃうんだけど。
この子は私が気になってはいるんだけど、構って欲しい訳でもなさそうだし。
取り敢えず、スタジオの中を見る。
多分、美咲ちゃんのトコの、てっちゃんのトコと同じ?
でも、見た事ないメーカーのロゴあるし、PCの型はちょっと古いかな?
暇だから、音出して聞いてみたりしたら、ダメなんだろうか?
仕方が無いのでマイクボタンを…押したまんまだね。
「あのね。ここの音、聞いてみて良い?」
分かり易くビクンって震えた男の子は、恐る恐ると云った感じで私を見て、それから壁にある受話器を怖々取った。
『おもちゃじゃ、ありぁ…ありませえんっ』
そう言って、泣きながら声が切れ、そしてまたドラムの後ろに。
多分、私が初めて見る機械を面白半分に…まあ、そう言われればそうかも?
興味本位で触ろうとしていた訳だし。
「一応、ウチにも似た様な機材あるから、使い方は分かるよ。どんな音があるのか、聞いてみたかっただけ。暇だから」
そう言えば、ドラムの横から出てきた男の子はまた、壁の受話器に走って行く。
『ウチ、おと? まいちょん』
うん、混乱してるね。
「私希更。SPHYのママ分かる? あの人の姪で娘で、ややこしいけど、一応音楽関係者」
分かり易く目を大きく見開いた男の子は、何度か頷いてからまた喋り出す。
『『花蓮』やって!!』
「やってって言われても、私あんまり上手くないし」
『ううっ』
だから、泣きそうな顔しないでよ。
「ここにある楽器…ああ、Gあった。これ、借りて良いの?」
なんで、Gが床に落ちてるんだろう?
扱いが雑過ぎる。
『うん!』
なんか嬉しそうなとこ申し訳ないんだけど…。
「あんまり上手くないからね。一番マシなのが、Kなのに」
まあ、主旋律ならなんとか…。
間違っても、駆郎君みたいな速弾きは絶対無理…思いながら、取り合えずの音確認。
置き方は雑だけど、調律は問題無さそう。
サビの部分を弾いてみる。
うん、無理。
これ、硬いよ!
駆郎君の走りたい時の、ライブ用並みじゃん!
「ピックも無いのに、普通に弾けない」
指じゃ無理だって!
私の指じゃ、弦に完全に負けてる。
音、鳴らないし。
『ピックは、その辺に転がってる』
えぇぇ?
何で、G弾く人はいい加減な人が多いの?
駆郎君もあっちこっちに放置で、置いた事も忘れちゃうし。
まとめて片付けると、ナイナイ喚くし。
もうっと思いながら、Gを置いて床に這いつくばれば、確かにピックが何個か落ちている。
もう一度Gを抱えなおしたら、なぜか、男の子はDを叩く準備万端。
「あのね。私、そんなに上手くないよ」
分かんないけど、頷いてるのが見えた。
もうダメだ。
仕方が無いかと『花蓮』を頭から弾いてみる。
今度は駆郎君が音楽番組で弾いてるバージョン手抜き。
いや、だって、あんな速弾きしたら指攣るし。
音外すし。
下手したら弦飛ばす。
取り敢えず、一度弾けば納得するだろうと弾き終われば、またスティックを叩く。
多分、もう一回って、奴なんだろうけどね。
「私、そんなに指も腕も動かないの」
「希更は腕に爆弾抱えてんだ。無理させんな」
そこで響いた、舞人君の言葉に、ほっとする。
戻ってくるの、遅い。
って云うか、いきなり他所様のお家で放置は止めて!
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