泡沫の欠片

ちーすけ

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波状攻撃爆散

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もう一件インタビュー終わらせて、子供達閉じ込めておくのは可哀想だの名目の元、置き去りにされた私。
正確に言うと、この後撮影があって動けない清牙に、強制付き合いさせられている私。
その顔で撮影するのかよって突込みは、もう諦めたんですがね。
この糞暑い中、抱き着いてくる清牙の体温も熱い。
まあ、撮影もあるので、服を着ているので、まだ色々が、マシだけど。
「清牙ちゃん、ご機嫌斜めですねぇ」
「うるせぇ」
なんか弱っているって云うかさぁ。
「心配?」
駆郎君は、清牙唯一の、一番古くからの、同年代のお友達、だもんねぇ。
駆郎君の色々がやっぱ気になりつつ、だけど、余計な事を言うのもどうかと、関係構築過去未来で、色々思う事はあるのよね。
清牙って、大雑把なように見えて、結構細かくて面倒臭かったり、器用な筈なのに、色々すっぽ抜けて天然爆走する事よくあるし。
何より、大切な仲間。
大切にしたい守りたい。
それと同時に、同じ男としてのメンツ領分がある訳で、立ち入る領域の境界線はきっちりしていて、絶対に踏み込んではいけない部分もある。
言いたいけど言ってもどうしようもない。
いや、言えない…ご同様な過去が、あったりもして。
見て待つしか出来ない今が、もどかしくて、苦しくて?
「甘酸っぱいねぇ」
「うるせぇ」
「それ、もう5年は前に終わらせていようよ」
お友達関係の境界線の確認事項は。
お前ら付き合い長い上に、学校行ってないから、普通の男の友情よりさらに濃密だろうが。
過去は勿論、現在も進行形で。
「うるせぇ」
清牙も今更、こんな事でと云う思いも確かにあって、本当に、もどかしいんだよね。
自分の事じゃないから、猶更。
なんかそれが、ちょっと楽しい。
「それより」
珍しく言葉を濁す清牙。
らしくない。
らしくない清牙を引き出す希更もまた、今の清牙に新たに加えられた刺激だ。
自分に女を押し付けない、只の妹分。
それも、女の一面のある美凉華とはまた別の、幼過ぎる自由過ぎる希更の言動は、清牙の目には、どれほど危な気に映っているのか?
それを見守るしかない…代わりにぶち壊したい気持ちを抑え込んで、希更の為に何が出来るのかを考えて動く清牙は、基本優しいし、間違いなく大人なんだろう。
普段の言動はともかく。
そして、大器、ではあるんだよね。
一応は。
どうしようもなく我慢出来なくなったら、犯罪だろうが周りに被害甚大だろうが大暴れして、希更に泣かれてしょげるか、開き直って更に暴れるか…。
一部限定ではあるし、なんか、穴だらけではあるけれど、清牙は清牙なりに、今、色々を我慢している。
手を出し過ぎないように、やり過ぎないように、希更が希更自身で気付いてやらなきゃいけない事を、もどかしく苛立ちながら、大人しく見守っているのだ。
珍しく。
駆郎君の事と同時進行で。
どっちもこっちも手を出せずに複雑に絡んできているから、猶更見守るしか出来なくて。
「もどかしくて、見てらんないのを我慢するのも、大人の仕事。それを見守られる側も見守る側も、お互いで経験して、大人になっていくのだよ」
「うるせぇ。子供扱いすんな」
私からすれば、玲央君も清牙も、あんま変わんない気がする…?
年の差幾つ?
2・3歳とかなら、もう、些事じゃね?
「清牙って、玲央君と、お友達いけるんじゃね?」
「いらんわ」
まあ、人生経験がちょっと違い過ぎて、アレなのか?
精神年齢は清牙の方が低そうだけど、実経験が、清牙もかなり異常に分類されちゃう、生まれながらの派手人間な、業界人だし?
「大丈夫。自分が信じられなくても、自分を預けられる相手の人間性は信じろ。それでダメだったのなら自己責任。自分の決めた事の結果なら、諦めもつくでしょうが」
「なんの心配もしてねぇよ。ただ、面倒臭ぇ」
「はいはい」
今までにない経験降り積もって、堪え性のない短気な清牙ちゃんは落ち着かない模様。
「ホント、馬鹿」
何に、誰に、何を、言いたいのかね?
まあ、全部に、自分にも…と、言いたいんだろうけど。
「ねぇ、イチャついてるとこ悪いんだけど、本当に出来てないの?」
「何しに戻ってきやがった?」
突然掛かった声にも、清牙は動じない。
動物的何かで感じ取っていた模様。
「玲央君1人で戻ってきちゃったの?」
私はビビりましたけど?
何故に1人?
「希更に、あんま、聞かせたくないんでしょ?」
やっぱ、普通に無い経験は、人を大人にするか、堕落させる。
賢い子は基本、無駄に余計な学習して、大人にさせてしまうの、典型なんだろうけど。
それだけじゃなく、数々の選択肢で、玲央君は逃げるのではなく立ち向かって成長することを選んできた。
だからこその、今がある。
生まれ持って金持ちで、甘やかされた、業界トップの親にへいこらする大人達をも、自分も同じ気分立ち位置で、勘違いのまま同じように振舞う、馬鹿達とは全く違う。
考え悩み、そして、同じ道を選んだ。
真っ当に。
真っ向から。
覚悟を持って。
その他以上の問題を、抱えると分かっていながら。
だから、清牙も今、当たり前に受け止めてしまった。
いつか、自分達と競り合うかもしれない、相手として。
でも今は、まだ、燻ぶってる、藻掻いてる子供として。
出会いも成長。
世界が広がって、良い傾向。
「心配しなくても、希更は他所のステージ、キラキラして見てるから大丈夫」
まあ、わざとらしく余計な一言が多いけど。
「俺のが一番巧いってのに」
「それはどうかな?」
「糞ガキ、何が言いたい?」
「希更、ウチで、預かろうか? 心配しなくても、慧士もついてくるよ」
私のストーカーの問題、それに加えて、駆郎君の事もある。
それ以外でも、正直ごたついている。
避けられる、少しでも遠ざけて、傷が軽く出来る方法があるならって、言葉。
敏いんだろうねぇ。
そして、この子も優しい。
だが、勘違い甚だしい。
優し過ぎて、空回っとるし。
「なんで、男共は、希更を甘やかしたがるのかね?」
「見るからに、幼いじゃん。その上有能。恩は売っとかないと」
そう云う嘘臭いあざとさは、自分を守る武器なのかな?
いつも、本心晒して生きていくには厳しい環境が、あったからなんだろうけどね。
それがあるから、一度庇護しようと思った者には過剰になっているのかもしれない。
多分、加減が分からないのだ。
だから、全力で何もかもから守ろうとする。
そして、そうして欲しかった、自分を重ねて…いるのかもしれない。
実際そうされていれば、凄い反発して大喧嘩になっただろうに…とも、思うのだ。
分かっている筈なのに、そう思ってしまう自分もまた、カッコ悪くて。
だから複雑。
でも止められない。
後悔したくないから。
守りたいものに、守れるものに、自分の出来る事は惜しまない。
そう云うところは清牙によく似ている。
賢さが段違いだけど。
「誰もが通る道に、周りが過剰反応し過ぎるのはどうかとしか思えないんだがね」
初恋失恋なんてのは、当たり前に通る道です。
「そっちもあるけど、それ切っ掛けに、今、大破裂しちゃったら、どうすんの? 清牙さん、元本担当だよね? アレンジは駆郎だろ? 僕だって駆郎と同じに出来るなんて、暴言は吐くつもりはないよ。でも、一応こっちならメンバーいるし、ウチなら最悪、父さんもいる」
清牙1人で被るよりはマシ。
舞人君はいても、これまでの駆郎君の立場の大きさには取って代われない。
何より、清牙と舞人君が絡む中、駆郎君だけ外すなんてこともし難い。
当然、音楽関連なので、私で何とかするのは無理。
色々、考えて、色々押さえ込んで、自分より弱い幼い、だけど、そこにある才能に敬意を示す。
守るべきものは守りたい。
自分に出来る精一杯で。
自分のギリギリ侵しても。
自分の事なら絶対に、親になんか頼らない。
だけど…、しなかった事での後悔なんて、最高にカッコ悪い。
それぐらいなら…。
「男の子だねぇ」
「これでも、男のつもりなんですよ」
そこにかかる、またもや突然の健吾君の言葉に、清牙が溜息。
「なんか問題か?」
「闖入者の排除は周知しました。馬鹿共が、Jr言って騒いでる火消しが面倒なくらいで、大きな問題は今のところありません」
「それはまあ、いつもの事だからほっとけば?」
呆れたような悟ったような玲央君の大人びた笑顔が、ちょっと寂しい。
「清牙も駆郎も玲央も慧士も、一般的ではありません。あなた達には有り得なかった、一通りの普通を経験出来るうちに経験しておくのが、今の希更には必要です。あなた達に無い経験が、希更の最大の武器となる。余計な事はしなくて宜しい」
そう、なんだよね。
この先希更に、「普通」は縁遠くなる可能性が高い。
だからこそ、今出来る普通は当たり前に経験しとくべきであり…。
健吾君は基本清牙に甘いけど、絶対的に必要な事は外さない。
その、希更を見守るしか出来ないもどかしさって成長を、清牙からも外せないから。
皆まだまだ若い。
成長する要素は限りなく大きい。
それにしても、音楽は奥深い。
いや、どんな世界も、上を目指せば、キリがない深さになるんだけどさ。
「特殊環境に育つとエロになる?」
「駆郎は?」
ですよねぇ。
持って生まれた性格と云うか気質というか?
「お前らに預けるのは最終手段だ。お前らの親こそ、変人の極みだろうが」
「それ、清牙が言っちゃう?」
「棚上げは、清牙の得意技です」
「うるせぇ」
自覚はあるのよね。
ただ、人に言われるのが嫌なだけで。
「楓さんは、動じないね?」
嫌そうな、それでいて揶揄うような責めるような複雑な玲央君の顔。
自分の中で感情が蠢いて、どうにもならない?
普通なら、心配する。
親ならもっと?
自分と重なる。
小言を、短く鋭すぎる切っ先を、飄々と云う、親の姿にも。
でもそれは、大人を取り繕ってるからであって、本心はマグマ噴出してる筈、なんだけどね。
それを覚らせないのも、大人か。
カッコイイ。
そんな色々に今、玲央君もまた、引き摺られてるのかね?
玲央君なんて表面取り繕いまくって、内心見せるの、絶対嫌がるタイプだろうに。
それさえも崩れる現状か。
流石、才能のぶつかり合いは、相乗効果が怖い。
「誰もが通る道、そこで潰れようが迷走しようが、私がどうこう言って決められるもんでもないでしょうが。人間なるようにしか、ならないんだって」
「希更が曲、作れなくなっても?」
「そうだね」
その言葉に、玲央君の笑顔がピリつく。
だけど、それをうざったそうに、清牙が顔を上げて首を鳴らした。
「音楽有り気の俺らと、そこに心構え無しに嵌まった希更は違う。専門違う楓はもっと違う。話が噛み合う要素が、何一つねぇ」
まあ、その通りなんだよね。
この話は平行線だ。
私の中には、音楽を選ばない希更も普通にいるのだから。
音楽しかなくて、それを前提でしか世界観測れない人間である清牙と玲央君には、音楽の才能開花させたらしい希更の存在って刺激が、果てしなく大きくて、そこに対する価値が際限無い。
音楽の無い希更は、清牙と玲央君の中ではもう、あり得ないんだろう。
だから、音楽の無い希更と生きてきた私では、いつまでも交わることがない話になってしまう。
「何より、希更の可能性が、音楽だけにあると思うなよ」
ふふんと鼻を鳴らすドヤ顔の清牙。
お前はなぜに、そんなに尊大なのか?
まあ、清牙だから、だけど。
「戻ってきた。まだ、続けるか?」
その清牙の言葉に、玲央君は肩を竦め、ガヤガヤと戻ってきた希更を待ち構え抱き着く。
「迷子になった」
「嘘つけ」
相方の速攻な切り返しに、引きはがす腕にも、玲央君は笑顔。
「嘘なの? いないのも全然気が付かなかったけど」
希更?
お前、結構薄情だな?
素直過ぎる希更の言葉に、流石の玲央君も苦笑い。
「イチャつくのに邪魔だって、清牙さんに虐められてた」
「セイちゃんは虐めないよ。思いついたままに文句は言うけど」
虐めと文句の境界線、世の皆様に説明出来ますか?
どっちも理不尽且つ、対した理由もないのに、ですよ?
「それ以上に楓さんが厳しい」
「カエちゃん厳しいよ。私もかなり、キツイって言われるし」
よしよしするけど、慰めはしないのね。
「取り合えず、もうすぐケータリングが届く。昼を食ってしまえ」
健吾君が社長なのに、ご飯の用意ばかりしている気がする不思議。
誰の所為とは言わないけど。
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