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白い魔力5
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思わずぽかんとしたマルガレーテに、王妃様は当たり前のような顔をして言った。
「そう、とんでもなく。そんな呪いもあるんだよ、この国には。十年ものとかね」
「十年……もの……?」
呪いって、お酒みたいに熟成するの……? と思ったら。
「そう。つまりは十年も呪い続けた呪い。たまにね、聞くんだよね。昔から執念深いやつはいるんだね。まあさすがにそこまでいかなくても、三年ものとか一年ものとかなら普通にゴロゴロしてるから」
「ごろごろ……」
この国には、自分の知らないことが山ほどあるのだとマルガレーテは思った。
「レイテにはそんな呪いなんてなかったから、あなたはここまで長生き出来たんだろう。悲しいことにこの国では、悪質な魔術を操る魔術師がほんと多くてねえ」
そう言って王妃様は少しだけ悲しそうな顔をした。
「呪いというのも魔術の一種なのですか」
「そう。そしてこの国で白い魔力の子が早世なのは、呪いや魔術がかけられている人に触れるたびにあの勢いで魔力を吸い取られてしまうからなんじゃないかと思う。魔術師からいきなり魔力を無くしたら、大抵は枯れたようになって死んでしまう。最初から魔力が無い人たちは生きていられるというのにね」
魔力が無くなると死んでしまう。
そんなことも知らずにきたマルガレーテだった。
というより、私の母国、何も知らなさすぎでは?
私、自分の死因もわからないうちに危うく死ぬところだったということよね……。
ただ得体の知れない怖いものとして拒否し続けてきた母国と魔術師が普通に認められているルトリアでは、こんなにも世界が違って見えるのかと、マルガレーテは驚いていた。
「ま、その指輪さえしていたら大丈夫なはずだから。その指輪は一定の少ない魔力しか流れ出さないようにしてくれる。しかし最初から白の魔力がそういうものだと知っていたら、沢山の白い魔力の子たちを救えたのにね……そして成長したその子たちに救われる人たちもいただろうに」
王妃様は悲しげに、上を向いてやれやれという仕草をして言ったのだった。
「私、全く自覚がありませんでした。まさかそんなことが出来るなんて」
「だろうね。だから今まで魔力が白の子たちも、何の自覚もなくただ魔力を吸われるばかりだったんだろう。今回はたまたま色のわかる私が魔力を判定しながらの時だったからわかったことで、普通の魔術師が単に触っただけではそこまでわからなかったと思う。まあ、いろいろな偶然が重なって今回は良い結果になったということだね」
「それはよかったです」
しかし、ということは一歩間違えていたら、マルガレーテは死ぬところだったのは間違いないようだった。
マルガレーテはとても幸運だったのだとありがたく思った。
「じゃあ、改めてあなたの魔力を見せてくれる? 今度は慎重にするから」
そう言って、王妃様はそっとマルガレーテの手をとると、しばらくしげしげと眺めていたのだった。そして、
「へええ……本当に白いわ。真っ白なのね。ふうん、綺麗ねえ……」
などとブツブツ言っていた。
マルガレーテには全く何も見えないので、これも魔力の性質の差なのだろうと思うことにした。
そうしてその後は王妃様が一人で、とにかくマルガレーテの部屋が質素過ぎるとハンナに文句を言い、うちの嫁に相応しい部屋を用意しなければならないと力説し、そして最後に、
「あ、言い忘れていたけどその指輪、つけている本人以外は外せないようになっているから! 無理矢理取られる心配はしなくて大丈夫よ~」
と言ってから帰っていった。
マルガレーテは驚いて指輪を回したり、ちょっとだけ引き抜いたりしてみたのだが、自分が触る分にはどうやっても普通の指輪にしか見えない。
でもきっと何かしらの魔術がかかっているのだろう。安全装置付きだと思うとその王妃様の配慮がとてもありがたかった。
そんなことをしているうちに、なんだかいろいろありすぎて疲れたマルガレーテはまたすやすやと眠ったのだった。
幸いマルガレーテは、一週間ほどのんびりベッドの上で過ごしただけで、また普通に生活が出来るようになった。
しかしその間の王妃様や侍女たちの甘やかし方が尋常ではなく。
あれ食べろ、これ食べろと常に魔力の補給に良いという食べ物を食べさせられてはひたすらベッドに縛り付けられた。
中にはとても高価そうな食べ物もあって、申し訳なくてそんなものを食べなくてもそのうち回復するだろうとマルガレーテは遠慮したのだけれど、侍女のリズたちが、
「もともと王妃さまのために常に仕入れていたものばかりです。王妃様がお元気になられたので、その分をぜひマルガレーテ様にと王妃様がおっしゃっていますので」
と言われてしまうと、食べないわけにもいかないのだった。
しかしこれは太る。絶対に太ると確信しながら食べていたのだが、なぜか体型が変わった気配もなく、ただめきめきと体に魔力なのか体力なのか、元気が湧いてくるのがただただすごいと感心してしまった。
そんなマルガレーテの回復を、王妃様がそれはそれは喜んでくれて。
「マルガレーテ、元気になってよかったな! これでわがバカ息子にも怒られなくてすむ!」
はっはっは。そう言って豪快に笑う王妃様にも、マルガレーテは少しずつ親しみを感じ始めていた。
「そう、とんでもなく。そんな呪いもあるんだよ、この国には。十年ものとかね」
「十年……もの……?」
呪いって、お酒みたいに熟成するの……? と思ったら。
「そう。つまりは十年も呪い続けた呪い。たまにね、聞くんだよね。昔から執念深いやつはいるんだね。まあさすがにそこまでいかなくても、三年ものとか一年ものとかなら普通にゴロゴロしてるから」
「ごろごろ……」
この国には、自分の知らないことが山ほどあるのだとマルガレーテは思った。
「レイテにはそんな呪いなんてなかったから、あなたはここまで長生き出来たんだろう。悲しいことにこの国では、悪質な魔術を操る魔術師がほんと多くてねえ」
そう言って王妃様は少しだけ悲しそうな顔をした。
「呪いというのも魔術の一種なのですか」
「そう。そしてこの国で白い魔力の子が早世なのは、呪いや魔術がかけられている人に触れるたびにあの勢いで魔力を吸い取られてしまうからなんじゃないかと思う。魔術師からいきなり魔力を無くしたら、大抵は枯れたようになって死んでしまう。最初から魔力が無い人たちは生きていられるというのにね」
魔力が無くなると死んでしまう。
そんなことも知らずにきたマルガレーテだった。
というより、私の母国、何も知らなさすぎでは?
私、自分の死因もわからないうちに危うく死ぬところだったということよね……。
ただ得体の知れない怖いものとして拒否し続けてきた母国と魔術師が普通に認められているルトリアでは、こんなにも世界が違って見えるのかと、マルガレーテは驚いていた。
「ま、その指輪さえしていたら大丈夫なはずだから。その指輪は一定の少ない魔力しか流れ出さないようにしてくれる。しかし最初から白の魔力がそういうものだと知っていたら、沢山の白い魔力の子たちを救えたのにね……そして成長したその子たちに救われる人たちもいただろうに」
王妃様は悲しげに、上を向いてやれやれという仕草をして言ったのだった。
「私、全く自覚がありませんでした。まさかそんなことが出来るなんて」
「だろうね。だから今まで魔力が白の子たちも、何の自覚もなくただ魔力を吸われるばかりだったんだろう。今回はたまたま色のわかる私が魔力を判定しながらの時だったからわかったことで、普通の魔術師が単に触っただけではそこまでわからなかったと思う。まあ、いろいろな偶然が重なって今回は良い結果になったということだね」
「それはよかったです」
しかし、ということは一歩間違えていたら、マルガレーテは死ぬところだったのは間違いないようだった。
マルガレーテはとても幸運だったのだとありがたく思った。
「じゃあ、改めてあなたの魔力を見せてくれる? 今度は慎重にするから」
そう言って、王妃様はそっとマルガレーテの手をとると、しばらくしげしげと眺めていたのだった。そして、
「へええ……本当に白いわ。真っ白なのね。ふうん、綺麗ねえ……」
などとブツブツ言っていた。
マルガレーテには全く何も見えないので、これも魔力の性質の差なのだろうと思うことにした。
そうしてその後は王妃様が一人で、とにかくマルガレーテの部屋が質素過ぎるとハンナに文句を言い、うちの嫁に相応しい部屋を用意しなければならないと力説し、そして最後に、
「あ、言い忘れていたけどその指輪、つけている本人以外は外せないようになっているから! 無理矢理取られる心配はしなくて大丈夫よ~」
と言ってから帰っていった。
マルガレーテは驚いて指輪を回したり、ちょっとだけ引き抜いたりしてみたのだが、自分が触る分にはどうやっても普通の指輪にしか見えない。
でもきっと何かしらの魔術がかかっているのだろう。安全装置付きだと思うとその王妃様の配慮がとてもありがたかった。
そんなことをしているうちに、なんだかいろいろありすぎて疲れたマルガレーテはまたすやすやと眠ったのだった。
幸いマルガレーテは、一週間ほどのんびりベッドの上で過ごしただけで、また普通に生活が出来るようになった。
しかしその間の王妃様や侍女たちの甘やかし方が尋常ではなく。
あれ食べろ、これ食べろと常に魔力の補給に良いという食べ物を食べさせられてはひたすらベッドに縛り付けられた。
中にはとても高価そうな食べ物もあって、申し訳なくてそんなものを食べなくてもそのうち回復するだろうとマルガレーテは遠慮したのだけれど、侍女のリズたちが、
「もともと王妃さまのために常に仕入れていたものばかりです。王妃様がお元気になられたので、その分をぜひマルガレーテ様にと王妃様がおっしゃっていますので」
と言われてしまうと、食べないわけにもいかないのだった。
しかしこれは太る。絶対に太ると確信しながら食べていたのだが、なぜか体型が変わった気配もなく、ただめきめきと体に魔力なのか体力なのか、元気が湧いてくるのがただただすごいと感心してしまった。
そんなマルガレーテの回復を、王妃様がそれはそれは喜んでくれて。
「マルガレーテ、元気になってよかったな! これでわがバカ息子にも怒られなくてすむ!」
はっはっは。そう言って豪快に笑う王妃様にも、マルガレーテは少しずつ親しみを感じ始めていた。
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