二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

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呪いという魔術2

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 その驚きは発言した魔術師以外の人全員の驚きだった。

「わおーーん……」

 クロが悲しげに鳴いた。まるで肯定するように。

「ふむ。自覚があるのですね」

 そう言ってイグナーツ先生がクロの前にしゃがみ込む。

 そして失礼、と断ってからクロに手をかざして状態を感じているようだ。

「ワウン」

 クロがなんだか心配そうにイグナーツ先生を見つめていた。
 その場の全員の視線がクロとイグナーツ先生に集まって固唾をのんで見守っていた。

「これは……王妃様にかかっていた魔術と同じくらいにやっかいな魔術のようです。私の力でも底が見えません」

 しばらくしてイグナーツ先生が言ったのは、そんな思いも寄らない深刻な事実だった。

「イグナーツ先生に太刀打ちできないほどの魔術がクロにかかっていると?」

 王妃様が信じられないと言った表情で言う。

「王妃様にかけられていた魔術もとても強力でした。前にも申し上げましたが、あれも何人もの魔術師が長い期間をかけて練り上げたたいへん悪質な魔術です。ですがこの魔術もおそらくは……私には同じくらいにはやっかいな魔術に見えます」

「私にかけられていたものも希に見る強力さだったと言っていたじゃないか。この世には希に見るような魔術がこんなにゴロゴロ転がっているものなのかい」

 王妃様はもはや呆れているようだった。

「なにしろここは王宮ですので」

 イグナーツ先生はしらっと答えた。

 マルガレーテは王宮というところはなんて怖いところなんだろうとぼんやりと思った。
 なぜぼんやりとしか思わなかったかというと、マルガレーテには「魔術」というものが今まで身近ではなかったので、「希に見る」「強力」な魔術というものがどれほどのものなのかピンとこなかったという理由である。

 ただ、周りの侍女たちが一様にはっとした表情の後に青くなっているということは、おそらくはとんでもなく大変なことなのだろうとは理解した。

「ではその魔術を消すことは」

「『消す』魔術はこの国には存在いたしませんので。魔術をかけた本人を特定し、その人物に解かせないとなりません」

「では反作用の魔術をかけるしかないのかやはり」
「しかしこの魔術がどのような魔術なのかの解析は難しいように思います。魔術の気配は強く感じるのですが、その魔術がこの犬にあまりにも馴染んでしまっていてほぼ同化しています。それに魔術自体も強力なので、解析して反作用の魔術を作り上げるとしても年単位の時間が必要でしょう。最悪は十年を超えるかも知れません」

「ということは十年ものレベルなのか、その魔術は」
「おそらく」

 そしてその場の全員が黙ってしまったのだった。

 まさかこの無邪気なワンコが、それほど深刻な魔術に冒されていたなんて。

 クロは、その言葉を理解したのか「クウン」とか細く鳴いた後はただしょんぼりしていた。

「どのような魔術なのかはわかるか」
 王妃様が聞くと。

「先ほども申し上げた通り、魔術がこの犬に完全に馴染んで同化しております。なのでどこまでが魔術でどこまでが本来の姿なのかはわかりません。おそらくは、標準レベルの魔術師では魔術にも気付かないだろうほどに完全に同化しているのです。私もこれほど見事な魔術を初めて見ました」

 イグナーツ先生は、事態の深刻さとはそぐわないちょっと嬉しそうな顔をした。
 おそらくは、その魔術は芸術品並みなのだ。きっと。

「ふむ。では膨大な時間と金がかかっているのだな」

「おそらくは」

「ではこのクロは、元は人間かもしれないか」

「それは考えておりませんでしたが、可能性はあるかと」

 そう言ってイグナーツ先生は再度手をクロにかざした。
 その美しい容姿には似合わない様子で、眉間にシワをよせてしばらくうんうんと唸っていた後に、言った。

「人間の気配はあまりしませんが、そうですね……全く無いともいえないかと」
「全く無いわけではないのか」
「はい。あるといえば、うっすらあるような気もします」
「元が犬だったらそれは全くないのだな?」
「おそらくは。残念ながら今まで犬をこれほど詳しく見たことはありませんので、断言はできません」

 考えてみれば、この一見美麗な若造は齢八十の経験豊富な、しかもこの国最大の公爵家に雇われているような魔術師である。
 きっと普段から様々に呪われている高貴な人たちを見るだけでてんてこ舞いなんだろうな、とマルガレーテは思った。
 魔術師という職業も大変なんだろう。この国では。

「ふむ。では本人に聞いてみるか」

 王妃様はそう言って、にやっと笑ったのだった。そしてクロに向かって唐突に聞いた。

「おまえ、もしやクラウスか」
「ワン!」

 完全に返事をするタイミングで、いかにもその通り! といった得意気な顔をしてクロが吠えた。尻尾を嬉しげにパタパタ振っている。ちぎれんばかりに振っている。ぶんぶんぶん。

「はあ?」

 その場の全員が、それこそ「はっ!?」という顔をして固まった。
 王妃様がクラウスと言ったら、それは今行方不明の第一王子のクラウス殿下のことだろう。そう、今行方不明の。
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