二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

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生誕祭の晩餐1

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 でも今、もしもマルガレーテが姿を見せるとマルガレーテに呪いが効いていないことがバレてしまうので、出ることは出来なかった。そして呪いにかかっているフリをしてしまうと、まずすぐに既成事実を作られてしまう恐れがあると言われたら、マルガレーテも絶対に離宮から出たくはないと思うのだ。

 だからマルガレーテは離宮の中で、最後の静かなクラウス様と王妃様との時間を満喫した。

 マルガレーテとクラウス様は常に寄り添い、沢山の会話をして、改めて仲を深めていった。
 王妃様はその様子を静かに見守っていた。
 使用人や侍女たちは、ひたすら微笑ましくあたたかく見つめていた。
 

 そうして王の生誕祭がやってきたのだった。

 王の生誕を祝うために全国の貴族が王宮に押し寄せていた。

 かつての王が貢ぎ物大好きだったらしく、その名残で今も各貴族たちが領地の特産品や珍しい交易品などを持って来るそうだ。

「今の王様も貢ぎ物がお好きなのですか」
 一度しか見たことのない王の顔をおぼろげに思い出しながら、マルガレーテが聞くと。

「いや? 特に貢ぎ物が好きというわけではないと思うね。でもまあ、あえて断ることもしないという。あの人、そういうところは面倒だからとあんまり慣例を変えないんだよねえ」

 王妃様は、うーんと考えながら教えてくれた。

「ワッフ」
『なのに第二王妃は作るんだな』

「まあ、生まれたのがお前一人だったからねえ。お前が難産で死にかけたからもう私は出産はこりごりだったし、でももっと跡継ぎの候補は欲しいんだろう。というか周りが五月蠅かったというか。で、ちょうどゼルマが男子を産んだから、まあいいかとか考えたんだろうな」

「王妃様はそれでいいのですか?」

 マルガレーテはあまりにさばさばしている王妃様の様子に思わず聞いてしまった。すると。

「もともと私も政略結婚であの人との間に恋愛感情なんてなかったし、あの王も初恋の人とは立場のせいで引き裂かれたりしていて可哀想な人ではあるんだよ。だからまあ、ちょっとくらい恋愛ごっこがしたいならさせてあげてもいいかなーって思ったんだよね。なんていうの? 仲いい腐れ縁の親友が楽しいんならよかったね、って。まあそんなこと思ったのも最初だけだったけれどね! あのやろう、約束破りやがって!」

 突然何かを思い出して怒り心頭な王妃様。
 どうやら王様は、何か王妃様を怒らせるようなことをしたらしかった。一体何の約束を破ったのだろう。聞かないけれど。
 
「ウッフ」
『昔から母上は父上に対してさばさばしすぎなんですよ。俺にはわからないな』

「まあ今だから言っちゃうけど、当時は私も他に好きな人がいるのに結婚したからねー。そーいう家に生まれてしまったんだからしょうがない。でもあの人も根はいい人なんだよ。だから決して嫌いじゃないよ」

「ワフウ」
『まあそんな気はしていましたね。いろいろと』

「結局は良かったと思っているよ。お前みたいに手間はかかるけど可愛い息子にも恵まれたし、実家の権力は維持できて父上も私も自由にできるし、なんだかんだ楽しい人生だ」

 そう言う王妃様の笑顔は晴れやかだった。

「ワオーーーン!」
『俺は! そんなのは嫌だ! 俺は番を大事にするんだ!』

「うるさい。建物の中で遠吠えはやめてくれ。ほんとに誰に似たんだその性格」
 
「まあ……クラウス様、嬉しいです。ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いします」
 
「ワオォーーーーーン!!」
『マルガレーテのためにも!! 俺はやるぜやるぜ!!』
 
「だからうるさいって! バカ息子!」

 そんな語らいも楽しい離宮での最後のひとときとなった。
 


 生誕祭の最初の大きな行事は、夜に大きなホールでの貴族たちとの華やかな晩餐会である。
 そしてその後は夜通しのダンスパーティー。

 晩餐会の会場の正面、一段高いところには横に長く王の家族の席がしつらえられていた。
 その席に向かったゼルマ第二王妃が突然大きな声で叱責を始めたので、先に席についていた貴族たちは何事かと壇上を見上げた。

「どういうことなの! 私の席はあちらでしょう! こんな無礼な間違いは許しませんよ! そなた、まさか私の顔を知らぬのか!」

 ゼルマ第二王妃が、王の隣、王の席の次に豪華な王妃の席に着くことをやんわりと拒否されて怒ったらしい。

 貴族たちがこぞって注目していたが、第二王妃に止まる気配はなかった。

「しかし、私はこの席と聞いて……」
「お前は首だ! よもやこの私に向かって口答えなど――」

 その時。

「おやおや、五月蠅いのう。陛下がもうすぐいらっしゃるのだから、も少し静かにできぬものかな」

「なにっ!?――――!!!」

 頭に血が上っていたらしいゼルマ第二王妃は、聞こえた声の方に怒りの形相で振り向き、そしてそのまま固まった。

 もちろんそこに悠然と現れたのはイリーネ第一王妃だった。
 今日のイリーネ王妃は絢爛豪華な正装に身を包み、王妃にのみ与えられる勲章とマントを身につけ、そして煌めく王妃の冠を頭に載せていた。

 それは、真に正しい「王妃」の姿であった。恐らくは、ゼルマ第二王妃が手に入れたくて仕方がなかったもの。

 ゼルマ第二王妃は、マルガレーテから見ても驚くほど目をむいてイリーネ王妃を見つめていた。

 しかしイリーネ王妃はそんな第二王妃の様子には歯牙にもかけず、余裕の笑顔で、

「ゼルマ、久しいね。今日も元気そうだな。いいことだ」

 そう言った後、そのままスタスタと歩いてどっかりと王妃の席に座ったのだった。
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