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生誕祭の晩餐4
しおりを挟む「父上っ!! その男が兄上だという証拠はありません! 偽物に違いありません! よからぬ魔術師が犬を兄上に似せて見せているかもしれないのです!」
ランベルト王子が全ての空気を無視して叫んだ。
「そうですわ、陛下。まずはクラウス様かどうかきちんと調査する必要がありますわ。陛下の跡継ぎを名乗る偽物だったら、大変な問題です」
ゼルマ第二王妃も賛同する。
「そうだ父上、そこの兄上におかしな魔術がかかっていないかどうか、このフローラに見てもらいましょう。フローラのような本当の聖女ならば、きっと人を欺くような魔術は見事に見抜くことでしょう」
「まあランベルト様……。わかりました。私、ランベルト様のご期待に添えるよう一生懸命頑張ります!」
「まあさすが我が息子、名案です。陛下私からもお願いしますわ。聖女ならばきっと正しい判定をしてくれるでしょう」
じりっとランベルト王子とフローラ妃がクラウス様に近づいた。
しかし。
「まさか私が自分の息子を見間違えると? そう言うのか?」
王妃様がそう言ったことで、全ての人の足が止まった。
「もちろん……そんなことはございません。しかし、他の人による確認もあったほうが、この場の人間全員が気持ちよく兄上を迎えられると思ったのです」
ランベルト王子がそれでも食い下がる。
「私が息子だと言っているのに、まさか疑われるとはな。なんと悲しいことよのう。ねえ、陛下」
「うむ。王妃が言っているのだから間違いないだろう」
王が即答したことに、マルガレーテは内心驚いていた。
王様、ちょっと王妃様に対して盲目過ぎるのでは……?
なんだろう、その信頼がすごい。
「しかし……」
ランベルト王子がそれでも食い下がろうとして、しかし良い案が浮かばなかったらしい。
そんなランベルト王子を見た王様は、クラウス様に向かって唐突に言った。
「クラウス、山」
「川」
「空は?」
「飛ぶもの」
「地は?」
「駆けるもの」
「うむ、余の息子だな。クラウスに間違いない」
「なんですかそれは」
ランベルト王子が思わず全く解せないという顔で呟いたのだった。
しかし王がはっきりと断言したことで、クラウス様は本物と認められたのだった。
「ではクラウス、その格好ではこのめでたい席には相応しくない。もう少しまともな服を着ておいで」
王妃様のその言葉で、クラウス様は退場して、きちんと用意された服に着替えて再登場する予定だった。
その予定だったのだが。
そこに、「聖女フローラ」が、
「まあ、本当にクラウス様なのですね……! お帰りなさいませ! 私はランベルト様の妻でフローラと申します。これからぜひ仲良くしてくださいね……!」
そう言ってクラウス様に近づき、クラウス様の手を握って魔術を流し込もうとしたのだった。
クラウス様は、とっさにフローラの手を拒否して、
「もちろんです。ご結婚おめでとうございます」とだけ言った。
なにしろフローラが黒魔術師だと知っているので、瞬時に危険だと判断したのだ。
同じく危険を感じたマルガレーテは、クラウス様のそばに行って寄り添った。
フローラの手の周りで、黒い魔術が行き場をなくしてぐるぐると回っているのが見えた。
そしてその魔術が、突然行き場を求めてフローラに襲いかかったのだった。
「きゃああああ!」
人を呪わば穴二つ。黒い魔術はコントロールに失敗すると、その魔術をかけた本人に襲いかかる。
だからマルガレーテはイグナーツ先生から、口を酸っぱくして人を呪うような魔術は危険だから一切扱うなと言われていた。
今回フローラは慌てていたようだ。
随分強力な魔術を急いで作ってかけようとしたのだろう。もしかしたら焦りのあまり、思ったよりも強力になってしまったのかもしれない。
その上きっと、今までは可憐な女性で聖女でもある彼女のことを、そこまできっぱりと拒否して触れないという人もいなかったのだろう。
その結果、彼女は激しく動揺したようだった。
そしてとうとう、魔術のコントロールを誤ったのだ。
フローラは、クラウス様にかけようとした魔術を自らかぶることになった。
フローラだった女性は、みるみる真っ黒な犬に姿を変えていく。
「フローラ……?」
ランベルト王子が動揺して妻の名を呼んだまま固まった。
「キャン!」
黒い犬の姿になったフローラが、悲痛な鳴き声を上げた。
「……っ! クラウス兄上がフローラに魔術をかけた!」
ランベルト王子がやけくそな叫びを上げた。
「ランベルト、クラウスにはそんな魔術は使えないのはお前も知っているだろう」
すかさず王様が訂正する。
「ではそこのマルガレーテがかけたんだ! レイテの魔女め!」
「彼女の魔力の判定の時にお前もいただろう。彼女は白だ」
「では何かの隠蔽工作を――」
「なにか? 私の息子と嫁に言いがかりか? ん? もちろん証拠はあるんだろうね?」
その王妃様の言葉で、ランベルト王子も我に返ったようだ。
さすがに王の前で兄王子と隣国の王女を愚弄したことに気がついたらしい。
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