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第一部 魔界専属料理人
第4話 料理の光と影
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翌日、陽人は広間の隅に設けられた小さな試食ブースで腕を振るっていた。商会の男・クラウドが持ち込んだ調味料や乾物、珍しい野菜などを色々試しては、一品一品を完成させていく。
魔王ゼファーも幹部たちも、早朝からソワソワと待ち構えている。いつもの侵略会議を開くはずが、結局は陽人の料理試食会へと流れてしまうのだ。
「魔王様、この香りの強い葉を使ってみました」
陽人が差し出したのは、爽やかな香りを放つハーブと酸味のある調味料を組み合わせたソース。それを軽く火を通した肉にかけ、ハーブステーキのように仕上げた。
ゼファーがナイフとフォークを手に取り、そっと切り分けて口に運ぶ。一瞬の沈黙の後、彼の目が大きく見開かれた。
「……ほう。肉の甘みを引き出すこの酸味、そして鼻に抜ける爽快感……」
魔王が珍しく具体的に感想を口にするのを見て、幹部たちも興味津々に皿へと手を伸ばす。口々に感嘆の声をあげ、あっという間に料理がなくなっていく。
陽人は安堵の笑みを浮かべながらも、どこか申し訳なさを感じていた。本来なら、この場では侵略の進捗や兵力配置といった話し合いが行われるはず。それなのに、自分が作る料理のせいで、魔王軍はずいぶんと平和的になってしまっている。
(これでいいのか……いや、いいに決まってる。侵略を止められるなら万々歳だ)
そう自問自答しながら、陽人は黙々と料理を作り続ける。魔王軍が丸くなっていくのは、ある意味で人間世界にとっても好都合なのだ。
「陽人、次はあの赤い実を使った汁物はどうだ? 先日少し味見したが、なかなかの甘みがあったぞ」
四天王の一人とおぼしき魔族が、興奮を隠さずに提案してくる。元々は厳めしい表情で睨みを利かせるタイプだったようだが、最近は料理談義に花を咲かせてばかりだ。
「わかりました。ちょっと試してみますね。……ん? 確かあれは、煮込むと酸味が強くなるってクラウドさんが言ってたっけ……」
陽人はメモ帳に新しい組み合わせのアイデアを書き留める。いつの間にか、彼のメモには異世界食材の特徴や調理時の注意点がびっしりと書き込まれていた。
「この“食の新時代”、思った以上に面白いな……」
魔王ゼファーの低い声が聞こえる。満足げに料理を平らげながら、どこか愉快そうに笑っている。時折思い出したように、侵略計画の書類を眺めては「ふむ」と唸るが、すぐに陽人の料理へと意識が戻っていく。
そんな光景に、クラウドも苦笑いしながら肩をすくめる。
「おかげでこちらも商売がやりやすい。まさか魔王領で人間の商品をこんなに快く受け入れてもらえるとはねぇ」
陽人は内心、少しだけ罪悪感を感じていた。自分が料理を作ることが、魔王軍の侵略意欲を削いでいる。戦争が回避できるなら喜ばしいはずなのに、このままではどこかで摩擦が起きそうな気もしてならない。
だが、今はまだその予感がぼんやりとよぎる程度だった。陽人自身も、この異世界での生活に少しずつ慣れ、料理を楽しみ始めている。
――しかし、陽人が抱いた不安は当たることになる。魔王軍の一部には、食に目覚めた幹部たちを快く思わない者たちが少なからず存在したからだ。
やがて、料理への熱狂に水を差すように、魔王城の地下深くで不穏な動きが始まろうとしていた。
魔王ゼファーも幹部たちも、早朝からソワソワと待ち構えている。いつもの侵略会議を開くはずが、結局は陽人の料理試食会へと流れてしまうのだ。
「魔王様、この香りの強い葉を使ってみました」
陽人が差し出したのは、爽やかな香りを放つハーブと酸味のある調味料を組み合わせたソース。それを軽く火を通した肉にかけ、ハーブステーキのように仕上げた。
ゼファーがナイフとフォークを手に取り、そっと切り分けて口に運ぶ。一瞬の沈黙の後、彼の目が大きく見開かれた。
「……ほう。肉の甘みを引き出すこの酸味、そして鼻に抜ける爽快感……」
魔王が珍しく具体的に感想を口にするのを見て、幹部たちも興味津々に皿へと手を伸ばす。口々に感嘆の声をあげ、あっという間に料理がなくなっていく。
陽人は安堵の笑みを浮かべながらも、どこか申し訳なさを感じていた。本来なら、この場では侵略の進捗や兵力配置といった話し合いが行われるはず。それなのに、自分が作る料理のせいで、魔王軍はずいぶんと平和的になってしまっている。
(これでいいのか……いや、いいに決まってる。侵略を止められるなら万々歳だ)
そう自問自答しながら、陽人は黙々と料理を作り続ける。魔王軍が丸くなっていくのは、ある意味で人間世界にとっても好都合なのだ。
「陽人、次はあの赤い実を使った汁物はどうだ? 先日少し味見したが、なかなかの甘みがあったぞ」
四天王の一人とおぼしき魔族が、興奮を隠さずに提案してくる。元々は厳めしい表情で睨みを利かせるタイプだったようだが、最近は料理談義に花を咲かせてばかりだ。
「わかりました。ちょっと試してみますね。……ん? 確かあれは、煮込むと酸味が強くなるってクラウドさんが言ってたっけ……」
陽人はメモ帳に新しい組み合わせのアイデアを書き留める。いつの間にか、彼のメモには異世界食材の特徴や調理時の注意点がびっしりと書き込まれていた。
「この“食の新時代”、思った以上に面白いな……」
魔王ゼファーの低い声が聞こえる。満足げに料理を平らげながら、どこか愉快そうに笑っている。時折思い出したように、侵略計画の書類を眺めては「ふむ」と唸るが、すぐに陽人の料理へと意識が戻っていく。
そんな光景に、クラウドも苦笑いしながら肩をすくめる。
「おかげでこちらも商売がやりやすい。まさか魔王領で人間の商品をこんなに快く受け入れてもらえるとはねぇ」
陽人は内心、少しだけ罪悪感を感じていた。自分が料理を作ることが、魔王軍の侵略意欲を削いでいる。戦争が回避できるなら喜ばしいはずなのに、このままではどこかで摩擦が起きそうな気もしてならない。
だが、今はまだその予感がぼんやりとよぎる程度だった。陽人自身も、この異世界での生活に少しずつ慣れ、料理を楽しみ始めている。
――しかし、陽人が抱いた不安は当たることになる。魔王軍の一部には、食に目覚めた幹部たちを快く思わない者たちが少なからず存在したからだ。
やがて、料理への熱狂に水を差すように、魔王城の地下深くで不穏な動きが始まろうとしていた。
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