俺の好きな娘が目を覚ましたらTS転生者だと言いだしたんだが、どうすればいいだろうか? 

気力♪

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TS転生者高岩小花と前世の人格浦部熱斗

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 それは、10年越しの告白だった。

 バイトで貯めた金で誘った遊園地でのデート。夜のパレードの終わり頃に、真剣に、心の底から放った言葉。

「あなたが好きです。俺と付き合ってください」

 その言葉を出すのには、一生分の勇気を使い切ったほどだった。

 だが、その言葉を聞いてすぐに、彼女は倒れた。

 そして、目を覚ましたときには彼女は男であった記憶に呑まれていた。

 それが、“春日明彦かすがあきひこ”と、“高岩小花たかいわこはな”の、告白の結末だった。


 ■□■

「生きてるか? 引きこもり」
「やめろや! 俺はまだ現状が全く飲み込めてないだけだよ!」

 そんな告白劇から3日、彼女は思いっきり引きこもった。

 それはそうだと、3日経って冷静になった今では思う。彼の視点からでは、死んだと思ったら知らない女の体になっていたのだから、混乱するのも当然だ。

 現在、彼女はすっぴんにスウェット。髪の毛の手入れはされていないようで寝癖がつきっぱなしだ。

 いつの間にやら、彼女は絵に描いたような引きこもり少女と化していた。

「そろそろお前の事説明して欲しいのだが。まだ無理そうか?」
「……ああ、わかったよ春日。俺は“浦部熱斗うらべねっと”。年齢……死んだのは、15の時。今年の、筈だった」
「なら、お前の家族とかと連絡は取れたのか?」
「……ダメだった」
「そうか、すまん。思いつきで変に期待持たせた」
「いいよ、春日が一応俺の事を考えてくれてるってことはわかってるから」
「……俺は告白を終わらせたい。故にとっとと未練をはらして欲しいのだよお前には」
「……いや人を悪霊扱いすんじゃねぇよ!」
「少なくとも小花にとっては間違いなく悪霊だと思うのだが」
「……うっ」

 自覚がある浦部はその言葉に息を詰まらせる。
 とはいえ、浦部自身も願ってこの状況にあるのではないとわかっているので、協力は惜しまないつもりではいる。

 なにせ、浦部の体は小花の、好きな子の体だ。やけっぱちになって傷つけられでもしたら俺は自分も浦部も許すことはできない。

 本当に、心の底から大好きなのだから。

「……なぁ春日」
「どうした? 浦部」
「おまえさ、俺に消えてほしいとか本気で言わないよな」
「……そうか?」
「ああ、そう感じる。お前の好きな子の体を乗っ取ってるんだぞ俺は。どうしてなんだよ?」

 その言葉に、どう答えればいいのかを悩む。

 それはぶっちゃけると格好をつけているだけなのだが、それを仮にも好きな子の顔をしている浦部の前で言うのはどうかと思うのだ。

「俺は、小花に誇れる男でありたいだけだ」

 考えた末に、出てきたのはそんな言葉だった。打算100%をオブラートに包むとこうなるのかと自分でも自分の口に感心した所で、突然に浦部は涙を流しだした。

「おい、どうした⁉︎」
「だって、それってやっぱり!」

「俺は、消えなきゃダメじゃねぇかよ!」

 そんな言葉と共に投げつけられる部屋の様々なもの。

 枕、筆箱、目覚まし時計、彫刻刀などなどだ。

「いや待て! 危ないものが混ざってる!」
「うっせぇ! 俺は、俺は!」


 そうして突然に怒り狂った浦部から逃れる。

 ドアの外にでた所でモノが投げられることはなくなったので、軽く声をかける。

「とりあえずアイス買ってくるが、クッキーアンドクリームでいいな?」

 その言葉に、返答はなかった。

 ■□■

 それから10分ほど。小花の好物であり、浦部の好物でもあるアイスクリームのクッキーアンドクリーム味を買って帰ってきた時、浦部は疲れて眠っていた。

「……やっぱ、寝てると小花だな。起きてても大して変わってないけど」

 そんな彼女を見て、悪戯心が湧いてくる。寝ている姿は、とっても無防備だ。


 なので、首裏にアイスを押し付けてみた。


「あひゃあ⁉︎」
「おはよう」
「おはよう……じゃねぇよ! なんで何食わぬ顔で人にそんな事できんだお前は⁉︎」
「アイスを買ってきた、許せ」
「それとこれとは話が別だ! 変な声出しちまったじゃねぇかよ!」
「可愛かったがな」
「拝むな!」

 そうして、もう立ち直っているその姿に安堵しながらアイスを手渡す。

 先ほどの様々な感情の爆発をもう忘れているかのように見えるふるまいには、ボロが多くあった。俺の顔は見ない、アイスはこぼす、挙句の果てに俺のスプーンで間違えて食べるなどなどだ。

 見ていて本当に面白いので、しばらくこのままでもいいのではないかとさえ思うほどだ。

 そんな目に気づいたのか、浦部はこちらをジト目でみる。

「最悪だなお前」
「いや、全方向に面白みを振りまいているのはお前なんだが」

 そうして浦部は頭を抱えて、「この子なんでこんな奴に好きになられてんだよ……振れよ……」と呟いていたが、それは少し違うと声を大にして言いたい。

 俺は、10年前に彼女にもう振られているのだから。

「え、ストーカーじゃん」
「ああ、俺はストーカーだ」
「認めやがった!? え、待って俺マジで貞操の機器だったりしない!?」
「いや、一流のストーカーとしてそんな小花の笑顔を脅かす行為を認めるわけないだろ」
「ストーカーの時点で人間として3流だよお前は!」

 相変わらず鋭いツッコミである。小花の肉体がそうさせるのか浦部の魂がそうさせるのかはわからないが、打てば響くとはこのことだろう。

「うん、この子が倒れたのってお前の存在による心労だったりしない?」
「馬鹿を言うな。俺は自分磨きとストーキングで忙しい。デートに誘ったのだって先日が初めてだ」
「……自分磨き?」
「俺は、10年前小花に振られた」
「ああ、言ってたな」
「その時に言われたのだ。”優しくないから嫌だ! ”と」
「断言するけど今のお前絶対に優しくはないぞ」
「少なくともそう見えるように行動を正した。それは間違いない」
「胸張って猫被ってたっていうなやストーカー」
「そうか? 小花は良い猫を被っていると言ってくれたのだがな」
「良い猫って……はぁ!!?」

 そう女子にあるまじき声を張り上げる浦部。何かおかしかっただろうか? 

「おかしいに決まってるだろ! なんでストーカーと被害者が話してんだよ!? 10年のストーカーが生んだストックホルム症候群か!」
「いや、自分磨きしているときに声をかけられた。不思議なものだな」
「え、俺から声かけたの?」
「ああ、その時は天にも昇るような気持ちであったが、それ以後何かと自分磨きについてきたりするようになったのだ。そのあたり、浦部はどう思う?」
「この小花ちゃんの将来が心配になった」
「俺もそう思う。悪い男に引っかからないか心配だ」
「悪い男が何を言ってやがる」
「小花のためなら邪悪にだってなって見せる……と言いたいが、難しいな」
「え、俺のためなら何でもする! って言わないのか?」
「……その人物のその場の望みをかなえるだけが人助けではないのだ」
「意外と考えてるんだな、ストーカー」
「ああ、小花にふさわしい優しい男になるにはそうするべきだと思ったのだ。小花は口先だけの軽薄な者より、芯の通った人物を好む」
「それは俺もわかるな」

 その言葉に、「だろうな」と思わず呟く。
 その事実を指摘するかは迷うばかりだが、もういいだろうとは思えてきた。

「それで、ストーカー」
「どうした浦部」
「この、小花って子はどんな子だったのか、教えてくれるか?」
「……詳しく語るなら朝方までかかるがいいか?」
「そこまで詳細には求めてねえよ! 普通に見た感じで!」
「ならば簡単だな」



「小花は、男勝りな性格でで一人称は未だに俺。ざっくばらんとした性格で友人は多いが、本心の深いところまで立ち入らせるような人物は作らない」
「おい、春日?」
「昔は性別に関する境界が曖昧だった、が、それ以上に神童とうたわれていたよ。クラスでの成績は常に同率一位だった。芸術面では壊滅的だったがな」
「……」
「そしてよく自分の感情に振り回される、クッキーアンドクリームのアイスが好きなやつだった」

 その言葉で俺が何を伝えたいのかを理解した浦部、いや、前世が”浦部熱斗”という男性だった俺の好きな彼女、”高岩小花”は「うそ、え? じゃあ俺は? いったい?」と混乱に陥っていた。

「仮説だが、小花の今の状況を説明はできる。聞くか?」
「……ああ」
「小花は生まれた時から”浦部熱斗”という前世の記憶を持っていた。それが告白によるショックでしっかりと目覚めてしまったのだ。その浦部の記憶が膨大であるがゆえに、今は混乱してい居るのだろう。だが自身を浦部だと認識しながらも小花についても"俺"とお前は言うようになっていた。ゆえに、そのうち浦部と小花は混ざって一つの人格になるだろう」
「……根拠はなんだよ」
「以前知り合った心理学の教授に少し教えてもらった」
「……いや、どんな知り合いだよ!」
「娘さんがショッピングモールで迷子になっていたのを助けたのがきっかけだったな。情けは人の為ならずとはよく言ったものだ」
「侮れねぇな自分磨き」
「俺もそう思う」

 そんな会話をしていると、ふと彼女がふらりとベッドに倒れこむ。
 心配になって脈を診てみるが、大掛かりな応急処置の必要はない。だが、万が一を考えて救急車を呼ぶべきか悩んだところで服の袖が掴まれた。

 彼女にしては珍しい、弱弱しい掴み方だった。

「安心しろ、ここにいる。俺はお前がどうなろうと、何であろうと、俺が好きになった女の子だ。一人には、しない」

 そうして袖をつかんだ手を握り、もう片方の手で布団をかける。

 すると、苦しそうな彼女の顔が少し楽になったように見えた。

 ■□■

 翌朝、どうにか脱出しようと夜じゅう試行錯誤してみたところだったが、彼女の握力に負けてあえなくベッド縁にしずんだ自分だった。
 今、この手は何も握ってはいない。そして、下から聞こえる綺麗なリズムの料理音。

 小花が、あるいは浦部が目覚めたのだろう。

「おはよう、調子はどうだ?」
「かなり楽になったよ、アキ」

 そんな言葉をいつもの小花のようで少し違う、優しい空気のしそうな顔で出迎えてくれている。

 それに違和感がある。いつもならばトーストを手裏剣のように投げ渡してくるのだが。どうしたのだろう、頭……はおかしいから、悪いモノでも食べたのだろうか?」

「オイ待コラ、聞こえてんぞ」
「すまない、わざとだ」
「認めるのか!?」
「正直は美徳だからな」
「美徳云々の前にヒトの事馬鹿にしてんなストーカー! おまえの分のもっかいトースターに入れるぞ!」
「朝から炭は困る。悪かった」
「……素直に謝るんだからなぁ、コイツ」

 そうして小花の用意した朝食を食べて、自分の入れたコーヒーで少し休む。

「それで、お前は小花でいいのか?」
「……ああ。俺が小花だよ。だいたいのことは思いだした。迷惑かけてごめん、アキ」
「お前に賭けられる迷惑など負担にならん。むしろ助けを求めてくれなかった時の方が不安だ」
「ありがとな、アキ」
「気にするな、優しい男なら、このくらいはするだろうしな」
「曲がらないな、アキは」
「それが取り柄だ」

 そういって小花がコーヒーを飲み干すと、ぽつりぽつりと前世のことを語ってくれた。

 浦部熱斗という人物には、親しい友人が居なかった。すぐに手が出る、頭はよくない、口は悪いの三拍子がそろっており、お世辞にもいい子供だとは言えなかったのだそうだ。

 それから中学で、漠然とした”このままじゃいけない”という思いから勉強を始めて、必死の思いで志望校に合格したところで、彼のことを恨んでいた人間に突き落とされて死んでしまったとのことだ。

「そうか」
「ああ、お前ならそういうと思ったよ、アキ」
「すまん。だが、別に気にする必要はないだろうよ、今のお前には俺がいる。絶対の味方がここにいるんだ。そのことを忘れないでいれば、どうにでもなるだろうよ」
「なんだそれ? 自慢か?」
「お前に惚れた男は、それなりに頼もしくなったというだけの話だ」
「……ホント、ありがと」

 その、涙目と上目遣いのコンボに精神をやられかけつつも意識を戻し、学校に向かうのだった。

 ■□■

「良い男だろ? 俺」
『馬鹿と天然が抜けてればな』

 明彦を学校に見送ったその時に、小花は内心の浦部と話す。まだ人格が統合され切っていないことが理由の奇跡のような会話だった。

『なぁ、俺。どうしてあいつに”? ”』
「……わかるだろ? あいつ、ずっと俺の味方やってたんだよ。人助けとかして人の輪の中に入っていったのに、俺のことをずっと大切に、一番に想ってくれてた。そんな想いをすっと受けててみろ、そりゃメス堕ちするわ」
『自分で言うのな』
「だからって俺を変えるつもりはないけどな。アキは、ありのままの俺のことを好きになってくれたってことだから」
『……そうやって胡坐書いてるとかっさらわれるぞ?』
「……ん?」
『春日はぶっちゃけかなりモテてるだろ』
「まぁ、よく告白されるとは言ってたな」
『そんな中にお前より春日の好みの女が居たらどうする?」
「え……あ、あ! そういえば委員長のアキを見る目が粘ついてる! あれってそういう事!?」
『そうかもな』
「……アキぃいいいい!」
『そんなに想ってるならあいつの行為に甘えずに、自分で動け。前世からのメッセージは多分そんなもんだ』

 そんな思いから、浦部熱斗は高岩小花に溶けていく。その経験を今世の人格である彼女の中に、その知識を今世の彼女の頭の中にそれぞれ渡しながら。



 前世の記憶を受け入れた小花は、今までの守りのスタイルではなく攻めの恋愛スタイルを活かして、今回の告白から連なる春日明彦ド天然ヒーローを巡った騒動に飛び込んでいくのだった。

 今の、大好きの心のままに。
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