想いは星に溶けて

ひろろん

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交わる心

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季節は秋から冬へと早変わりはじめて



木々も葉を散らし模様替えをしていく…



そんな季節を尻目に、やっぱり変わる事無く



彼女は今日も明るく元気いっぱいだ。



少なくとも表面上は…



彼女の体調も、僕の見る限りではあの晩みたいなこともなくて落ち着いている。



ずっと考えていて、あれから僕は一つだけ決めた事がある‥それは出来るだけ彼女と一緒に色んな場所へ出掛けようということ。



いきなり何も知らないはずの僕が手術を受けて欲しいとか言うのも何かおかしいし、むしろそんな事を言ってしまえば、彼女を動揺させてしまい、僕たちのこの今の関係はたちまち破綻してしまっただろう。



あるいは彼女の命を本当に思うならこの一時の心地よい場所を捨ててでもそうすべきだったかもしれない。



けれど僕はそれをしなかったし出来なかった。



あるいは自己中心的な行動だったとも言えたかもしれない。



だけどこの当時の僕はこれが彼女にとっても最善であると信じて疑わなかったし、信じることで日々に意味を見出していた気がする。



それに手術は店長が納得させてくれるみたいな事を言ってたし。それに期待しようと思った。





そんなわけで、こんな僕が自然に彼女と出来ることと言えばと考えた結果は彼女と二人の思い出を重ねることだった。

ありきたりかもしれないけれど、今の僕が出来る事はそれが最善なんだと思った。

実は元来僕は用心深く、色々後先はしっかり考える人間なんだけど、これっぽっちも彼女と別れて離れるという選択肢は頭に浮かんで来なかった。

それほどに叶ちゃんという存在は今の僕にとっても支えになっていた。



その脆く今にも壊れそうな支えに寄り添い支えを支える、そんなある意味滑稽にも思える行動。



けれどもそれほどに彼女の事を好きだからとか恋愛感情によってではなかったと思う。

少なくともこの時は。



なぜならこの時の僕にとって、まだ彼女が生死を分ける病気だと完全に芯から実感が出来ずに居たし、楽観的に助かると言う思いもあったし、まだこの時は受け入れたくもなかった。



でも1つだけ言える事は‥シンプルにもっとずっと今の関係のままで彼女と一緒に居たかったということだけ。



純粋過ぎる程に綺麗に、それ以外は望まなかった。



そして店長から彼女の置かれた状態を聞いた事は彼女には伝えてはないから、こんな僕の急に思い立ったようにしか見えない旅行三昧案を話した時に、ちょっと不思議がられたんだけど。

後は店長にこの気持ちを説明して、どうこのままの関係で居られるように説き伏せるか‥だね。



家で寛いで居る時僕はテーブルでパソコンを弄りながら画面の反射に移った彼女を見て問いかけた。

彼女はベッドに仰向けになり僕の背中をチラチラと見ている。

「なぁ‥ちょっと話があるんだけど。叶はまだ18歳だからあんまり色んな所へも行ったことないよね?」

「…ん~急にどうしたの?」

「僕、旅行好きなんだけどこれから先休みのたびにどこか旅行に行こう。叶と一緒に行ければいいなって思ってね。嫌かな?」

「え‥嫌な訳ないよ。すっごく嬉しい‥だからっこっそりトランクに入ってでもそんなの悠ちゃんに付いていくよ‥」



彼女はお気に入りのクマのぬいぐるみの手をぐにぐにと触りながらそれで顔を隠す。



「うーん、でもそれには無理がある。叶以外とお尻大きいし」



「何それ?!余計なお世話です。出てる所は出てるだけだもん。でも‥何で急に改まってそんな話を?何かちょっと変。そんなのいつだって行けるよ」



「叶にもう少し近付いてみたくなっただけさ。もっともっと心もね。旅行ってその人のひととなりが良く分かるんだよ。だから」



「ふーん‥そっかぁ‥私はどこでだって悠ちゃんと居られるならそれでいいんだよ?でもやっぱり何か変な悠ちゃんだよ‥」



「気にしすぎだって」







ってな具合で。



ともあれ早速2人であれこれと旅行の計画を練った。



なんだかんだすったもんだありながらも、それからとゆうもの僕は彼女と二人で色んな場所に出掛ける。







秋の群馬県へ紅葉狩りと吹割れの滝、水上温泉。



どうしてそこだったのかと言うと単純に彼女の亡くなった実の母親の実家ならしく、行ってみたいと向こうから頼まれたから。



「悠ちゃん悠ちゃん~スッゴい綺麗~見てよ紅葉の葉っぱ~芸術の秋だから私をモデルに絵書いてよ~♪」



と‥紅葉の葉っぱを胸に当てて本人的にはセクシーなんだろうポーズを取る彼女。



「ばか‥恥ずかしいから…。って気を付けなよ。足元落ち葉で滑るんだから‥滝に流されるよ。叶ならやりかねない」



「そんな事ないよぉ、悠ちゃんは私をみくびってるなぁ‥つれないし。もっとこう‥気持ちをパーッと解放しなきゃ旅行来た意味ないじゃん。ひととなりが分かるって、じゃぁ悠ちゃんはむっつりすけべさんだよ。へんたーいっ」



そう言うとぷっくりむくれて、紅葉の葉っぱをこっちに投げつける。葉はヒラヒラと力無く風に吹かれ、彼女の靴の上に落ちる。



「何だよ、変態って。藪から棒に。僕はまったり景色を見るのが好きなの。それに楽しそうにはしゃいでる叶を眺めるだけで充分僕も楽しいよ」



「アー・・ソ ウ ク ル ノ‥。どーせ私は子供だしね~あっそーっだっ・・・」



「そこで何故いじける…」



「いじけてないし?子供が子供って言ったらどこか不都合でも?むぅ…」



「あぁー、分かった。僕が悪かった。叶は絵のモデルさんにぴったりだよ。うんうん」



そう言って僕は両の手の指でキャンパスを作ってそこに叶を納める。



「そういうのなんて言うか知ってる、悠ちゃん??」



「ん?なに??」



「釈迦に説法」



「え、どんだけポジティブなんだか・・・」





更に温泉では



「お風呂気持ちいぃ~悠ちゃん悠~ちゃぁん。聞こえる?そっち行ってあげようかぁ?」



温泉の男湯と女湯の隙間から彼女は



「どうせ誰も居ないんだからいいよね?」



「まぁたまたま貸し切りみたいになってるけどダメだよ。誰か急に入って来たら叶の裸見られるし。それは困る」



「わぁ、そんなに想ってくれて嬉しい。でも大丈夫、大丈夫~♪」



「めっちゃ棒読みな気がするんだけど気のせい?そんなこと言ってないで。大人しくしてなって」



「どこが??本気だし!!わたしはいつでも本気しかないの。やだ、行く!!!」



と何が気に障ったのか僕にはさっぱり分からないけど、タオル一枚胸元に当てたまま衝立の切れ間の向こうの岩壁を、ぺたぺたと足音をさせてむくれた顔して本当にひょっこりこちらに現れた。

やってることはほんとアホで子供っぽいんだけど、明るい場所で目の前に立ってマジマジとその体を見せつけられるのは初めてかもしれない。

まぁ大事な部分はちゃんと自分で隠しているんだけど。

家じゃ寝る時くらいで、真っ暗だし。

だから流石にこの時の僕はドキドキせざるおえなかった。



そしてめっちゃテンパッた。



何にって、この時の姿は何だかちゃんと彼女は大人っぽく見えて。

妖艶な感じさえしたから。



「わたしはやりたいことはすぐやる派なんですーっ!いつまでも賞味期限ぎりぎりまでのプリンを冷蔵庫に残しておいて食べた時のことをを想像してるって言う悠ちゃんとは違うんですからねーっ」



「え・・・なんのこっちゃ。それとこれとは・・・」



ガタッ



カラララララ。



「いいから早く戻って!叶はもうちょっと自分を大切にしなさいってば・・・」



そこで男子浴場の扉が開く音がして僕は慌てて敷居の隙間の岩壁へと彼女を押し返した。





そう、でも彼女は精一杯にいつも生きてた。





所変わって、母親のお墓参り。

なんだか神妙に自分語りをしてくれた彼女。



「わたしね、ちっちゃい頃からママとお料理するのが大好きだったの。そのママを忘れたくなくてこれから先もずっとそれを思い出せるように、料理の仕事がしたいって思ったの」

彼女は中腰でなんだかバラのいい匂いがする線香を何本か立てて灯をつけながら寂しそうに笑った。



持ってきたミネラルウォーターをお墓にドボドボとかけながら僕はそれにありきたりな事しか言えない。



「・・・そうか、きっとお母さんも喜んでるだろうね」



「うん、そうかなぁ?ただの自己満足」



「‥そうだとしても‥‥それが叶の為になってるなら、お母さんだって喜んだに違いないから」



「うん、ありがと悠ちゃん。それとママ・・・」



それから両手を合わせて目を閉じると彼女は囁いた。



「わたしはこれからも全力投球で生きるからね、ママ・・・見守ってて下さい」



それを聞いて僕は色んな気持ちが渦巻いてほんの少し込み上げるものがあって、それを抑えながら彼女の頭を撫でていた。







更に冬は札幌にも旅行した。



雪まつりを見ながら、雪自体が珍しい2人で大いにはしゃいでた気がする。





高知に福岡に仙台に新潟にも行った。





そんなこんなとしているうちにあっと言う間に寒い季節も終わりに近づき



そして‥春には一生記憶の中心で忘れることができなくなった京都へ…





「ほらお茶で有名な宇治に着いたよ。傍らに宇治川が流れて自然に溢れた場所でしょ。さ、行こう」



「へ~、でも京都って春なのに少し寒いね‥」



「京都は盆地だからね。夏暑く冬は寒いのさ。でもだからこそ季節にメリハリがあって風流なんだよ。ほら」



「へ~‥あっ‥このお茶試飲出来るって。飲んでみようよ。しかも高級ー …んはぁ~高いお茶って凄く甘いんだね~。美味しい。それに身体暖まるよぉ」



「それが目的か‥」



「だって悠ちゃん景色ばっかり見てさぁ、私のこと暖めてくれないんだもん」



「またそんな事を‥。叶の居る景色を見てるんだから。ね、宇治にはお茶の他に有名なものあるんだけど知ってるよね?」



「え~と…御寺?」



「これだよ。」



と僕は十円玉を彼女に向かってポーンと投げた。



「あ、平等院鳳凰堂だぁ‥世界遺産だよね?確か」



「そ、これから行って見ようか。中にも入れるよ」



そして僕らはゆっくりと歩きながら旧時代が織り成す見事な造形に酔いしれる。

彼女は僕の斜め前を歩きながらはしゃいでピョコンとスキップをしていたけど、ふと転びそうになり慌てて僕の背中の袖を引っ張り掴んだ。

一瞬僕はその行為にドキッとしてしまう。

「ごめん。あは…」

苦笑いする彼女に「服延びちゃうな~」と僕は誤魔化す。



いつも彼女の無邪気な行為には可愛いもの以上の不思議な力を感じずにはいられない。



そんなことは多分気付いて無さそうな彼女は更に僕をドキッとさせる。



「すごーい‥何か圧倒されるね‥けどココ掴んでると落ち着くなぁ…魔法の袖」



「じゃぁここだけ切り取ってあげようか?」



「それただの布切れじゃん…」



「エア袖掴みとか出来んじゃない?」



「なにそのパントマイムみたいな事。悠ちゃんが着てないと意味無いし、ばか…」



「冗談だよ、冗談」



僕は気持ちの揺らぎを隠すのに必死だっただけなんだけど。



「分かってないな、やっぱり鈍感悠ちゃん。でもこうしてると大昔にタイムスリップしたみたい‥」



「そうだね。でも外人の観光客もちらほら歩いてて不思議な大昔だけど」



「・・・やっぱり悠ちゃんムードなぁい‥ばか‥」



「ははは‥ごめん」







それから僕達は府内に戻って祇園へ行った。



桜が舞い散る祇園の繁華街に見惚れながら歩き円谷公園の桜を二人でベンチに座ってただ眺めて‥



実は満開の桜並木と舞い散る花弁にふっと彼女を重ねてしまい、僕はこともあろうにちょっとブルーになりかけたりもしたんだけど‥







けど…その時円谷公園で彼女と語った事は、今でも鮮明にこの心に住みついている。







「ねえ悠ちゃん‥私の名前ね【叶】って凄く気に入ってるの。でも最初は嫌いだった。なんだかおばあちゃんみたいだし、人の願いを叶えるとか大層な理由に私見合わないし、そんな風にもなれないから。それでもパパはあんまり好きじゃないけどママを見付けてくれたことにはすっごく感謝してるの。最近になってね‥。ママの手紙を見付けて。そこに書いてあったのが大切な人との愛を真っ直ぐ叶えるんだ、私はその為に生きるんだって、それで‥・・・それならきっとパパ達の付けてくれたこの名前にも応えられるって。そう…思ったの。 そして、悠ちゃんを見付けた時に私分かった。きっと私は悠ちゃんに出逢う為に今までに辛い思いも沢山してきたんだって。 だから悠ちゃんは私の道しるべ。。。そして悠ちゃんの夢を叶える為に生まれて来たって‥大袈裟かもしれないけどそう感じてるの…」





「そうか…もし、そうなら凄く嬉しいけど‥でもそれなら‥僕の為に叶がこんな辛い運命に晒されるんだったら……僕となんか出会わなけりゃ良かった」



僕は思わず彼女の真摯な告白に、今までひた隠してた葛藤のジレンマを、一人で溜め込んでたものを吹き出してしまった。



「え、なに?辛い運命って…悠ちゃん‥もしかしてパパから何か私の事聞いてたの??」



「私の事って…?何も聞いてないよ。ただ‥僕は叶には幸せで居て欲しいだけなんだよ」



多分勘のいい彼女は僕の付いた最初で最後の嘘に何となく気付いていたに違いないと今にして思う。



でも…何故かそれ以上は追及してくることも無く彼女は微笑んでた。



「それだったらこれでいいんだよ‥きっと。だって私は今本当に幸せだもん‥ありがとう、悠ちゃん。ありがとう‥」



「そっか‥何度も礼言わなくていい。って言いたいけど、今は叶の言葉は嬉しいよ。何回でも言われたい。それに、それなら僕もだ。ありがとう、叶。ありがとう。な…今ならやっと‥ずっと言えなかったこの言葉が言えそうな気がする‥叶の事が僕も…好きだよ。そして叶の今まで生きてきて積み上げた心全部を愛してる。。。」



彼女の肩に腕を回して抱き寄せ‥今度は正真正銘心からのキスを交わした。



それは最初に彼女からされて以来だった。



「ねぇ、悠ちゃん‥?」



「ん?」



「私やっと悠ちゃんの不思議の木の実全部取れたかな…?嬉しい‥」



「あぁ、叶は確かに僕の頭の中を変えてくれたよ。でも全部かどうか分かんないけどね」



「え、だったらこれからも全力で全部取っちゃうもん・・・」



「あぁ‥そうしてくれたら何より嬉しいよ」





そしてやっと桜の木の下で僕らは本当の意味の恋人になれた…







その夜‥







旅館で初めて彼女と一線を越える。。。



「そろそろ寝ようか」



「うん‥悠ちゃん‥お願いがあるの…私の事‥抱いて欲しい…」



「え、抱っこならいつもしてるじゃん」



「違う‥悠ちゃんのばかぁ…これ以上は言わせないでよ‥」



「………」



僕は躊躇った。



別に抱きたくないわけじゃないんだけど。



彼女の病気にはあまり良くないんじゃないかって思ったから。



今は薬を飲んで痛みを抑えているけれど‥



それも彼女は気を使って隠れて飲んでいるのを僕は知っている。







「ねえ悠ちゃん?私はね、これからもずっと悠ちゃんの側に居るよ。それで悠ちゃんの子供を沢山生んで‥それから楽しい家庭を作って‥普通に幸せな毎日をずっと送るの」



僕は悲しくなった…



まるでお腹の奥深くから嗚咽と共に吐き出しそうなくらいに言い知れない哀しみと言う名の愛おしさががただただ押し寄せて幸せの本当の意味を教えてくれる…



「はは、それは楽しみだな。本当に、本当に…」



「‥その始まりは今日からなんだよ。悠ちゃん」



もう哀しみが度を越すと、人は人を本当の意味で愛おしく思えるのかもしれないって事を僕はこの時初めて知った。



「叶…大好きだよ。後、初めてちゃんと全部見るけど。‥凄く綺麗な体だ」



「…当たり前だよぉ‥だって悠ちゃん以外にこの体は触れさせたことも見られたこともないんだもん。大事に取っておいたんだからね…」



「え?温泉の件は??」



「もぉー・・・。そんなの悠ちゃんが止めてくれると思ったもん。ばかぁ。。。」



「・・・ごめん」





二人だけの時間は同じようにゆっくりと流れてゆく。けれどこのまま彼女の時だけ止まってしまえばいいのにと思った。



そしてついに僕らは1つになった。



「んぅ‥痛い…」



「大丈夫?もしかしてお腹‥」



「平気…この痛みも幸せの一部だよ‥」



僕たちはゆっくり‥ゆっくりと体温が交わる感覚に浸ってその夜は更けていった。。。











その旅行から間もなく営業が終わった店の中で二人きりの時、僕は店長に彼女の事を話しした。



「僕は彼女と離れるつもりもないし叶を最後まで守り通してみせます。 店長が何と言ってももう叶は僕の一部なんです。そして何より僕も叶の事を愛してますから。 今ならはっきり言えます。店長は彼女が生まれた時に【叶】とゆう名前を沢山の愛を詰め込んで付けたんですよね? しっかりそれは彼女に伝わっています‥だから、大丈夫です。僕らは」



「…そうか・・・お前は何があっても覚悟出来てるとゆうんだな?今の叶の状況は一刻を争う。お前の家にも居る日が減ってるだろうからそれは良く分かってると思うけどな。しかしアイツは俺の言うことを何で聞こうとしないのか…せっかく生きられるのに自分からそのチャンスを棒に振るなんて、バカげてると思わないか?俺はもう家族を失うのはうんざりだ‥。なのにもう俺では叶の気持ちは動かせないようだしな。 だからそうまで言うならお前が叶に手術を受けるように諭してくれないか。それが二人を認める条件だ。お前も同じ思いのはずだし、何も問題はないはずだよな? そして変わらず叶の心の支えになってやって欲しい。それはどうなったとしてもイバラの道になるだろうが‥」



「…分かっています。叶だって‥多分死ぬつもりは無いと思います。けれど手術が終わった後の自分が変わらず自分で居られるか‥それが不安できっと怖いんです。だからどうか叶の事は責めないでやって下さい。 そして僕は叶を支えるつもりはなくて、何故なら共に歩いてゆくからです。叶は多分店長が思ってるよりずっと強くてしっかりしていますから大丈夫です。僕はただ隣に居てあげるだけで」



「そうか‥そうまで言えるお前も強いもんだな。 そうだな‥俺はアイツを信じるしかないのか…いつの日もどんな時も娘の父親とは損な役回りだよ。まったく‥ 覚悟が出来てないのはむしろ俺の方なのかもしれないな」



店長はまっすぐに僕を見ながら店の生ビールをグイッと一気飲みしてから承諾する。



「分かった。じゃ‥宜しく頼んだからな」



「はい…」











それから数日後、僕は彼女に手術を受けるように話しをした。

ベッドの脇に座って背を預けて、2人で寄り添って、夜のリラックスした状態の時に。

僕の右肩に凭れた彼女の頭をそっと押さえて、僕の頬をピタリと付ける。

そうして横目でチラリとその表情を伺いながら、何でも無い様な雑談だと思えるくらいにサラリと言った。

勿論、その平静は半分以上演技だったけど彼女の為を思い演じる僕もまた本当の僕。



「叶…手術‥早く受けよう?そうしたらまた色んな所へ一緒に出掛けよう。今度は僕の実家に連れてってあげるよ。田舎だけど海も山もあってとても気持ちいい場所だから…。叶の夢は僕の夢を叶えることだって前に言ってたでしょ。だったらそれを現実にしようよ、ね?」



「……悠ちゃん‥そっか・・・やっぱり。でも‥ 私ぜんぶ壊れちゃいそうで怖いの…今みたいに笑えなくなりそうで、そしたら悠ちゃんにもきっと嫌われちゃうから‥だからそんなのだったら生きてても仕方ないの‥嫌だよ‥」





「叶…僕は君の全てを愛している。だから例え叶が不安で苦しくてもそれごと抱いて叶の側に居るよ。何も変わりはしないから‥大丈夫」



彼女は無言で目だけを上下させて僕を見てゆっくりと息を吐き出すように何度も聞かされている言葉をまた重ねた。



「悠ちゃん…悠ちゃん、悠ちゃん…好きだよ。大好き‥ずっと愛してるよ‥側に居てね…」



それだけ言うと黙ってしまいそっと瞳を閉じてしまった。



結局その日の彼女は声も出さずに一頻り泣いて僕の胸に寄りかかって寝てしまった。



無防備に安らかに…



優しい月にほんのりと照らされて。



それはこれから更に迫る過酷な運命を、力の限り生き抜くための…未来への一休みだった。











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