四重奏連続殺人事件

エノサンサン

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四重奏連続殺人事件

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仮説の実証

 倉科は鈴木正恵の殺害方法に呻吟しながらも事務所兼居間で、調査相談やら探偵学校の雑務に追われて何日かが過ぎた。
 珍しく、長男が居間兼事務所に現れて、話しかけてきた。倉科はどうせ小遣いの無心だろうと財布に手を伸ばしたが、彼の言葉は、
 「車、一緒に乗ってくれない?」だった。
 大学院生の彼は、免許を取得したばかりで、まだ、運転には自信がないようだ。倉科は気分転換のつもりで同乗することにした。この際、きちんとした運転技術とマナーをおしえておこうとの思いもあった。
 倉科はマンションの玄関脇にある車庫に立ち、長男に指示を与えている。
 「左右のタイヤを確認してから乗り込めよ。シート・ベルトを締めたら、バックミラーとドアミラーを確認すること」
 彼は、うるさいなぁ、との表情を浮かべながらも指示に従っている。
 「きちんと締めてるか?」
 助手席から倉科が運転席のシート・ベルトを点検している。ソケット状になっている留め金部分を触って確認した。ソケットのボタンを押すとシート・ベルトが外れた。当たり前だ、そのような構造になっている。
 ……助手席からシート・ベルトが外せる……? 運転者の意思に反しても……。
 倉科がボタンを押して運転席のシート・ベルトを外した。
 「あぶねぇなー。オヤジ、何やってんだよ! 俺を殺すつもり?」
 長男は外れたシート・ベルトを締め直しながら怒っている。
 「ごめん、ごめん」
 倉科は謝りながら、これだと閃いた。シート・ベルトが助手席から外せることは確認できた。それじゃ、助手席からブレーキが踏めれば、倉科が立てた偽装事故の仮設は大いに実現に近づく。
 倉科は助手席から脚を伸ばして、ブレーキが踏めるかどうか試してみた。中央にあるギア・ボックスと仕切りが邪魔をしてブレーキ・ペダルまで脚が届かない。長男はオヤジの行動にあきれている。
 「オヤジ、何やってるの? 頭、おかしいんじゃない?」
 「いやぁー。助手席からブレーキが掛けられるかと思ってね」
 倉科はもう一度、試してみたが駄目だった。
 「無理なんじゃない? この車じゃ。それにオヤジは脚が短いからなぁ。ハッハッハッー」
 失礼な奴だ。父親に向かって言う言葉か。しかし、「この車じゃ無理」との指摘から、事故車と同じ車種で実験してみようと思い立った。
 長男に命じて、同じ車種を展示しているカーディーラーのショウルームへ向かった。途中、倉科はその車種が助手席からブレーキ・ペダルを踏める構造になっていることを強く願った。
 幹線道路を少し走ると、目指すショウルームがあった。倉科は一目散に同車種を展示している場所へ直行し、係員の制止も聞かずに助手席へ乗り込み、実験を始めた。
 ギア・ボックスが運転席との中央にあったが、それ以外に遮る部分のない構造になっている。倉科の短い脚でもブレーキ・ペダルに届く。脚を伸ばし、グッとブレーキを踏みこむと上体が前傾姿勢になり頭部がダッシュ・ボードに当たる程近づいた。これだ! 奴は予めこの状態を予期し、ヘルメットを被っていたのだろう。黒い痕跡は、その時に付いたのだ!   
 必ず、シート・ベルトのボタンとハンドルに星野遼介の指紋が残っているはずだ。
 倉科は係員に詫びを言ってショウルームを後にした。
 「本当に! 何やってるんだよ! 俺が恥ずかしいだろう!」
 車内で、倉科は長男から怒鳴りつけられた。
 「悪い、悪い。ちょっと調べることがあってね」
 謝りながら、倉科はスマホを操作して、樋山探偵調査事務所を呼び出した。樋山が直接電話口に出た。
 「倉科だけど、星野遼介の身長はどのくらいか判る?」
 「先生、何ですか? 藪から棒に」
 樋山が不思議がって聞き返してきた。
 「ちょっと気になることがあるんだけど、そこまでは調べていないよね?」
 樋山は、冗談じゃない、そのくらいちゃんと調べていますよ、と言いたげな感じの声で、
 「正確には不明ですけど、この写真からすると百八十五センチ程でしょうか?」
 倉科より10センチ程度高いことになる。助手席からブレーキ・ペダルを踏むには十分過ぎる背丈だ。
 「どうして判るの?」
 「車のそばに立っている写真があるんです。車種はちょっと古いですが、BMW3251なので、全高、車の高さは1メーター40センチだから、そこから判断するんです」
 「ほっー!」と倉科は唸った。車の高さから身長を割り出したか、と教え子の力量に驚いた。
 「もう一つ聞きたいんだけど、防犯ビデオの保存期間は三ヶ月って決まってるの?」
 「別に決まっていないですよ。大抵は三ヶ月程度で廃棄されますけど、工事現場なんかでは、出入りの車両を記録するため一年程度保管するみたいですよ」
 倉科は樋山の言葉で、榊江利子のマンション周辺で何か所もタワーマンションの工事現場があったことを思い出した。
 「そうか。ありがとう」電話を終えた倉科は、榊怜子の番号を押した。
 「榊さん。お姉さんが居たマンションの周辺に幾つかの工事現場がありましたよね?」
 「ええ。去年辺りから高層マンションの工事が続いています。それが何か関係があるのですか?」
 妙な事を聞くなぁ……とのような声の調子だ。
 「まだ、確実なことは申し上げられませんが、重大なことが判るかも知れません」
 怜子の声が弾んだ。
 「お姉さんのことで、何か判ったんですね!」
 倉科は再び玲子を失望させてはならない、慎重に事を運ばなければと、自分に言い聞かせて、
 「いや、まだ仮説の段階ですが、近いうちに結論が出ると思います」とだけ告げた。

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