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本編
7.5
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新入生歓迎会の準備が思うように進まない中、生徒会の通常やるべき事も溜まりつつあり、いよいよ寮まで持ち帰らないと終わらないと書類を大量に抱え、キリがいい所までと、夜更けまで取り組んだ。
普段より短い睡眠時間となってしまったが、心地のいい声で起きることもでき、今日は朝から授業には参加せずに、生徒会へと向かおうとした。
本鈴もなった後だ。
皆教室で朝礼をしている時間で、廊下には誰もいないはずだった。
ある教室の前で、ポツンと立っている生徒がいた。
………結斗だ。
その見知らぬはずの生徒に、自身の右腕であり唯一の存在である執事の姿が重なった。
何故、此処にいるのか。
何故、姿を変えているのか。
纏う柔らかい雰囲気、姿勢のよさ、頭から足の先まで。
姿は違えど長年隣にいた存在を俺が間違えるはずがない。
一瞬にして、目の前の存在で頭がいっぱいになった。
俺との約束はどうしたんだ。
もしかして、俺が心配となりここまで来たのか。
この学園まで来たのなら、何故直ぐに俺のもとに来ないんだ…と、自分勝手な苛立ちまでも感じはじめた自分に気付き、持っていた書類を握り直した。
ぐるぐると回る思考の相手である当の本人は、下を向いていてこちらには気づいておらず、少し不満に感じた。
自然と足は進み、どんどんと距離をつめていく。
足音をたてるように歩き、対象を通り過ぎる時に一枚資料を落とした。
振り向くと、狙い通り結斗の足もとに資料は落ちてくれたらしい。
やっとこちらを向いた眼鏡の奥に、お気に入りの茜色の夕日のような目が俺を捉えた。
「拾ってくれたんだ。ありがとう。」
結斗が俺を見たというだけで、色々な感情は渦巻くものの、自身が思うより優しい声が出た。
紙を受け取ろうと手を伸ばす。
「…い、いえ。」
短い言葉とともに、目もすぐさま逸らされる。
俺と会話をするつもりは無いのかと、結斗を見つめ待つ。
手を腰の横で握り込み、やや白くなっている。結斗の緊張や我慢をしている時の癖だ。
手に傷がついてしまうと声をかけようとしたその時、教室の中から、佐藤と呼ぶ教員の声が聞こえた。
急ぐように、お辞儀をし教室へ入ってしまった結斗を見送る。
「…佐藤、ね。」
クラスと呼ばれた苗字を頭の中で繰り返し、新入生の名簿を確認しようと生徒会室へと足早に向かった。
……
………
…………
バンッと思ったよりも大きな音をたててしまった扉に少し冷静さを取り戻す。
「わっ、びっくりしたー!」
「…すみません。」
「心臓に悪いよぉ…って、うるしーどうしたの?怖い顔して。」
「何も。」
「何もない訳ないじゃんね。」
「少し…気に食わない事があったので。」
驚かせてしまったことと、心配をしてくれている森先輩の様子に、自身の席に座りながらネクタイを緩め今の気持ちを吐き出した。
「万人受けしそうな対応してるけど実はクールなうるしーにしては珍しーね。」
手を止め興味津々に話しかけてくる。
「そんな事ないですよ。」
「付き合いまだ短いけどそんな顔してんの初めてだよ?」
そんな指摘に、表情管理が出来ないほどに、感情が高ぶっていたことに気づいた。
まだまだだと、深く息を吐いた後、目的の名簿を鍵付きの引き出しから出す。
指で順に名前をなぞり、一つの名前を見つけた。
「…佐藤 唯。」
小さく呟く。
しかし、2人しかいない生徒会室ではその小さな呟きも拾われた。
「?…唯くん?」
親しげに呼ぶ様子に驚く。
「…先輩、佐藤唯のこと知っているんですか?」
「昨日休憩もらったでしょ?そん時に案内してあげた子!え、何かあったの?!」
「別に何もないですよ。」
何故がホッとする森先輩に、結斗との関係を聞こうと席を立とうとした時だった。
生徒会室の扉があき、久しく姿を見なかった、会長が立っていた。
「よぉ、千隼元気にしてたか?」
「あーーーー!バ会長!どの面下げてここに来たんだよ!」
手をあげ堂々としている姿に、森先輩が詰め寄り胸ぐらを掴む。
「おいおい、歓迎も程々にしろ。」
「は?これが歓迎とか、やっぱり頭可笑しくなったんだね。こっちがどれだけ大変だったか分かる?」
その言葉に敷島先輩が、森先輩の後ろ髪を掴みぐいと引っ張ると顔を覗きこんだ。
「いって!何すんの!」
「おい、しっかり休んでねぇな。」
「休むも何も、うるしーと俺だけでどうしろっていうの。」
俺の名前がでて、初めて俺がこの場にいた事を敷島先輩は認識したようだった。
敷島先輩は、森先輩から離れ、会長席ではなく、応接スペースのソファに腰掛け一つのUSBをジャケットの内ポケットから取り出した。
「此処に新歓の企画を入れておいた。」
「は?」
「どういう事ですか。」
「どうもこうもねぇ。内容も全て承認済みだ。…これからは俺も顔を出すようにするし、あいつらも出させる。」
そう言い放つと、もう要は済んだというふうに、席を立ち生徒会室から颯爽と敷島先輩は出ていった。
出ていく時に、睨まれたような気がするがどういうことだろうか。
まだ苛立ちを隠せない森先輩を尻目に俺はPCを起動した。
嵐のような出来事に驚いたものの、俺の執事の事はまた後でじっくり考え、森先輩にも聞かないといけないが、まずはこのデータの中身からだと算段をつけはじめた頭に、俺はやっと正常通りになってきたと感じた。
普段より短い睡眠時間となってしまったが、心地のいい声で起きることもでき、今日は朝から授業には参加せずに、生徒会へと向かおうとした。
本鈴もなった後だ。
皆教室で朝礼をしている時間で、廊下には誰もいないはずだった。
ある教室の前で、ポツンと立っている生徒がいた。
………結斗だ。
その見知らぬはずの生徒に、自身の右腕であり唯一の存在である執事の姿が重なった。
何故、此処にいるのか。
何故、姿を変えているのか。
纏う柔らかい雰囲気、姿勢のよさ、頭から足の先まで。
姿は違えど長年隣にいた存在を俺が間違えるはずがない。
一瞬にして、目の前の存在で頭がいっぱいになった。
俺との約束はどうしたんだ。
もしかして、俺が心配となりここまで来たのか。
この学園まで来たのなら、何故直ぐに俺のもとに来ないんだ…と、自分勝手な苛立ちまでも感じはじめた自分に気付き、持っていた書類を握り直した。
ぐるぐると回る思考の相手である当の本人は、下を向いていてこちらには気づいておらず、少し不満に感じた。
自然と足は進み、どんどんと距離をつめていく。
足音をたてるように歩き、対象を通り過ぎる時に一枚資料を落とした。
振り向くと、狙い通り結斗の足もとに資料は落ちてくれたらしい。
やっとこちらを向いた眼鏡の奥に、お気に入りの茜色の夕日のような目が俺を捉えた。
「拾ってくれたんだ。ありがとう。」
結斗が俺を見たというだけで、色々な感情は渦巻くものの、自身が思うより優しい声が出た。
紙を受け取ろうと手を伸ばす。
「…い、いえ。」
短い言葉とともに、目もすぐさま逸らされる。
俺と会話をするつもりは無いのかと、結斗を見つめ待つ。
手を腰の横で握り込み、やや白くなっている。結斗の緊張や我慢をしている時の癖だ。
手に傷がついてしまうと声をかけようとしたその時、教室の中から、佐藤と呼ぶ教員の声が聞こえた。
急ぐように、お辞儀をし教室へ入ってしまった結斗を見送る。
「…佐藤、ね。」
クラスと呼ばれた苗字を頭の中で繰り返し、新入生の名簿を確認しようと生徒会室へと足早に向かった。
……
………
…………
バンッと思ったよりも大きな音をたててしまった扉に少し冷静さを取り戻す。
「わっ、びっくりしたー!」
「…すみません。」
「心臓に悪いよぉ…って、うるしーどうしたの?怖い顔して。」
「何も。」
「何もない訳ないじゃんね。」
「少し…気に食わない事があったので。」
驚かせてしまったことと、心配をしてくれている森先輩の様子に、自身の席に座りながらネクタイを緩め今の気持ちを吐き出した。
「万人受けしそうな対応してるけど実はクールなうるしーにしては珍しーね。」
手を止め興味津々に話しかけてくる。
「そんな事ないですよ。」
「付き合いまだ短いけどそんな顔してんの初めてだよ?」
そんな指摘に、表情管理が出来ないほどに、感情が高ぶっていたことに気づいた。
まだまだだと、深く息を吐いた後、目的の名簿を鍵付きの引き出しから出す。
指で順に名前をなぞり、一つの名前を見つけた。
「…佐藤 唯。」
小さく呟く。
しかし、2人しかいない生徒会室ではその小さな呟きも拾われた。
「?…唯くん?」
親しげに呼ぶ様子に驚く。
「…先輩、佐藤唯のこと知っているんですか?」
「昨日休憩もらったでしょ?そん時に案内してあげた子!え、何かあったの?!」
「別に何もないですよ。」
何故がホッとする森先輩に、結斗との関係を聞こうと席を立とうとした時だった。
生徒会室の扉があき、久しく姿を見なかった、会長が立っていた。
「よぉ、千隼元気にしてたか?」
「あーーーー!バ会長!どの面下げてここに来たんだよ!」
手をあげ堂々としている姿に、森先輩が詰め寄り胸ぐらを掴む。
「おいおい、歓迎も程々にしろ。」
「は?これが歓迎とか、やっぱり頭可笑しくなったんだね。こっちがどれだけ大変だったか分かる?」
その言葉に敷島先輩が、森先輩の後ろ髪を掴みぐいと引っ張ると顔を覗きこんだ。
「いって!何すんの!」
「おい、しっかり休んでねぇな。」
「休むも何も、うるしーと俺だけでどうしろっていうの。」
俺の名前がでて、初めて俺がこの場にいた事を敷島先輩は認識したようだった。
敷島先輩は、森先輩から離れ、会長席ではなく、応接スペースのソファに腰掛け一つのUSBをジャケットの内ポケットから取り出した。
「此処に新歓の企画を入れておいた。」
「は?」
「どういう事ですか。」
「どうもこうもねぇ。内容も全て承認済みだ。…これからは俺も顔を出すようにするし、あいつらも出させる。」
そう言い放つと、もう要は済んだというふうに、席を立ち生徒会室から颯爽と敷島先輩は出ていった。
出ていく時に、睨まれたような気がするがどういうことだろうか。
まだ苛立ちを隠せない森先輩を尻目に俺はPCを起動した。
嵐のような出来事に驚いたものの、俺の執事の事はまた後でじっくり考え、森先輩にも聞かないといけないが、まずはこのデータの中身からだと算段をつけはじめた頭に、俺はやっと正常通りになってきたと感じた。
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