雨音は鳴りやまない

ナナシマイ

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第二章

フラルネ作りと魔力(2)

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 翌日も個別指導だ。フェヨリがうたってくれた歌には続きがあったらしく、今日は魔力を動かす感覚を教わることになった。
 ということで、わたしはフェヨリの歌を聞くことに集中する。
 豊かな倍音を含むやわらかな声が気になるのか、それとも別の理由か、ちらちらと視線を向けてくる子供の多いこと。
 しかし、恥ずかしいなどとは言っていられない。魔力を動かせなければ、魔法が使えないだろうということはわたしにだってわかる。魔法が使えなければ、神さまを呼ぶことができないのだ。それは困る。

 身体でいうと頭の辺りに感じていたざわざわした変なものが、歌に合わせてだんだん下へと下りてくる。胸の辺りまできたところで、今度はそのざわざわが二つに分かれたような気がした。

「今、どこに魔力があるか、わかりますか?」
「えっ、と。胸の辺りで、二つに分かれたよう、な……」

 わたしが自信なさげに答えると、彼女はクスリと笑った。

「ええ、合っていますよ。自信を持ってくださいませ。今度は、両腕に持っていきましょうね」

 ふたたび歌がはじまると、肩、二の腕、肘……とざわざわが動き、最後に手のひらがぽぅっと熱くなる。

「さあ、この状態を保ったまま、この部分に触れてみてください」

 繋いでいた手が離されて、指示された通りの場所に触れてみる。……あ、光った。
 鈍色の鎖が一筋、その明度を上げて、手の指を淡く照らす。

「魔力が反応しましたね。そのまま金属に流し込むのですよ」

 流し込む、ねぇ。とりあえず、ざわざわが手のひらから飛び出して、金属のほうへと移動するのを想像する。
 ざわざわ、ざわざわ。変な感じがするから、この金属に移してしまおう。えいっ。

 ……ふっと、手が軽くなったような感じがした。

「はい、よくできました」
「ふぅ……ありがとうございます」

 魔力の量は、フェヨリが調節してくれていたのだろう。わたしはただ変な感覚を外に押し出しただけなのに、すごく疲れた気がする。だが、魔力を流す部分はまだまだ残っているのだ。

「今日は、一人でできるか、やってみましょうか」

 さらに翌日。今度はそう言われてしまった。昨日の感覚を思い出し、ざわざわを見つけようとしてみる、が……うん、できない。
 動かす感覚はなんとなくわかったような気がするけれど、最初の段階、魔力を見つけることが難しい。

「あの……」

 助けを求めてフェヨリを見る。

「昨日の歌を、教えてもらえませんか? あの歌があれば、魔力を見つけられると思うのです」
「ええ、構いませんよ。ここまで魔力が多いと、動かせるだけの魔力に区切ることが難しいのかもしれませんね」

 彼女の歌に合わせて、自分の口でもなぞってみる。ざわざわするのは昨日と同じだ。この感覚を忘れないようにしなくてはならない。
 この日は結局、歌を覚えたところで終了した。

 次の日はひとりで歌をうたう。ざわざわの――魔力の感じをだんだん掴めてきたように思う。少しずつだけれど、動かしたいように動かせるようにもなってきた。

 と、このころにはフラルネを完成させた子がちらほら出てくる。考えてみれば、確かにもう四日目だ。
 わたしはまだ最初の部分にしか魔力を込められていないし、自分で動かすこと自体、たった今できるようになったばかりなのに。もしかしなくても、わたし、このままでは落ちこぼれ街道まっしぐらではなかろうか。
 課題ですらないフラルネ作成もできずに留級。そうなってしまったら、ヒィリカたちに合わせる顔がない。

 ……焦ってはいけない。そう思うけれど、明らかに進みが遅いのはわたしだけだ。

 フラルネを作り終えた子のなかには、あからさまにわたしを見下すような視線を向けてくる子もいる。
 ここまでわかりやすく嫌味だと、案外気にならない。というより、構う余裕がない。わたしの反応を待っていた子たちには申し訳ないけれど、これでも社会人、適当に受け流すことは得意なのだ。

 それでも話しかけてくる子がいたので、「もう完成したのですね。すごいです」と微笑みを返しておく。「他人を見下すのは美しくないのでは?」なんて、思うだけで口にはしない。

 そもそも、わたしは今まで、魔力などというものを知らずに生きてきたのだ。簡単にできるわけがないだろう。
 別にそれをわかってもらうつもりはないが、自分でそう納得しておくだけでも気分が軽くなる。これから頑張れば良いのだから。
 ……まあ、初っぱなからこれだと、先が思いやられるのだけど。

 ヅンレは相変わらずわたしに冷たい。けれども、ほかの土地の子供たちのように馬鹿にするような雰囲気ではなく、どちらかというと「どうしてできないのか心底不思議だ」とでも思っているかのような表情だ。
 なぜできると思っているのか、わたしのほうこそ不思議なのだが、顔をなんとなく覚えているジオの土地の子供たちはみんな、同じような表情でわたしを見る。カフィナもそうだ。同郷のよしみだろうか。
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