呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭

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始まり

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 何も進展もないまま、明日魔法に詳しい別の人物を呼んでから話を進めると言われて追い出された2人。街灯に照らされた夜の明るい闇はしかし闇であり、那雪は当たり前のように辺りを見渡して歩く。
「警戒してるなら少しくらいは精神も安定してきたな。後は俺たちが残り2日で何とかするからなゆきちはもうこの件に関わらなくていい。ゆっくり休んでくれ」
 那雪の事ばかり考えていたが敵の狙いには一真も含まれている。那雪の心が安定しているのならこれ以上呪いに触れさせないように那雪から遠ざかった上で期限内に解決する事が良いと判断した一真は那雪を家まで送って一人歩き出す。この件の始まりから今の今までずっと一真は薄い魔力が空気に混じっているのを感じていた。町中に微かに漂う魔力は一体誰のものであろう。
「あるのは分かるが薄過ぎて誰のものか分からないな。別の敵が同時に出て来たら厄介過ぎるだろうしアイツのだと祈っとくか」
 気配を探りながらゆっくり歩いている一真の耳元にてある声が聞こえて来た。
「お姫様はどうしたのかい? 添い寝してあげなきゃ可哀想だろ? 自殺したらどうするつもり?」
「一気に3つも質問するな刹菜」
 振り向いたそこにいたのは制服を着たニヤけ面。
「あとファッションセンスに自信がないなら周りに教えてもらえ」
「いやいや、私にとって制服は3年間という季節限定のサイコーのファッションさ。女子高生っていう天然物の最高級ブランドを付与して下さるのだからね」
 言い回しだけで手抜きをする刹菜の言葉は受け流して一真は先程の問いに手短に答える事にした。
「なゆきちは精神安定してるから家に置いて来た。期限の2日以前に次に呪いに触れる前に片付けたいとこだ」
 刹菜はより一層ニヤけを強める。
「いい志。感心すら覚えるよ。ただ半ばだ」
「何言ってんだ? 俺は死んでないが?」
「だってあの子、一真をストーキングしてる私をストーキングしてるから」
「嘘だろ」
「そんなお話私だって知らなかった」
 後ろを振り返ると電柱からひっそりと顔を出している那雪が手を振っていた。
「なゆきち何で来たんだ。呪いに触れただけで死にたくなるのに着いて来たらまた死にたくなるぞ」
 那雪は一真に駆け寄る。
「ゴメン、でも一緒にいなきゃ寂しくて死んでしまいそうで」
 その言葉を聞いた途端に刹菜は盛大に笑った。
「寂しくて死にそうだなんて那雪はうさぎかな? ついでに万年発情期?」
「黙れ刹菜。なゆきちもそいつの言葉に耳を貸すなよ」
「ふふっ、楽しいから耳を貸すわ」
 那雪も笑っていた。それを見て刹菜は手で追い払うような仕草をして言った。
「いい子なお2人さんはもう帰っていいよ。夜は悪い子イケナイ子な私にお任せあれ。一真と那雪は朝から夕方の探索を頼むよ」
 仲良く2人話しながら立ち去った後、刹菜はぽつりと呟くのであった。
「やれやれ、想いのすれ違いってやつは厄介だな」
 刹菜は辺りを見渡す。視線は意識は感覚は魔力が漂う狭い路地で止まる。
「ただのヤンキー魔法使いと思うけど、取り敢えず片付けておくか」
 刹菜は闇に溶けるように飲まれるように路地裏へと吸い込まれて行った。路地裏へと向かう少女の右手には傷だらけの万年筆が握られていた。
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