上 下
18 / 132
〈お菓子の魔女〉と呪いの少女

呪われ一真

しおりを挟む
 男は美しい少女の顔を眺め、思った。
ーああ、凄く美しい……これはやるしかないー
 決断から即座に行動に移す。その思い切りの良さは他に生かせなかったのだろうか。少女を引っ張り路地裏へと引きずり込みそして抵抗する美しき少女が着ている服を無理やり脱がせようとしたその時、路地の入り口からある男の声が飛んで来た。
「何やってるんだ、放せよ」
 その声の主はビニール傘を構えて立っていた。
「ほう、魔法使いか。殺ってくれようじゃないか」
 男は手を掲げ、灼熱の玉を作り上げた。
「死ねよ」
 業火の球は一真の方へと襲いかかる。それを弾こうとするも覚悟を決めた時には既に一真の服は火を上げていた。即座にそれを脱いで投げ捨てる一真。
「お気に入りの上着が」
 そう言っている間にも男の拳は一真の顎を恐ろしく強い力で打ち上げるように叩く。一真はその力を受けて宙へと漂いそして地に落ちる。力すらも入らずに何も出来ずにただ寝転がっているのみ。
「雑魚め、次でとどめだ」
【立ち上がれ】
 その声を聞いた男は目を丸くする。
「呪いと傘……まさかお前ら唐津家と前原家か」
 驚く男の目の高さにビニール傘の剣が突き付けられ、その傘を持つ男は少し頼りない顔立ちだが整った顔をしていた。
「あぁ、そうだ」
「しかし、おかしいぞ! 何故唐津家の方は女で傘は安物なのだ」
「二世だからだよ、覚えてろ」
 その言葉と共に突き出された傘、それによって男は飛ばされ地に尻もちをついた。
「殺す! 殺す殺す! 殺す!」
 男はいつの間に立ち上がったのか、例の高速の火の玉を撃つ構えを取っていた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
 その手の先には炎が渦巻きやがて火の玉を作っていく。
【壁に飛ばされろ】
 メガネをかけた少女のその声に従うかのように一真の身体は素早く飛んで壁に激突する。火の玉は目の前のかつて標的がいたところを直進して行きやがて消え去った。
【敵の元へ】
 痛みに集中力を奪われた一真の身体は男の元へと素早く進み行く。意思も示さぬまま敵に近付いていく一真はそれを知るや否や即気を引き締めて傘を握る手に力を入れる。

 3……2……1……そしてビニール傘は振り上げられた。



「さっきは本当に助かった。サンキュ、なゆきち」
 勝利の祝福、しかし那雪の表情は悲し気でありとても勝った者とは思えないのであった。
「どうしたんだよ、なゆきち」
 那雪はようやく重い口を開いた。
「どうして呪わなきゃいけないの……好きな人のこと」
「大きな不幸が起きないように小さな不幸を与えますって言い訳で呪うとんだ悪人だね、那雪は」
 その言葉を放ったのは1人の少女、その少女はニヤけ面を浮かべる。
「刹菜、その言葉を選ぶにしても言うタイミングってやつがあるだろ」
「いいの、一真。あんな事して優しくされる方がツラいよ悲しいよ」
 那雪は続ける。
「納得行かない。どうして私の魔法ってこんなのなんだろう」
 那雪は悩んでいた。己の能力というものに。一真は那雪の手を握って言った。
「助かったって。それになゆきちのビンタだと思えばサイコー」
「キモいな。那雪、あんなイジメられる事に快感を覚える変態なんて置いて行こう」
「そうね、流石にね」
 刹菜は顎に手を当ててふと思った事を口に出した。
「でも確かにネガティブ少女が不器用ながらに想いを届けて助けてくれてるって考えたらそそるかも」
「ちょっと! 刹菜さんまで変な事言わないで下さい」
 那雪は顔を赤くして刹菜を睨みつけていた。
しおりを挟む

処理中です...