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〈お菓子の魔女〉と呪いの少女

〈南の呪術師〉の呪い

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 月の光が注がれた澄んだ闇空の下、古びた家のドアは右へとズレていく。そこは〈東の魔女〉の住まう家。当然現れるのは魔女だと思っていた一真だったが現れたその人物は。
「私だ。那雪ちゃん聞いておくれよ。一真は今日の戦いで敵の前でおねんねしたんだって」
 つまり敗北、単純に力で負けただけの簡単なお話をドアの向こうに現れた刹菜が語る。
「それは言うな」
「仕方ないよ一真。勇人さんの魔法が凄く強いのは分かってたから」
 那雪は一度も攻撃を受けてはいなかったものの、那雪の身体に触れる寸前ミリ単位の距離で迸るあの力の波動だけでも危ない力だということは分かっていた。
「ところで、何の用?」
 一真は那雪の状態について説明した。
「なゆきちは魔法が使えなくなった。〈南の呪術師〉の呪い魔法の魔法封じを食らったらしくて」
「ははっ、魔法の使えない魔法使いってなんて呼べばいいのやら。叱られたいたずらっ子とでも呼べばいいか」
「どんな例えだそれ」
 那雪は俯いていた。その表情はメガネの逆光に隠れて見えない。
「また私が迷惑かけてしまって」
「いいのさ、寧ろ迷惑かけて甘えちゃえよ、一真がイケメンハートで助けてくれるから」
「刹菜にとって俺どんな風に写ってるんだろ」
 刹菜は例のニヤけを浮かべる。
「那雪ちゃんの王子様、白馬を買う金がないから那雪ちゃんを連れ歩き回す情けない王子様」
「めちゃくちゃカッコ悪いなおい」
 そんなやり取りに那雪は少しだけ笑った。
「そうね、敵の前でおねんねする少し情けない王子様よね」
「なゆきちまで……」
 突然、これまで聞こえていなかった声が響き出す。
「あら、那雪ちゃんじゃない。上がって上がって、私が一夜にして幸せにして差し上げるから」
「黙れエロ魔女」
 一真の言葉に屈する事なく〈東の魔女〉奈々美は続ける。
「ほらほらあそこの人の顔見ずに脚見るような下向きぼうやは置いておいて私と遊びましょう」
「うるせえ、めっちゃ顔見てるから。メガネかけた女の子とかめちゃめちゃ可愛いから」
 どうやら那雪は一真の心に罪深い程に深い恋の感情を植え付けてしまっていたよう。
 ようやくみんな家に上がって本題へと入っていく。本題に入らずに挟まれた閑話はようやく休題へとありつけたようだ。
「サウスステラの呪いね。那雪ちゃん、気配たどれないかしら」
「はい、やってみます」
 那雪は目をつぶって手を伸ばす。己にかけられた呪いが注がれる方向へと振り向いて伸ばしていた手を握り締め、呪いの力の糸をつかんで辿り始める。家の外へと伸びて宙を漂い、そして途絶えた。
「たどれませんでした」
「だろうね、気配消の一つくらい出来なきゃとっくに勇人とかいう甘ったれフェイスに狩られてるって」
 刹菜の言うことはもっともであった。
「こうなったら探すしかないな。私と満明がデートのついでに探しとくから」
「なんでデートがメインなんだ」
 そうして特に収穫の一つもないまま3人はそれぞれの道を歩み始めるのであった。
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