呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭

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〈お菓子の魔女〉と呪いの少女

朝から元気な刹菜さん

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 朝日は昇り空は明るく染まる。那雪の心情がどうであれおかまいなどありはしない。役立たずを自覚している那雪は心に黒い暗い霞を漂わせながら鏡に映る自身の顔を眺める。そこに映るのは特に整っているわけでもなければ人目を引く特徴もなく、言わば魅力を見つける事さえ出来ない顔。
「みっともない」
 そう呟いてメガネを外して顔を洗う。奈々美は年頃の少女だと理由だとして、一真が那雪に心惹かれている理由を全くもって理解出来ないでいた。重い想いを水で無理やり洗い流して白くて心地よい柔らかさを持つタオルで顔を拭き、メガネをかけて再び顔を眺めた。
「……みっともない」
 結局暗いものは洗い流せないまま朝食をすませて学校へと向かった。空は明るく那雪とは対照的。今の那雪にとってその空はあまりにも眩しすぎた。
ーどうしてこんなにみすぼらしいのかな、私ー
 良い想いなど特に持たない那雪。暗い想いに引っ張られて実感すら薄い中で歩いている感覚はまさに夢うつつ。
 歩いている途中に手を振る少女がいる事など気が付かずに通り過ぎていく。
「無視か、もしやそうやって気を引く練習か? 一真ならそんなに頑張らなくても惚れてるから」
 朝から明るい刹菜の言葉は今の那雪では胃もたれを起こすほどの重さであった。
「おはよう、那雪ちゃん」
 淡い日差しに照らされた栗色の髪の少女は心底美しいと思えた。
「おはよう、洋子さん」
 洋子は那雪の頬を両手で挟む。その時の表情はとびきりの笑顔であった。
「洋子ちゃんって呼んでよもう。那雪ちゃんともっと仲良くなりたいの」
 那雪は洋子の優しさにアテられたせいだろうか、気が付けば笑顔を浮かべていた。
「仲良くなりたいなんて久々に言われた」
「そうか、那雪ちゃんは髪の色みたいに暗いから仕方ないな」
「もう、刹菜ちゃんったらそんなこと言ったら那雪ちゃんヘコんじゃうよ」
「私にタメ口とは那雪ちゃんより分かってるな。お菓子みたいな名前といい栗色のキレイな髪といい口調に性格にホント可愛いなキミは」
 洋子の笑顔はますます明るくなるばかり。
「可愛い名前でしょ。どこかの特産品の羊羹みたいな名前に髪の色もモンブランとお揃いなの」
「ははは、そりゃいいね。身も心もお菓子に支配されてんだ」
 そんな言葉を聞いていた那雪は刹菜に注意する。
「いい加減にしてください。洋子ちゃん、この人はよくふざけているだけだから」
「ええ、分かってるよ」
 明るい2人は那雪の手を引いて学校へと歩き出した。



 それはあるカフェの中。白い部屋は清潔感あふれる空間で、あるテーブルに2人の男が向かい合って座っていた。片方は優しそうな顔をした男、勇人。もう片方は鋭い目付きの男、日之影 怜だ。
「よお、魔女は狩れてるか」
「全くダメだよ。俺ももっとしっかりしなきゃな」
 怜はコーヒーを啜り味を堪能する。
「相変わらずここのコーヒーはうめえじゃねえか」
 その言葉に勇人は何も答える言葉が思い浮かばなかった。
「どうした? あんなにコーヒー好きだっただろ。妹が淹れたコーヒーとか特にな」
 勇人は全てを自白する事にした。
「実は俺が持ってる力は使う度に俺を人じゃなくするみたいでさ……もう味も香りも分からないや」
「じゃあ今のお前にとってはコーヒーはただの黒い水だな」
 勇人は頷いて怜に話したい事を続ける。
「怜。もし良かったら魔女を倒してくれないか」
「魔女? おもしれぇ、どんなやつだ」
「俺が倒そうとしてるのが〈東の魔女〉なんだけどさ、最近〈お菓子の魔女〉っていうのも暴れてるんだよ。倒したと思ったんだけど何がどうなってるのか生きてるんだ、もし良かったら〈お菓子の魔女〉を倒して欲しい」
 怜は目付きを更に鋭くした。
「いいや、俺はこの前〈東の魔女〉とその仲間にコケにされたんだ。俺が〈東の魔女〉を倒す、いいな」
 そう言い出した怜は止められない止まらない。勇人は額に手を当てて首をゆっくりと振り、そして説得などするまでもなく諦めたのだった。
「分かったよ」
 怜の目付きは鋭く輝いていた。まるでその戦いを待ち望む意思を表しているように。
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