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〈お菓子の魔女〉と呪いの少女

お泊まり会

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 刹菜に促されて帰り行く那雪と洋子。この2人の下校は実に楽しそうなものであった。
「那雪ちゃん今日暇?」
「……暇」
「じゃ、私の家に泊まって。お泊まり会がしたいよ。友だちなんて久しぶりに出来たから」
「洋子ちゃん本当に友だちいないの? もしかして彼氏がいるから友だち作らなかったなんて」
「那雪ちゃんそれどんな人」
 気の抜けた会話はあまりにも気が抜け過ぎていて気の抜けた様子がダダ漏れであった。
「それにしても洋子ちゃんは可愛いのにどうしてそんなに気味悪がられるの?」
「知らないよ。考える事ももうやめちゃった」
 片目を閉じてそう言ったものの、そんなポーズを決めながら話す事でない事など今日の会話の何よりも明白であった。那雪は紡ぐ言葉を見つけられずに口を噤む。
「あっ、ここが私のお家だよ。お母さんも死んじゃってもういないから気楽だよね」
 そう語る洋子の声に夕暮れのような色を見て、ますます言葉が出て来ない那雪であった。



 コンソメスープの香りが那雪の食欲を突いて来る。豚のしょうが焼きを見て食欲が引っ張られて来る。少し柔らかめのご飯は湯気を放ち、那雪は思わず言った。
「洋子ちゃんの手料理美味しそうね。早く食べたい、洋子ちゃん」
「いいよたんとお食べ、私の愛しいお友だち」
 特に飾りのある家でもなく、とにかく清潔感あふれる白い部屋。それが小城家のようだ。白い部屋に木製のテーブル。単純だからこそ変わり映えのある光景、料理は目立ち食欲を必要以上にそそるのであった。
「そう言えば洋子ちゃんの家って殆ど何もないのね。本も無ければCDもなくて」
 洋子はただ笑顔を咲かせた。
「食べるだけだよ。朝ごはんの菓子パンも夜のラスクも」
 それは本気で思った事なのだろうか、洋子の表情からは全くもって想像もつかないでいた。
 そんな会話を交えた美味、素敵な晩ごはんの後で洋子は冷蔵庫から1本の瓶を取り出した。その瓶の半分程を満たすその飲み物はレモネード。
「知ってる? ラムネの名前の由来ってレモネードなんだって」
「知らなかった」
 那雪は素直に驚いていた。
 そんな会話から味わい始める初めてのレモネード。那雪はそんな洒落た飲み物を飲んだことなどありはしなかった。
「美味しいから飲んでみて」
 那雪は嫌いな食べ物は3つ程しかなかった。チーズ入りのはんぺんにウインナー、そして卵焼き。レモネードからそんな味がするはずもなく、那雪は透明なコップに注がれたそれを安心して味わう。
「美味しいね」
「でしょ? 私の好きなものだよ」
 そんな会話の中、那雪はある事に疑問を覚えたのであった。この会話とは全くもって関係ない事、勇人に追いかけられる魔女。その魔女である洋子の母親は一体どのような最期を遂げたのであろうか。那雪は妙な胸騒ぎに満たされて、それを吐き出す事が出来ないでいた。
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