呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭

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ホムンクルス計画

譲れない人

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 地を踏み駆ける一真、その身体の向かう先へ風を切り風景を後ろに流しある一軒家へと入っていく。
「奈々美、刹菜が攫われた」
 その言葉に余裕もなにもありはしない。
 奈々美は十也を居間に座らせたまま一真を連れて寝室へと向かう。タンスに押し入れ、そして畳。そんな落ち着く雰囲気の中で話を進めていく。
「で、私にどうして欲しいのかしら。助けに行けばいいの? 救いに行けばいいの? その間に十也が攫われたらどうするの」
「別にいいだろ。どうせ逃げて来たなんて嘘なんだろ。魔女研究所、あそこが子どもひとりで逃げ切れるような場所なわけな」
 その言葉を言い終える前に一真の頬に熱が走る。熱が痛みだと気が付くのに一瞬、そして己をはたいた奈々美に苛立ちを抱くにもまた一瞬。一真が口を開こうとするも先に怒りを向けて来たのは奈々美の方であった。
「どうして別にいいなんて言うの! あの子は私の大切な人なの! 例えばアナタが那雪ちゃんを攫われたらどう思うのかしら。私がそんなの放っておけばいいなんて言ったらどう!? どうだって訊いてるの!」
 奈々美は鬼のような形相で睨み付ける。大切な人の為なら鬼にでも悪魔にでもなろうという意志に一真は貫かれていた。
「そうよね、私の譲れない人が攫われてもいいのならアナタの那雪ちゃんが攫われても放っておけば良いのでしょ?」
 一真は表情を歪め、奈々美の胸ぐらをつかむ。そんなことをされたにも関わらず奈々美の方はといえば表情から感情をかき消して冷たい目で一真を見下すだけであった。
 そんな奈々美の元に駆け寄る少年が一真に向かって叫ぶのであった。
「奈々美を怒らせたな! ボクはお前なんか絶対許さない」
 奈々美はそんな十也を抱えて冷たい瞳で一真を捉える。
「出て行って、もうアナタがどんな人なのか分かったからもう関わらないで」
 一真は大人しくその場を立ち去る他なかった。



 そこは無機質な部屋、和服を着た美しい女性、鹿島 志乃。彼女は長身の女性と話していた。長身の女性、〈北の錬金術士〉エレオノーラ・セヴェロディヌスカは語る。
「ホムンクルス計画に必要な人々は殆ど揃ったの。地獄から魂を召喚出来る歌魔法の使い手の伊万里 刹菜、この世に在る亡霊を使役出来る〈亡霊の魔女〉天草 綾香、残すのはホムンクルスの魂だけを殺す事の出来る〈人形の魔女〉肥前 貴理子だけなの」
 その言葉に志乃は首を横に振る。
「杜撰な管理でも運営出来る素晴らしい施設なのですね、エレンさん」
 エレオノーラ、志乃の呼ぶところによるエレンは首を傾げて訊ねた。
「何が言いたいの?何か管理が雑な事は分かったけどあなたの言葉は難しいの。数ある方程式のどれよりもずっとずっと」
「あなたの施設の管理が杜撰なのだと気が付けた、それだけでも大きな進歩だと思いますよ」
 そうして立ち去る志乃。施設のホムンクルスが連れ去られているという事実にエレンが気付いたのはそれから2時間程後のことであった。
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