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ホムンクルス計画

戦え

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 魔導教団の演説が終わると共に飛び出す一真。ビニール傘を構えて突撃していく。
ー一般人? 知るか、俺は行くんだ戦え!ー
 演説をしていた男は驚きのあまり仰け反っていた。
ーとにかく倒すぞ、戦え!ー
 一真の足は床を離れ、一真の肩程までの高さがあるはずのステージを踏んでいた。驚く一般人たちを背に一真は男の元へと走っていく。
ー戦え!ー
 走り走り傘を振り、狙われし相手は尻もちをつく。
 そうして着いた勝負の結果、一真は男に傘を突き付けていた。
「教えてくれ、復活の手段の事実を」
 知っている事をわざわざ訊ねる一真。知らないふりこそが最大の武器。それに対して男は震える声で答えた。
「わ……分かった。だからまずは一般人を帰していいか」
 一真は頷いた。男はマイクを構えて言った。
「見たでしょうか、あの跳躍力。そう、魔法は実在するのです」
 この戦いの一部始終すらも布教の為の材料と化してしまうのだ。一真は流石に呆れていた。
 それから一般人たちは帰り、恐らく何人かは実際に入信したに違いない。
 一真は再び訊ねた。
「で、お前は知ってるんだよな、復活の事実」
 男は全ての事実を話した。ホムンクルス計画の細かい内容から魔女研究所の場所まで。
 一真はそれをメモ帳に書き綴って立ち去るのであった。



 風の吹く夜、更に強い風を吹かせながら日之影 怜は目の前の若者、若葉 勇人に風に乗せた言葉で問う。
「行くのか? 俺の助け無しでやれるってのかぁ?」
 切れ長の瞳の怜と優しそうな顔をした勇人。戦いに行きそうな方を挙げるならば確実に怜の方であろう。
 しかし、事実は反対であった。
「ああ、行くよ。俺はスズカに戦わせたくないから」
 怜に対して勇人はひとつの頼みを放り込む。
「怜、もしも俺が死んだらその時はスズカを頼んだよ」
 怜は舌打ちをしながら言った。
「死ぬとかどうとか言ってんじゃねえ。てめえの大事な妹はてめぇで守れ。だがどうしてもってなら時が来たら考えてやる」
 頼んだよ、その一言はとても冗談とは思えないのであった。
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