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ホムンクルス計画

〈東の魔女〉の行動

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 ふたりの男が倒れているのを見て奈々美は素早く走っていく。早く速く夙く疾く、時が過ぎれば資料や薬は失われてしまう。速く走らねば恋人と想いは喪われてしまう。焦りは余裕を押し潰して隅へと追いやる。
 奈々美は無機質な廊下を走る。それはかつて通った道、そしてこれから通る道。駆け抜けて、行き着くそこは始まりの場所。十也を連れ去ったあの場所。そこには例のガラスの破片たちもかつて十也の身体を沈めていたあの薬も見当たらない。周囲には机も資料もなく、明らかに手がかりの掴める要素がひとつたりとも存在しない。
ー一体どこに手がかりがあるのかしらー
 探すべく今の部屋へとを飛び出して、再び走り出す。そこで見た光景は金属の床の真ん中でバラバラの骸骨たちに囲まれて眠るように倒れている少女。
「そう、負けてしまったのね」
 そして邪魔な骨を蹴りながら進んでいく。
 この先に何があるのだろうか、魔女の大きな気配を感じていた。
「もしかして〈亡霊の魔女〉かしら」
 奈々美はその気配が漂ってくる根本である根元の部屋へと入っていく。その中では〈亡霊の魔女〉天草 綾香が縄で縛り付けられていた。
「そうね、この子を解放した方が都合いいわね」
 それから奈々美はポケットから葉を取り出して綾香に向かって放り投げる。
 その葉は美しく、そして硬くなっていく。そしてすすみ、綾香を縛る縄を引き裂き美しき和服の少女に自由の2文字を与えるのであった。
ーさあ、探しましょー
 綾香が目を開いたその時、奈々美の姿は既にそこにはなかった。
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